え?これって結婚詐欺? 【12】

代表の話によると、ハルがサークル内の女性数人からお金を借りていた……というのだ。

借りていたと言っても、その女性が自らすすんで出してしまったと言ってもいい。

返済の期限など、具体的な事を聞いている人は誰もいなかった。

一人100万程度は貢いでしまっていたとのこと。なかには300万なんて人も。

そうね、学生ではなく働いていたら、それくらい貯金がある人もいるかもしれない。


つまり、ハルこそが、ロマンス詐欺や結婚詐欺を行っていたということ。

――ハルは結婚詐欺師だったの?

私のことも騙そうとしてたの?いいカモだと思っていたの?

でも、私はお金の要求をされていない。

「ミホさんにお金を請求する前に、サークル内で問題になって、ミホさんにもバレると思って、姿を消したんじゃない?」

そんなふうに代表が言っていた。

そうなのかもしれない。

――私は違う。カモなんかじゃない。そう思いたい。

でも、実際、ハルとはまったく連絡が取れていない。



それから数日後、また、サークルのチャットに入ってみた。

豆太郎、きりん、あおちゃんの三人がいつものように参加していた。

「あ、ミホ」

私が入室したのに気付いて、きりんが声を掛けてくれる。

「こんばんは」

それぞれが他愛もない話をして一息ついたころ、あおちゃんが恐る恐るという感じで、書き込んできた。

「ねえ、みんな。聞いた?ハルのこと」

「ハルのこと?」

きりんが聞きかえす。

「うん。問題起こしたからどうとか」

「ああ、うん。俺聞いた」

豆太郎が反応した。

「ハルがサークル内の女性にお金を貢がせてたって」

「ええ?」

なんか、何も知らないらしいきりんが驚いている。

「そうらしいの。それも、一人じゃなくて何人も」

あおちゃんが書き込んだ。

「あおちゃん、どうして知ってるの?」

疑問を投げかけてみた。

「実は、代表から聞かれて。――ハルに何か要求されていないかとか」

「ええ?そうなんだ」

あいかわらず、きりんが話について行っていないようだ。

「うん。ほら、一応、私たち四人で仲良い感じだったじゃない?だから、もしかして、私も騙されていないかと思ったんだって」

「あおちゃんは大丈夫だよね?」

きりんが心配そうに聞いている。

「うん。だいたい、ハルってちょっと近寄りがたかったし。結局、あまり親しくなれなかった」

「そうか。まあ、良かった」

「うん」

「親しくって言えば、ミホの方がハルと親しかったんじゃない?」

豆太郎が私に話を振った。

「あ、うん。でもね、私、お金を要求されたことは無いよ」

「そう、良かった」

「でも、連絡は取れない」

「連絡取らなくていいよ」

「そうだよ」

三人にそんな風に言われてしまった。

「それにね、代表が言ってたんだけど。ハルはその、ロマンス詐欺だか、結婚詐欺のようなものをやっていてね」

あおちゃんが続ける。

「サークルで貢いでくれそうな相手を見繕っていたみたいなの」

「へえええ」

きりんが変な声を上げている。文字だけだけど。

「まあ、分かるよね。ハルって変な魅力があったからさ。魅かれる女性は魅かれるよな」」そう書き込みながら、豆太郎が頷いているのが見えるようだ。

「でも、まあ。あおちゃんとミホの二人が巻き込まれなくて良かったよ」

きりんのその言葉が頭の中で重く降り積もっていた。



しばらくして、ハルが逮捕されたことを知った。

その記事が、SNSの片隅で、ほんの少し話題になっていた。

ハルの本名は浜田悟というらしい。私が聞いていた名前とは似ても似つかない名前。だけど、そのSNSに晒されていた写真は、まさしくハルそのものだった。


ハルは、その結婚詐欺師グループの頭だった。

つまり会社で言えば、ハルは社長。けっこうな人数の部下を操っていたらしい。

そして、社長みずからも、直接女性からお金を巻き上げていたと。

そう、その記事は語っていた。



会社のデスクに座って、目の前のパソコンを見つめる。

マウスを持つ手はずっと動かないままだ。

「高橋さん?大丈夫?」

目の前の磯部さんが私の顔を覗き込む。

ここ一週間ほど、毎日そんな風に私の様子を気遣ってくれている。

「大丈夫です」

そう答えて、仕事に意識を戻す。

仕事。仕事があってよかった。

少しの間でも、ハルのことを考えなくて済む。何かしなくてはいけないことがあるというのは、ある意味、救いでもある。


しなければならないことが何もなくて、家に閉じこもっていたらいったいどうなってしまっていたか。

考えると恐ろしい気がする。


仕事終わり、エレベーターの前に立っていると、視界の端にこちらに向かって歩いてくる杏奈が見えた。

――ああ、杏奈だ。

そう、いつもここ、エレベーター前で会うのよね。

まるで、遠い昔の友人に会ったような感覚で、すっかりと痩せてやつれてしまった杏奈を見た。


~ to be continued ~

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