え?これって結婚詐欺?【10】


ハルと連絡が取れなくなって、一週間が過ぎた。

いったい、どういうことだろうか。

違う、違うよね。そんな、國枝さんみたいなことはしないよね。

何かの事情があって、連絡できないだけ――そんな希望的な観測をしてみる。

でも、そう、だって、私はハルにお金を要求されたこともなければ、1円たりとも渡したことがない。

結婚詐欺とかそういうレベルまでもいっていない。


いつ来るとも分からないハルからの連絡を待ちながら、自分の部屋のベッドに腰かけてスマホを手に取る。

思わず、検索欄に“結婚詐欺”の文字を入力している自分がいた。

嫌だな。違う、違うって。焦ったように首を左右に振った。

ふいに、スマホが震えた。電話、着信だ。

食い入るように見たスマホの画面には、“結婚相談所 小林さん” の文字。

――なんだ。小林さんか。

そういえば、このところ、結婚相談所のアプリを開いてさえいない。

お見合いの申し込み通知が何件か来ていたのは、知っていたけれど。

うん。まあ、それどころではなかったし。ハルがいたし。ハルと上手くいっていたから――。

そう、上手くいっていたのに。

いったいどうして。


一度、呼び出しが止まって、再度小林さんからかかってきた。

そうね。出ないとね。

「はい」

「あ、高橋さん?小林です」

「はい。すみません。あまり連絡できなくて」

「ええ。そう。どうしているかと思いまして。今、お時間大丈夫ですか?」

「あ、ええ、はい」

「何人もの素敵な方からお見合いの申し込みが来てますよ」

「ああ、ありがとうございます」

「そろそろ、申し込みをうけるかどうかのお返事をしないといけませんし」

「はい」

「……その後、いかがですか?……あの、気になっている方とは?」

小林さんの声が遠慮がちに少し小さくなった。

「ええ。まあ」

「順調なら、いいんですけど」

「はあ」

「もう、お見合いをする気はないですか?その方とお付き合いすることになったのでしょうか」

「あ、いえ、そういうわけでは」

「では、このお見合いを申し込まれた方とも、お会いしてみてはいかがでしょう?」

「今は、ちょっと」

「……こう言ってはなんですが、高橋さん、声に元気がないですよ。気分転換にいかがです?」

確かに、覇気のない返事をしている自覚はある。

「でも」

「とにかく、彼らのプロフィールご覧になってください。お見合いをするかどうかお返事お待ちしてますね」

「はい……」

小林さんには悪いけれど、今はハル以外の他の誰とも会う気にはならなかった。

ハル、どうして連絡くれないの?どうして、何も言わずに電話番号を変えたの?どうして、LINEがブロックされているの?


とにかく、ハルの声がききたかった。ハルに会いたかった。


振り切るように顔を上げると、お見合いを申し込んでくれた方のプロフィールに一通り目を通す。

やはり、お断りの連絡を入れることにした。

確かに、いい人ばかりだった。経歴も職業も、そして性格も見た目も。

一応、小林さんにも電話を入れる。

「すみません。やっぱりちょっとしばらくはお見合いはやめておきます」

「そう、ですか」

「とても良い方々だったのですが……」

「そうでしょう?私は○○さんがおすすめですよ」

「ええ。素敵な方ですね。それこそ、結婚相談所に入らなくてもお相手を見つけられそうなのに」

「ふふ。確かにそうですね。でも、皆さん、より良い出会いを求めてらっしゃるんですよ」

「はあ」

「高橋さんは、その、気になっている方とはどこで出会われたんですか?」

「え?」

「あ、ごめんなさい。嫌だったら、もちろん答えなくていいですよ。聞き流してください」

ハルとの出会い。そう、ハルとはネットサークルで会ったんだ。

杏奈がネットサークルで素敵な彼と出会えたからって。

私も入ってみようなんて意気込んで。


ネットサークル。

ああ、そうだ。ネットサークルがあるじゃない。最近、全然参加していなかったけど、私がハルと出会ったネットサークル『ちょっとオシャレにみなとみらい』。

そこで聞けば、何かハルのことが分かるかもしれない。


「あ、ごめんなさい。ちょっと用事を思い出して。とりあえず、今回はお見合いはやめておきます」

そう言って、慌ただしく小林さんとの電話を切った。


~ to be continued ~

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