え?これって結婚詐欺? 【3】
そのまま、ふらふらとハルの手を握りながら歩いた。
「なに食べたい?美帆」
「うん。なんでもいい」
「なんでもいいが一番困るってよ言うよね」
からかうようなハルの声。
「いいの。なんでもいいの」
「分かったよ」
キュッとハルが私の手を握りなおす。
くいっと引っ張るようにして路地を曲がってしばらく行くと、ちょっと洒落た小料理屋についた。
あれ?日本食?
ちょっと意外だった。
ハルは何回も来たことがあるらしく、慣れた様子でお店の人と話している。
「こちらへどうぞ」
格子模様の和服をきた仲居さんに案内されたところは、畳敷きの個室だった。
季節の花が飾られていて、とても洗練された落ち着いた空間にしつらえてある。
「なんか、すごく素敵なところね」
「なかなかいいだろ」
「うん。でも、そのお高いんじゃない?」
「そうでもないよ」
そう言いながら、ふっくらとした座布団に軽く胡坐をかいて座る。
テーブルを挟んで向かいに私も腰を下ろした。
仲居さんがお冷を持ってやってくる。
「とりあえず、ビールでいいよね」
ハルがそう言いながら、おつまみのようなものを何品か注文した。
その後運ばれてきた、ビールと美味しい料理で一息つく。
他愛もない話が一段落して、ちょっとほろ酔い気分になってきた。
「美帆、今日はいつもと少し違うね」
「違う?」
「おしゃれしてる?」
ああ、そう。ハルに会うからね。
「ハルは?いつも通りだね」
「それって不満?」
「ううん」
ハルはハルらしくて。いつも通りで。
結局、ハルがちゃんと仕事をしているのかも分からないし。得体が知れないし。
「ハルって、今日はお仕事してきたの?会社員だもんね。サラリーマンは金曜日もお仕事だよね」
なんか、くだを巻いているような言い方になってしまっていた。
でも、うん。お酒も入っているし、あまり考えて喋れない。
「美帆はお仕事してきたんだよね。忙しかった?」
また、はぐらかそうとしている。
そうだ。うん。杏奈の話をしてみよう。
ハルがどんな反応するかしら。
「実はね、今日、ちょっと遅れちゃったのは、友達の相談に乗ってて」
「へえ」
「なんかね、彼が仕事でミスして、お金が必要だとかで」
「うん?」
「友達が工面するとかなんとか」
「え?それって大丈夫?」
「――だよね。その反応になるよね」
「だって、まあ、怪しいよ」
「そうなのよ」
このハルの反応はどうなの?いたって普通、だよね。
すぐにそんな詐欺だと思うのは、ハルもそんな部類の人だから?
いや、それはないよね。
「ハルはどう思う?手口としてよくあるの?」
「どうして、俺に聞くの?」
「ハルは良く知っていそうだから」
「そう?」
そう言って軽く笑いながら、ハルの指が私の口の端をかすめた。
――は?
「え?な、なに?」
「いや、胡麻が付いていたから」
胡麻?え、胡麻?たしかに、今食べたほうれん草のお浸しのようなものに胡麻がまぶしてあった。
「まだ、ついてるよ」
ハルの手がまた私の方に伸びてきて、その頬を包み込むようにする。
ハルの顔が近づいてきて、私の口の端をペロッと舐めた。
え?――ええ?
「ハ、ハル?」
たぶん、真っ赤になっているだろう私。
瞬きしながら、ハルの顔を見た。
フフッと笑いながら、ハルが私に口づけた。
そのまま、くいっと私の顔を持ち上げるようにしながら、ハルが私の唇をついばんでいる。
今、私、ハルとキスしている。
これは、現実なんだろうか。
しばらくして、ハルの唇が離れた。
閉じていた瞳を開くと、ハルの顔がぼうっと見える。
「美帆はかわいいね」
そんな風に言いながら、私の頬を両手で包んでいる。
「テーブルが邪魔だよね。こっちおいで」
そう言われて、フラフラと立ち上がってしまったのはなんでだろう。
ああ、こんな時にも、ハルからはやって来ない。
そんな風に思いながらも、テーブルを回ってハルの隣に来てしまった。
すとんっとそばに座り込んで、ハルの端正な顔を見上げる。
~ to be continued ~
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