え?これって結婚詐欺?【2】
ポツポツと雨が降り出した。
あと少しで駅に着くという所。
折り畳みの傘は鞄の中にあるけれど、傘を取り出すかどうか躊躇してしまう。
杏奈はどうするだろうとその横顔をみる。
「杏奈」
その時、10メートルほど先の、駅の入り口の前に立つ一人の男性が杏奈に声を掛けてきた。
パッと顔を上げた杏奈がその男性を見る。
「聡志さん」
ほんの少しほっとしたような表情で、杏奈が小走りにその男性に近づく。
その男性が持っていた傘を開いて、杏奈に差し掛けた。
少しパーマのかかった短い髪。前髪はパラパラとほんの少し目に掛かっている感じ。ダークブラウンのスーツを着こなしてかなり洒落ている。
誰だろうって言うまでもなく、その彼なんじゃないかなって思った。
私が二人の傍に歩を進めると、杏奈が振り返って私を見た。
彼も私に視線を向けている。
杏奈は私が追い付くのを待って、少し嬉しそうに口を開いた。
「美帆、この人がお付き合いしている國枝聡志さん。こちらは同期の美帆。たまに、私の話に出てくるでしょ?」
杏奈が交互に彼と私と差し示す。
「こんにちは。いつも杏奈がお世話になっています」
國枝さんという杏奈の彼が軽く頭を下げる。
「いえ、こちらこそ。杏奈とは仲良くさせてもらってます」
そんなふうに返した。
背の高い彼が、少し背中を丸めて杏奈に話しかける。
「杏奈、これから時間ある?」
「え?うん」
そんな会話が聞こえてきた。
「ごめんね、美帆。私が相談したいって言ったんだけど……」
杏奈が申し訳なさそうに、私を見る。
「あ、いいのいいの。私も用事があったし」
「そう、そう言ってたんだよね。ごめんね、美帆。忙しいのに引き留めてしまって」
「すいません」と、彼が頭を下げている。
「ううん、じゃあ、失礼します。杏奈、またね」
そそくさとそう言って、二人を追い越すようにして改札を抜けた。
なんか、良かったのか悪かったのか。
杏奈を迎えに来るなんて。今まで、杏奈の方が彼の行きつけのお店やらなんやらに喜んで出向いていたのに。
やっぱりなんか怪しくない?
いや、今は杏奈のことを考えている場合じゃないし。
これから、ハルに会うんだから。
杏奈に付き合ってゆっくり歩いていたから、待ち合わせの時間に間に合いそうもない。
『10分くらい遅れそう。ごめんなさい』
そんなラインを送って、電車に乗り込んだ。
『了解。待ってる』
相変わらず短い返信が帰ってきた。
それだけで心臓がドキンっとなる。
ーーハルが待っている。ハルに会える。
いざ、待ち合わせのロープウェイ乗り場の前に着くと、はたして、ハルはいなかった。
――え?どういうこと?
キョロキョロを辺りを見回す。
ええ?私が遅れるからって、どこかへ行っちゃった?
やだ。どうしよう。
遅れなければよかった。お人好しよろしく、杏奈に付き合っていなければよかった。
呆然と、待ち合わせ場所に立ちつくす。
ああ、そうだ。
連絡しよう。
我に返って鞄からスマホを取り出した。
焦る指でスマホのロックを解除する。
その時、ひょいっと目の前に黒い影。
反射的にスマホから視線を上げる。
「おつかれ」
え?は?ハル?
「美帆」
そう言って、くすっと口の端を上げて笑った。
「……ハル」
「いないと思った?」
うんうんと首を上下に振った。
「脅かそうと思って」
少し首を傾げて見せる。
黒目がちなハルの瞳が細められた。
思わず、スマホを右手に持ったままハルに抱き着いていた。
「美帆?」
ちょっと不思議そうな声を出しながらも、私の腰に腕を回すハル。
「……ハル、私が来ないから、帰っちゃったのかと…」
「美帆、LINEくれたじゃん。遅れるって」
「でも……」
ハルの胸におでこを付けたまま、ポツポツと話す。
なんか、少し恥ずかしい。
でも、ハルは手慣れた様子で、私の腰を支えている。
~ to be continued ~
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