結婚相談所?それともハル? 【7】

はい?え?ハルだ。

何が、今日は会えなかった、なの?ハルが予定を入れてしまったんでしょう?

どうせ、いくらでもいる彼女?と会っていたんでしょう?

いや、でも、最初に私が日程を変更してしまったんだけど。


ああ、もう。頭が混乱する。


「高橋さん?」

小林さんの声。

「あ、すみません」

慌てて謝った。

「高橋さん。その好きな人からの連絡でもありましたか?」

はあ?小林さんはエスパーなの?

「え、いえ」

「でも、声が、心なしか弾んでますよ」

――声に出てたか。

私が黙っていると、小林さんがふっと溜息をつくように付け加えた。

「いいですか。その人はどんな人なのか、冷静になって考えてみてくださいね。――では、失礼します」

そう言って、小林さんの電話は切れた。

――ハル。

いったい何を考えているのだろう。

本当にただの友達扱いなのだろうか。


ピロン

今度は結婚相談所の自動連絡システムから。

新しく二人の方からお見合いの申し込みがあったとのこと。


ありがたい。こんな私と会ってみたいと思ってくれるなんて。


そうだ。そうなんだ。ハルより素敵な人。いくらでもいる。

自分のことを極力話そうとしないハルよりもずっと信頼できる人はいっぱいいる。

でも……。


『いつ、会える』

操られるように、そう返信してしまっていた。

『今度の金曜日は?』

『仕事終わりなら』

『じゃあ、このあいだ待ち合わせたところで7時に』

『わかった』

短いラインのやり取り。


金曜日。健全な昼間にって言うのは、とっくに意識のはしに追いやられている。


「金曜日……」

思わず、口に出してしまっていた。


淡々と仕事をこなす平日が過ぎて、その金曜日。

やっと……だ。

やっと金曜日だ。浮かれた気分を紛らわすように、ほんの少し残業をして、帰り支度をする。


少し、いやかなりオシャレをしている自分を化粧室の鏡に映した。

いつもはしないような少し濃いメイク。この間、買ったばかりの流行りのちょっと大人びた服装で。

さあ、よし。行こう。

よく分からない気合を入れて、いつものエレベーターの前に立つ。


なかなか来ないエレベーターを待っていると、視界の端に見覚えのある姿。

ああ、杏奈だ。

まあ、なんか。杏奈とはエレベーター前で会う運命なのよね。

軽く手を上げて合図をする。

あ、あれ?杏奈がぼうっとした表情で、トボトボと歩いてくる。

いつもなら、子犬のように近寄って来るのに。

ゆっくりと私の傍までやってきた。

「杏奈?どうしたの?」

思わずそんな声を掛けてしまった。

「美帆」

「なんか、元気ないじゃない」

「……うん」

素直にうなずく杏奈にびっくりする。

「え?本当にどうしたの?」

「美帆……。どうしよう……」

「え?な、何が?」

「彼が、大変なの」

「あ、彼って、あのIT社長の?」

「うん」

「大変って?」

「彼、なんか、大きなミスをしてしまったんだって」

そう言って、今にも涙がこぼれそうな大きな瞳で私を見た。


~ to be continued ~

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