結婚相談所?それともハル? 【6】
ああ、そういえば、お見合いをしたその日のうちに、仮交際に進むかどうかの連絡をしなければならないんだった。
仮交際とは、まあ、お試し交際で。もう少し会ってみて、そして判断しますって言うこと。
それで、この人と結婚したいとなったら、真剣交際へ進む。
仮交際の間は、他の人とお見合いしてもいいし、他の人と仮交際してもいい。
どうしよう。お医者さま。性格も穏やかで優しそう。将来は安泰だと思われる。
このまま、終わりにしてしまうのは、もったいない。もったいないよね。
「あの……」
私が話し出そうとした時、それを遮るように小林さんが口を開いた。
「高橋さん。実はですね、お相手の木下さんの相談所から先ほど連絡ありまして」
「はい」
「今回は、お見送りさせていただきたいと」
「……え」
「とても綺麗で素敵な方だったのですがって」
――は?あ、え?断られた?
私、断られたんだ。
断られることを全く考えていなかった私に自分ながら呆れてしまう。
どれだけ自信過剰なんだか。
自嘲気味の笑いが漏れる。
「ああ、そうなんですか。私、断られちゃったんですね」
「なんかね。高橋さんがちょっと心ここにあらずって感じで、自分のことをあまり真剣に考えてくれてないと思われてしまったようですよ」
「……そんな」
図星だ。さすが、お医者さまというところだろうか。
――そう、ずっと、ハルのことしか考えていなかった。
ごめんなさい。木下さん、とても失礼なことをしてしまった。
こんな気持ちのまま、結婚相談所で婚活を続けていいのだろうか。
そんなことが頭の中をめぐって、そのまま黙り込んでしまった。
しばらくして、ふうっという小林さんのため息がスマホから聞こえてきた。
「……あの、高橋さん。誰か、気になる人がいるんですね」
「え……?」
「分かりますよ。だって、態度がおかしかったですもの。日程をころころ変えたり、意見を変えたり。明らかに何かに振り回されている状態で。それは、やっぱり好きな人がいるっていうことですよね」
「は、あ、あの……」
ああ、認めざるを得ない。
「その方とは、上手くいっていないんでしょう?」
ズバッと、小林さんの声が真実を付く。
「だって、上手くいっていたら、お医者様の木下さんとお見合いはしなかっただろうし」
「はい……」
「こんなに、高橋さんがバタバタしていないと思うんですよ」
「ええ……」
「いいんですよ、高橋さん。好きな人がいても、お見合いしてくださって」
ハッとするような明るい声で小林さんが言い放った。
「え?」
「だって、好きな人と結婚することが幸せとは限りません。大好きな人と結婚しても、愛だけで乗り切れることなんてほんの少し。もし、その情熱が冷めてしまったら、現実が待っているんです」
「はあ」
「どんどん、いろんな人に会っていきましょう。そうしたら、高橋さんがこれぞって思う人に出会えますよ」
「そうですか?」
「ええ、それに、結婚に恋愛を求めていてはいつまで経っても結婚できませんよ。一緒に居て嫌じゃない。この人なら安心。そんな人と一緒になりましょうよ」
「一緒に居て嫌じゃない……」
誰かが言っていた言葉だ。
「高橋さんは今、その人に夢中なのかもしれません。でも、一度冷静になって考えてみてください。その人との未来。高橋さんは幸せになれますか?」
未来……ハルとの未来なんてあるのだろうか。
ハルが奇跡的に大富豪の御曹司で、優しくて、浮気しなくて、私を大切にしてくれる。
なんか、一つとして実現しないような気がした。
ピロン。
乾いた音と共に、小林さんとの通話途中にLINEが届く。
表示されたポップアップには、『今日は会えなかったね』の文字。
~ to be continued ~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます