結婚相談所?それともハル? 【5】


「ああ、日付を勘違いしていたんですね。僕も良くあります」


日曜日、お会いした木下さんという名のお医者さんはとても穏やかにそうおっしゃった。

にこにこと、まるで患者に対するように、私に向かって優しく微笑んでいる。

少し小太りのような体系だけど、それが似合うほんわかとした雰囲気を持っていた。


あれから、小林さんがお相手であるお医者さまの結婚相談所に平謝りして、日程をもとの日曜日に戻してもらっていた。


「本当にすみません」

何回目かの謝罪をした。

「いえいえ。高橋さんにお会いできて嬉しいですよ。そんなに気にしないでください」

「ええ、はい。すみません」

「ほら、また。謝らないでください。それよりも、楽しい話をしましょう。高橋さんは普段、休日は何をなさっているんですか?」

そう言って、目を線のようにして微笑みながら私を見た。

「ああ、ええと……私はたいてい、疲れてごろごろしてしまっていたり。ドラマを見たり本を読んだり。無駄に過ごしてしまっていることが多いです」

こう言ってはなんだけど、変にイケメンじゃない分、緊張しないでいられる。

私の返答に、木下さんがハハハッと声を出して笑った。

「僕もそうです。仕事の無い日ぐらい、のんびりと過ごしたいと思ってしまう」

「お忙しいですものね」

「そうですね。やっぱり、うん」

「開業をなさっているとか」

「ええ。地域の内科医をしてます」

「お若いのに開業していて。努力なさったんですね」

「いや、実は親の医院を引き継いだだけなんですよ」

「代々、お医者様なんですね」

「ああ、うん。まあ。そうですね」

ちょっとばつが悪そうに頭を掻いた。

ぼんぼんって言われて育ったのだろうか。親からの医者になりなさいって言うプレッシャーもあったのかもしれない。

「ご兄弟は?」

「姉が一人いるんですが、すでに嫁いでいます」

「そうなんですね。私も弟がいるんですが、この間結婚してしまって……」

思わずそんな話をしていた。

お医者さんの木下さんとは、けっこう話が弾んだ。


約一時間のお見合いと言われる顔合わせは、穏やかな雰囲気のまま進んで、お互い手を振って笑顔で別れた。

なんか、40歳とは思えない可愛い人だった。例えて言えば、くまのぬいぐるみみたいなかんじ。


別れた後、化粧室に向かいながら、スマホをチェックする。

――ない。

画面をスクロールしながら、LINEや電話の履歴を確認する。

ハルからの連絡はなかった。

あたりまえといえば当たり前だ。

なんで、今、ハルからの連絡があると思うのか。


あれから、何回もハルに連絡をした。メール、LINE、電話。

どれも反応が無かった。


その時、右手に握りこんでいたスマホがぶるっと震えた。

慌てて、画面を見る。

ただの迷惑メールだった。


迷惑。――そうなのだろうか。

ハルにとって私は迷惑な存在になってしまったんだろうか。

トイレの中で、ちょっと涙が出そうになった。


家に帰ると、そのまま二階に上がって自分の部屋のベッドにごろっと寝転ぶ。

ハルからの連絡はない。

これ以上、私から電話やLINEをするのは逆効果だと分かっている。

――でも、でも。このまま連絡が取れなくなってしまったら。

ハルはあのネットサークルになんてほとんど姿を現さないし。

そういえば私も最近、ハルとの出会いとなったネットサークルに参加していない、なんてことに気付く。


スマホを見つめていると、ふいにスマホが震えだした。

小林さんだった。

「お疲れさまでした」

「あ、はい。お世話になりました」

「どうでした?」

「ええ、とても良い方でした」

そんな返事をした。


~ to be continued ~

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