結婚相談所?それともハル? 【3】

とりあえず、そのお医者様のプロフィールを開いて見た。


ポンっと目に飛び込んできた写真。

ちょっと小太りのずんぐりした体格。丸い顔で優しそう。かっこいいとは言えないけれど。

かっこいい……。

ぶんぶんと首を左右に振った。

駄目だ。脳裏に浮かぶハルの顔。

ハルの長めの前髪と切れ長の眼がふっと笑ったようにして、私を見つめている。

ダメだ、ダメ。

今はこのお医者さんに集中。

ええっと。勤務地は埼玉ね。結婚したら、私は埼玉に住むのかしら。それでもいいけど。

わあ、開業医って年収凄い。趣味は山登り。この体型で登山か。私は山より海が好きだなあ。なんて思いながら。

ハルも山より海だよなあ。

違うって。ハルじゃないでしょ。

もう一度、頭をぶんぶんと振った。


その後、小林さんから再度電話がかかってきて、怒涛の如くそのお医者さんとの顔合わせが決まった。

初めての二人での顔合わせのことを、結婚相談所用語で“お見合い”というらしい。

結局、“お見合い”は今度の日曜日。

ハルと約束した日になった。

「今度の日曜日でいいですよね」

そういう小林さんの言葉に、一応、「次の週では駄目ですか?」と聞いてはみた。

「え?何か予定がおありですか?」

「え、あ、はあ、まあ」

「次の週となりますと、お相手の都合をもう一度お聞きすることになりますね。というよりも、今週の日曜日に高橋さんと会えない場合、この方は他の誰かとお見合いを入れてしまう可能性が高いです」

「え、ええ?」

「だって、忙しいお医者様にとって、お休みは貴重です。婚活に力を入れている方なら、お休みの日は”お見合い”を入れてくるはずです」

「そ、そうなんですね」

「そうですよ。だから、今度の日曜日に行けないとなると、せっかくのチャンスを他の人に譲ってしまうことになるんです」

――そうか。そうなるのか。

やはり、ハルと会っている場合ではない。ハルとの約束なんて、次の週に伸ばしても何も問題ない。

「分かりました。今度の日曜日。“お見合い”させてください」

彼にはお医者さんだというアドバンテージがある。問題はちょっと小太り。それだけだ。私は別に太っている人は嫌いじゃない。あまりに太りすぎている人はちょっと避けたいけれど。

お医者さまかあ。私がお医者さんの奥さん。いや、あまり想像できないけれど。そうなったら、みんなびっくりするだろうな。うちの親も弟も友人も。

ふふふふ。

まだ、会ってもいないのにそんな想像が頭をめぐる。

でもね。それが人ってもんよね。なんて一人うなずく。

さて、ハルに断わりのLINEしなくちゃ。

スマホをタップして、文字を打ち込んだ。


しばらくして返って来たハルからのメッセージは『りょうかい』だけだった。

そのそっけないひらがな5文字を固まったように見つめた。すうっと血の気が引いていくのが自分で分かる。

――どうしよう。……これきり、ハルと会えなくなったら。どうしよう。

頭がぐるぐるとしてきた。

このまま、え?ハルとこれきり?

待って。いいじゃない、ハルともう会えなくても。お医者さんの方が大事でしょう?ねえ、美帆。

思わず自分を納得させるように問いかける。

ああ、どうしよう。

『ハル、金曜の夜とか土曜日は?』

指が勝手に動いてLINEを送っていた。金曜の夜って。今度は健康的に昼間に会おうって言ってたのに。私ってば何言ってんだか。

そう思いながら、焦る気分を紛らわすようにスマホを握りしめた。


その日、いつまで待ってもハルからの返信は来なかった。

次の日もその次の日も。

今日は木曜日。

ああ、もう、これきり、ハルとは会えないかもしれない。

馬鹿だった。一度、OKの返事をしたのに。断らなければよかった。

日曜日だったら、会えるの?ハルに会えるの?

なら、やっぱり……。

その時、電話が掛かってきた。

――ハル!?

飛びつくようにスマホを手に取る。

画面に映る文字は小林さんだった。

詰めていた息をふっと吐き出す。

ああ、ちょうどいい。お医者さんを断ろう。

そう思って、通話マークをタップした。


~ to be continued ~

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