結婚相談所?それともハル? 【2】

さあ、どうなる?申し込みは来るかな?


ドキドキとしながら、しばらくスマホの画面を見つめていた。

まあ、そんなすぐにどうこうと言うことはないだろう。

そうだ。それより、私もこれからお相手を選び放題だ。

待っているより、どんどん有望な人を探して申し込んでみよう。

小林さんも言っていた。「最初は色々と躊躇することも多いかもしれませんが、とりあえずは一度、お見合いしてみてください」って。

なんなら、お見合いの模擬練習とかもしてくれるとか。


よしっと、気合を入れて希望条件を打ち込む。

検索っと。

あっという間に200件近い男性の写真がずらっと並んだ。

ええ?ちょっと条件が緩すぎた?

そう思って、年齢などの条件を狭めてみる。

ざっと見て、良さそうな人をタップしてプロフィールを見る。

ええっと、この人の住んでいるところは、職業は年収はお相手の希望条件は趣味は……。

思わず、夢中になってスマホを操作していた。


ふいに、ピロンっという、LINEの新着を通知する音がなった。

え?っと思って、キョロキョロと狭い部屋を見回してしまった。

いったい、どのくらいの時間が経ったのだろう。まだ明るかったはずの窓の外が暗くなっている。

ああ、そう。LINE、誰からだろう。さっそく、お見合いの申し込み?いや、LINEで来ないよね。なんて思って、スマホの上部に表示されたLINEのバナーを見る。

――ハル。

ハルだ。

そのバナーには「おはよう」の文字だけ見える。

いや、だから、今は夜だって。

ハルからのLINEはいつもちょっと気怠げを装っている。すこし世間とはズレているのを感じざるをえない。


『おはよう。今度の日曜日に会えない?』

ハルからのLINEの文面は、それだけだった。

こうやって誘えば、私がほいほいとやって来ると思っているんだろうか。

甘く見られている?ハルはいったい私のことをどう思っているんだろう。

遊び相手になりそうな都合のいい女ってところだろうか。でも、ハルだったら、私でなくてもすぐにそういう相手が見つかりそうだけど。


あの、捉えどころがない感じ。ちょっと、陰のある感じ。それでいて、甘え上手な感じ。

時々見せるはにかんだような笑顔が頭に浮かぶ。


『日曜日、空いてるよ。どこに行く?』

そんな返信をしてしまった。


なんかな、駄目だよなってなんとなく分かっている。

でも、なあ。

もしかしたら、ハルがどこか良いご家庭のボンボンという、限りなく低い可能性にすがりたくなる。

少し、自己嫌悪に陥りながら、天井を仰ぎ見た。


ふいに、手にしたスマホが震えだした。

あ、電話だ。小林さんから。

ピッと通話ボタンをタップする。

『はい』

『あ、高橋さん。小林です。今大丈夫ですか?』

小林さんの声がワントーン高くなっている。

『はい、大丈夫です』

『高橋さん。さっそく、お見合いの申し込みがありましたよ』

『え?』

私のプロフィールと写真は、つい一時間ほど前に公開したばかりなのに。

『さすがですね。高橋さん』

『いや、早いんですね』

『新規の会員さんは、短い時間ですがトップに表示されるので、目につきやすいんです。言ってしまえばこのスタートダッシュが大きなチャンスなんです』

『へえ、そうなんですね』

『ええ、たぶん、ここ二三日、集中して申し込みが来ますよ』

『だといいのですが』

『来ます来ます。ですから、これから土日はなるべく空けておくようにしてください』

『土日……』

『皆さんお仕事なさっているので、必然的にお見合いは土日になることが多いですから』

『あ、はい』

『それでですね。申し込みいただいた会員さんなんですけど、ちょっと遠いんですが埼玉に住んでいらっしゃる開業医さんですよ』

「え?お医者さんですか?」

「歳が40歳ですが、問題ないですよね」

「あ、はあ」

「これからその会員さんのプロフィール番号などお知らせします。とりあえずご覧になってください。あ、お医者様なので、土曜日も診療があるとのことで、お見合いは日曜を希望してらっしゃいます。最短だと、今度の日曜日になると思います」

「え?あ」

「それでは、プロフィールに目を通してください。また、しばらくしたら、こちらから連絡します。何かあれば、いつでも電話ください」

そう言って、小林さんが電話を切った。

待って、まずい。今度の日曜日はハルと予定を入れてしまった。

いや、でも。お医者さんとのお見合い。このチャンスは比べたら、ハルと会うことなんて。月とすっぽんのようなもの。もちろん、断るべきはハルだ。

うん。それは分かっている。


~ to be continued ~



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