気になるハル 【5】
「ハルは?恋人はいないの?」
逆に聞いてみた。
「あ、うん。いないよ」
「本当に?」
「本当だよ。ミホってけっこう疑り深い?」
軽く瞬きをしながら頬杖を付いて、ハルが上目づかいで私を見る。
思わず、ぐっと顎を引いてしまう。
こういう、一瞬で自分のテリトリーに持って行く手腕が見事だ。
「もう、ハルってば、結局、あんまり自分のことを話さないのね」
視線を逸らして、唇を尖らせる。
「そうかな?」
「そうよ」
「うーん?」
「秘密主義?」
「そんなことないよ」
「じゃあ、教えてよ」
「何を?」
「それ……は、勤め先とか、家族構成とか……」
「ミホは知りたがりだね」
フフッと意味深に笑われて、少し恥ずかしくなった。
私、必死過ぎただろうか。
ここでハルに嫌われてしまったら、結婚相手どうこうより、何も始まらないで終わってしまう。
ゆっくり、ゆっくり怪しまれないように探りを入れなくちゃ。
「だって、ハルのこと、知りたいんだもの」
かわいこぶってみた。
やばい。私のキャラからして無理だったらしい。ハルが瞳を軽くひらいてキョトンとしている。
「どうしたんだよ。ミホ」
そう言って、ハルが可笑しそうに首をかしげた。
ああ、もう。さらに恥ずかしさ倍増。自分の顔が赤くなるのが分かった。
「ミホ、なに?冗談のつもり?本当にミホは可愛いね」
そんな風に言って、ハルが私の頭をポンポンと片手で軽く叩く。
そのまま髪を撫でると、男の人にしては細い指で私の真珠のピアスをつまんだ。
「このピアスも可愛いね」
「ちょっと、痛いよ」
思わず、肩をすくめた。
このピアスはいわゆる有名な真珠の宝石メーカーのものだ。私の持っているアクセサリーの中でもかなり高価。
ハルはそんなピアスと私を目を細めて見ていた。
そんなこんなでハルのペースに巻き込まれ、結局、ハルのことは殆ど分からずじまい。
何とかハルの毒蛾にかからずに、夜遅く無事に家までたどり着いた。
自分の部屋に戻ると、ベッドにダイブするように飛び込んだ。
あああ、今度こそ健全な昼間に会って、色々ハルの情報を仕入れなくちゃ。
ベッドの上には置きっぱなしの結婚相談所のパンフレット。
ボールペンで『PM2:00小林さん』という文字が書かれていた。
そうだ。明日は結婚相談所の人と会うんだった。
早く寝よう。そう思って、自分の頬を両手で包んだ。
お肌も良いコンディションで会いたいし。やっぱり、自分のことを良い物件?って思われたいじゃない。
次の日、時間通りに待ち合わせた駅前の喫茶店に足を踏み入れた。
カランっというドアに取り付けられたベルが軽い音を立てる。
奥の席に座った女性が軽く腰をあげて、こちらを見ている。
あ、あの人だ。
目印に、赤い色のファイルを持ってますね、と言っていた。
軽く手に掲げた赤いファイルが目に入る。
足早にそのテーブルに近づく。
「あ、あの。小林さんですか?」
「はい。高橋さんですね。今日はありがとうございます」
椅子から立ち上がって、ニコッと微笑んだ小林さんは40代後半くらいの女性だった。
優し気な瞳で私を見ると、どうぞ座ってくださいと言うように頷くように視線を落とす。
つられるように小林さんの前に座った。それを見て、小林さんも腰を下ろす。
「コーヒーと紅茶、どちらがよろしいですか?」
あたりまえのように、そう聞いてくれる。
「あ、じゃあ、コーヒーでお願いします」
はいっと頷いて、小林さんがウエイターに注文してくれた。
少しの雑談の後、小林さんが声を改めて本題に入っていく。
「高橋さんは真剣に結婚を考えてらっしゃるんですよね」
「はい」
「お電話でお聞きしたように、年齢のことや弟さんの結婚。やはり、結婚したお友達が幸せそうだと。将来のことをいろいろと考えた結果、結婚したいと」
「そうです」
「出会いはなかなかないですよね」
「そうなんです」
「今までの恋愛など、少しお聞きしてもいいですか?」
「あ、はい。あんまりないですが」
「いいんです。どういう方が好みなのかとか、どうして上手くいかなかったのか、などを分析させていただいて、アドバイスみたいなことができたらと思っています」
「は、はい」
小林さんに乗せられるように、過去の恋愛についてトツトツと話していた。
~ to be continued ~
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