気になるハル 【3】

朝、目を覚ますと、時計の針は10時半をさしていた。

今日は土曜日。会社はない。

休みの日はまあ、だいたい、この時間位まで寝ている。

のそのそと体を起こすと、ベッドサイドに置いてあったスマホをチェックする。


LINEやメールを一通り見て、通知のあったインスタなんかもチラッと確認。結局、そのままズルズルとネットサーフィンしてしまったりするけど。


――あ、結婚相談所からメールが来てる。


昨夜、やけくそ気味に送ってしまった結婚相談所の無料相談。

さっそく返信が来ていた。

相談を寄せたことへのお礼が述べられていて、本日の3時頃にお電話させていただきますとのこと。

ああ、そういえば、連絡可能時間というところに、今日の午後って書いてしまったかも。


今日の3時ね。とりあえず、話だけでも聞いてみよう。

だって、他にどうしていいかも分からないし。


――いくらスマホをひっくり返して探してみても、ハルからの連絡は来てないし。


まあ、そんなもんかもしれないなあ。

頭をカシカシとかいた。

諦めに似た思いで、パジャマ代わりのスエットのまま階段を下りた。

木漏れ日が差し込む、しんっと静まったリビング。すでに両親の姿はなかった。

父も母も出かけたらしい。買い物にでも行ったのだろう。


トーストしたパンを齧りながら、テレビをつける。

タイムリーに、現代の結婚事情なんていう特集番組が映し出された。


〈今の人は、マッチングアプリも抵抗ないんですよね〉

〈昔ながらのお見合いおばさんの代わりが結婚相談所ですね〉


なんて、色々な意見が飛び交っている。

結婚事情なんて、人それぞれ。何が良いかなんて分からない。

でも、今、誰かと付き合い始めることの難しさは痛感している。

昔より、気軽に声を掛けることも、接触することもできなくなっている。


だから、マッチングアプリであり、結婚相談所なんだ。


撮り溜めをしていたドラマを見ているうちに、3時前になっていた。

急いで階段を上って、自分の部屋に入るとしっかりとドアを閉めた。


机にむかって腰かける。

3時ピッタリに電話が掛かってきた。

「結婚相談所の○○です。お問い合わせありがとうございました」

すんなりと聞こえる落ち着いた声の女の人だった。

話は、その相談所の特長だったり、仕組みだったり。

私の希望を聞いて、お相手としてどんな人がいるかなど、けっこう具体的に教えてくれた。


ぜひ、お会いして実際に写真などをお見せしながらお話したいとのこと。


そのお姉さんの話のうまさに引き込まれてしまったせいか、いつのまにか、会う約束をしてしまっていた。それも、明日。


通話を切って、スマホを机の上に置いた。


結婚相談所っていいかも。理想の人に出会える手っ取り早い方法かも。

でも、そうよね。それなりの代金も払うんだもの。

良い人を捕まえられるはず。


頭の中がお花畑なのかもしれないけど、どう考えても良い未来しか考えられなくなっていた。


時計を見ると、すでに4時すぎ。一時間以上も話していたらしい。


うーんッと伸びをすると、LINEを知らせる音がポロンッと鳴った。

なんだろう。結婚相談所かな。電話のお礼とか言ってきそうな感じだし。と思って、画面を見る。

――え?

二度見、してしまった。

ハルだ。

なんで?それもこんな中途半端な時間?


ちょっと動揺しながら、そのLINEを開く。

『今、起きた』

それだけ。

え?でも、今起きたって。昨夜はいったい何時に寝たの?

『おはよう』

とりあえず、ひとこと送ってみた。

『ミホは?起きてる?』

『あたりまえでしょ』

『ミホ、今日は暇?これから会えない?』

――え?

今日?これから?

戸惑っていると、ハルから連続でメッセージが入った。

『一緒に出掛けるって言ったじゃん』

拗ねたような文面。

いや、ハルの方が女の子みたい。

健康的に昼間どこかに行くって話じゃなかったっけ?

もう夕方だけど?

でも、どこかハルらしい。

ぐっと唾を飲み込んだ。

『どこに行けばいい?』

そう返信している自分がいた。


~ to be continued ~

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