気になるハル 【2】
ちょっと興奮冷めやらぬって感じで、家までたどり着いた。
電車に揺られている間、今日のハルと過ごした時間が頭の中をぐるぐると繰り返しめぐっていた。多分、締まりのない表情をしていたに違いない。
うん。勇気を出してLINEしてよかった。
そんな自分を褒めてあげたい。
そう思って、もう寝静まってしまっている家のドアを開けた。
「ただいま」と小さな声をかけて、ちょっと頑張って履いて行った靴を脱ぐ。
やっとのことで自分の部屋に辿り着くと、ボスっとベッドに倒れ込むように腰かけた。
「あー、足、疲れた。足、痛いー」
思わずそんな声が漏れた。
でも、楽しかったな。また、頭の中がハルに占領されそうになっていた。
スマホ、どこだっけ?鞄の中だっけ?
すでにハルの連絡先が登録されているスマホ。
帰ったよLINEしなくちゃあ。
楽しかったって、次回はどこに行く?って。
ベットの上にポンっと置かれた鞄を手に取る。そのポケットから、なんか覗いていた。
――あ、そうだ。
最初に行ったオフ会のお店に置いてあった、結婚相談所のパンフレットだ。
ごそごそと引っ張り出してみる。
三つ折りのパンフレットの表紙には、木漏れ日に照らされた木々の中で幸せそうに微笑む二人の姿。
いいなあ。こんな素敵な出会いがあったらいいんだけどなあ。
今日のハルと私の雰囲気とはだいぶ違うわね、なんて思いながら、パンフレットを開く。
やはり結婚相談所だけあって、面倒見は良いみたいだ。
出会いからお見合い、交際、成婚と、一連のサポートをしてくれるらしい。
でも、入会の決まりも厳しい。
決まりって言うか、入るときに提出しなくちゃならないもの。
身分を証明するものね。
でも、当然よね。得体のしれない人がいたら、大変だもの。
わあ、独身証明書も必要なんだ。
興味本位でそのパンフレットを読み進める。
どうなんだろう。
やっぱり、こういう所の方が、結婚したい人が集まっているから、結婚に結び付きやすいのかしら。
うーん。結婚相談所に入ってみるのもいいかもしれないなあ。けどなあ。
そんな風に考えていると、鞄の中のスマホが震えた。
見ると、画面にハルの文字。ハルからのLINEだ。
慌ててスマホを鞄の中から取り出した。
ドキドキして、メッセージを開く。
『今日はありがとう。おやすみ』
だけだった。
え?いや、そっけなさすぎじゃない?え?どういうこと?
楽しかったは?また、会おうねって言うのはないの?
ふいに涙が出そうになった。
――もしかして、もう、私のことを嫌になったのかなあ。
ちょっと指先が震える。
だいたい、今度の休みに一緒に出掛けようと言っていたのに、そのことに一言も触れていない。
もしかして、無かったことにしようとしている?
無かったことにしたいのかな。
私、何か失敗しちゃったのかな。
一気に沈んでしまった気持ちを何とか建て直して、返信をした。
『こちらこそ。ありがとう。楽しかった。おやすみなさい』
何か、余計なことを書いてしまいそうで、あえて、私も短い文にした。
次回もあると思っていたのは、私だけだったのかもしれない。
バタンっと座っていた姿勢から、ベットの上にあおむけに寝転んだ。
ああ、なんだろう。
浮かれすぎてたかも。
ハルにとってみれば、年上の女性をからかったに過ぎないのかもしれないなあ。
そんな風に、どんどん暗い雲のようなものが頭の中を占めていく。
あーあ、考えてみれば、こんな上手い具合に素敵な人に出会うってないよね。
それが、私みたいな結婚相手を見つけようって言うならなおさら。
そう簡単に見つかるはずもないのよね。
ふと、ベットの端に放り投げられた結婚相談所のパンフレットが目に入った。
結婚相談所。
もう一度そのパンフレットに手を伸ばすと、のろのろと上体を起こした。
〈昔のイメージとは違います!!〉
そんな文字が目に入った。
〈結婚できない人が入るのではなく、より良い結婚を目指す人が入るところです。〉
そうか、今はそうなの?でも、結婚相談所のパンフレットだもの。そんな都合の良い誘い文句を書いているだけかもしれない。
裏に、結婚相談所のホームページのQRコードがあった。
QRコードを読み込もうとスマホを手に取る。
それきり、ハルからのLINEは来てなかった。
まあ、当たり前よね。さっき、おやすみってLINEしたしね。
フルフルと頭を軽く振って、結婚相談所のQRコードをスキャンする。
すぐに、パンフレットの表紙と同じ、爽やかな木漏れ日の中の抱き合う男女が浮かび上がった。
うわっと思いながら、ホームページを読み進めていくと、けっこう20歳代の会員も多いことに気が付く。
皆、どうしてそんなに若い年から、こんな結婚相談所に入会しているんだろう。
自分で見つける自信がないから?
そんな若い年から焦っているのかしら?
〈結婚相談所なら、理想のお相手と、無駄なく、スムーズに結婚できるんです!〉
そうか、うん。まあ、身分って言うの?職業や学歴などは分かっていてお見合いするんだもんね。マッチングアプリみたいに既婚者に騙されるなんてこともなさそうだし。
そうだよ。私ってば、ハルに仕事とか住んでいる所とか、全然聞いてない。
まさか、既婚者ではないと思うけど。
ハルには私のこと、けっこう喋っちゃったな。なんで、私はハルのことなんにも聞いてないんだろう。
まったく――。
自分に呆れながら、スマホの画面に目を戻す。
とりあえず、話だけでも聞いてみようかな。
無料相談ってあるし。
なんか、ハルにそっけなくされたショックからか、夜中の変なテンションからか、そのホームページの無料相談のタグをやけくそのようにタップしていた。
必要事項を記入して、送信。
『受け付けいたしました。ありがとうございました。後程ご連絡させていただきます。』
との返信メール。
さあ、送っちゃった。
どうなるかはまた明日考えよう。
とりあえず、今日はお風呂に入って寝る。そうしよう。
~ to be continued ~
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