気になるハル 【1】

LINEしてみようかな。まだ、この辺にいるかしら。


このままになってしまうのは、なんか、やっぱり、もったいない気がした。

ここで、勇気を出さなくてどうする?

こんな気障な事できるハルは、恋愛慣れしてるのかもしれないけれど。

とりあえずは、出会いを大切に。

自分さえしっかりしていれば、大丈夫だから。

そう自分に言い聞かせて、ハルへのLINEを打ち込んだ。

『ハル、今どこ?』

それだけ書いて送信する。

返事は来るだろうか。

そう思う間もなく、マナーモードにしているスマホが震えた。

『ケーブルカー乗り場の前』

何年か前にできた、桜木町駅から伸びるケーブルカー。

これって、来いってことよね。

私はそのメッセージを見て、そのまま改札の前から踵を返して、駅の外に出た。

広場の向こうにケーブルカー乗り場がある。

速足で駆け寄りながら目をこらすと、行き交う人々に紛れて、俯き加減に立っている男性が目に入った。

黒いロングコートのポケットに手を入れて、どこを見るともなしに立っている。

「ハル!」

ハルに向かって軽く手を挙げた。

ハルが私に気付いて、ポケットから出した右手をひょいっと上げた。

その様子に、ちょっと嬉しくなる。


「ミホ、二次会行かなかったの?」

となりに並んだ私にハルが聞いてくる。

「うん。ハルも?」

「行く理由もないし。めんどいし」

「ハルらしいね」

今日会ったばかりなんだけど、そんな風に思える。

「ちょっと、飲みに行こうか」

ハルが確認するように私の顔を見てから、ふらっと歩き出した。

遅れないようにハルの後を追う。

連れて行かれた所は、隠れ家のような、こじんまりとしたお洒落なバーだった。

「いらっしゃいませ」

大人の雰囲気のあるマスターが、優しそうな笑顔でカウンターの中から迎えてくれた。


促されるように、奥の席に座る。

「ハル、ここ、よく来るの?」

「あんまり」

「そうなの?」

「一緒に来たい人がいたらくるよ」

救い上げるように、綺麗な瞳で見つめられて、心臓がドキッとした。

それは、うん。私が合格ってことかしら?

「なに飲む?」

「私、こういう所あまり来たことなくて。カクテルとか分からないの」

そう言うと、ハルがそう?って感じに軽く瞳を伏せて、適当に注文してくれた。

甘くて飲みやすいカクテルとちょっとしたオツマミで会話が弾む。

不思議と話が途切れない。

無口そうな雰囲気で実は無口ではないハルに、自然と私の口も軽くなってしまっているようだ。

いつの間にか、自分のことをぺらぺらと喋っていたような気がする。

好きな音楽や本、ひいては、住んでいる所、勤めている会社などなど。

「ミホは、休みの日は何してるの?」

「うーん。何もしてないかなあ」

「何も?」

「だいたい、ごろごろして終わっちゃう。YouTubeみたり、何か食べたりしてる間に」

それを聞いて、口に拳を当ててふふっとハルが笑う。

「ハルこそ、休日は何しているの?」

ちょっとむっとして聞いてみた。

「うん?俺もほとんど寝てるかな」

「同じじゃない」

「だな」

「でも、休日ってあっという間に終わっちゃうよね」

「うん。何もしてないけどな」

「そう。もったいないと思うんだけどね」

「じゃあさ、今度、一緒にどこかに行こうよ」

「どこか?」

「休みを有効に使おうってね」

「ハルらしくない」

「俺らしいって?」

「なんか、気だるそうにしてる感じ」

ああ、でも、こんな風に飲みに誘ったり、デートに誘ったり。

興味なさそうなふりをして、けっこう積極的なのかもしれない。

そんなこんなで、じゃあ、次の休日は一緒に遊びに行こうという話になった。


駅での別れ際、ハルが私の頬に触れるくらいの耳元でこそっと呟く。

「楽しみにしてる」

うわあ。こういう人をプレーボーイって言うのかしら。

呆気にとられながらも、かあっと顔が熱くなる。

「ミホって可愛い」

そんなことを言われて、喜んでいる自分がちょっと信じられない。

「うるさい」

ごまかすように、頬を膨らませて見せた。


ハルが「じゃあ、また」って言って、人ごみにに消えていった。


~ to be continued ~

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