出会いはネットサークルで? 【6】

その男性は、ゆっくりと店内を見回すと、そのまま慌てもせず、私たちのいるテーブルにやって来た。

「え?あれ?ハル?」

「あ、ハルじゃん」

メンバーが少し驚いたような声を出している。

ハルはあまりオフ会に参加しないのかもしれない。そんな気はしていた。

そう、私もハルとチャットでは話したことがあるけれど、zoomで行われるサークルの会でハルを見たおぼえがない。だから、今初めてハルと顔を合わせることになる。

想像通り、暗い?いや、陰のある?いや、飄々としている。

細身だけど、それほど背が高いわけではない。標準的な体系で、一見、可愛いような容姿に、黒いロングコート。さらっとした短い髪。前髪だけが目が隠れそうなほど長かった。

「遅くなった」

「遅いよ」

豆太郎に突っ込まれている。

フラフラと歩いてきて、空いている私の隣の椅子に手を掛ける。

「ここいい?」

前髪に隠れそうな瞳で聞いてくる。

「あ、どうぞ」

「何飲んでるの?」

「ハウスワイン」

「じゃ。俺もそれにする」

静かな口調なんだけど、けっこう話しかけてくる。

「えっと、名前なんだっけ?」

「ミホです」

「あ、入ったばかりの」

「はい」

「チャットで話したよね」

「はい、ハルさんってどんな人なのかなって思ってました」

そう言うと、ハルが私から視線を逸らして少し口角を上げた。

そんな時、少し離れた場所から豆太郎の声がかかる。

「でもさ、ミホって実際見ても、美人だったな」

酔いが回って来たメンバーたちが、ほんのりと赤くなった顔で頷いている。

「本当に、そう。私も今度、その髪型真似しよう」

女性メンバーまでがおだてた様に付け加えた。

たまに美人とか言われるが、だからと言ってモテる訳でもなく。彼氏もできなくて。美人だから何なんだと言いたくなる。


ふと、視線を感じて周りを見ると、あおちゃんと目が合った。

すると、あおちゃんが慌てて、下を向くようにして視線を外す。

なんだろう?

あおちゃんは大人しい。来た時からずっと、何を話していいのか分からないと言うように、ひたすらドリンクを飲んでいる。

きりんが気にして、話しかけてあげてるな。きりんは優しい。ぼくとつとした感じ。

でも、あおちゃんがちらちらと視線をおくるのは――豆太郎だ。

ああ、そうか。そうなんだ。

豆太郎はみんなの中心でおどけた様に話しているし。

まあ、上手くいかないもんだわ。


「ミホはどの辺に住んでるの?」

ハルが少し背中を丸めたような姿勢で、ワイングラスを持ちながら聞いてくる。

「けっこう、ここからすぐです。車だと15分くらい」

「へえ、近いね」

ちょっと驚いたように、ハルが切れ長の眼を見開いた。

ああ、綺麗な瞳をしているな。男のくせにまつげが長い。

「ハルさんはどこに住んでるんですか?」

「俺は、電車で30分位かな」

「そうなんですか。でも、近いですね」

「なあ、ハルって呼び捨てでいいし。敬語じゃなくていいよ」

「あ、はい」

「歳だってそんなにかわらないだろ」

いや、かわるかも。どうしよう、私の方がかなり年上だったら。

そう、ハルって結構若そう。

いくつですかって聞けない。聞いたら、私も言わなくちゃならないし。

聞かないで。お願い。

「ま、いいか。歳はどうでも」

私の顔色を察したのか。ちょっと視線を斜め上にあげてそう言った。

ハルが決して大きな声ではないので、なぜか二人でこそこそ話している雰囲気になる。


ちょっと、アンニュイな感じでだるそうに話すハル。

でも、決して気取っているわけではない。


「ハル。今日は珍しいね」

ふいに、落ち着いた女性の声が頭上から聞こえてきた。

いつの間にか、ハルを挟んで私とは反対側の席にメンバーの女性が座っていた。


~ to be continued ~

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