出会いはネットサークルで? 【5】
そんなこんなで、あっという間にオフ会の日がやって来た。
金曜日の夜19時から。
仕事帰りに集合っていうことなんだろう。
最寄りの桜木町駅であおちゃんと豆太郎ときりんと待ち合わせをした。
あおちゃんは若いし、きっとかわいい恰好をしてくるだろうから、私はシルクのシャツとタイトなスカートで少し大人っぽさを意識してみた。私の持っている中では上等な柔らかい感じのトレンチコートと靴で高級感を演出……てYouTubeの受け売りだけど。
桜木町駅の改札を出ると、一人のそれらしき女性が目に入った。
あ、あおちゃんだ。
白いフリフリした襟のブラウスにパステルカラーの大振りのセーターを合わせている。タイトな短めのスカートにスニーカーという出で立ちで所在なさげに立っていた。
チャットをするときは顔を見ることはないけど、普段のネットサークルの会は主にzoomを使っていたので、画面越しの顔は知っている。
ちょっと大人しい感じ。キョロキョロと辺りを見回している。
駈け寄ろうと足を踏み出したところで、あおちゃんに話しかける男性。
きりんだ。
細身の高身長。顔も長細い気がする。
短めの黒い革のコートを着ていた。
なんか慌てるようにして、私も二人に近づいた。
「こんばんは」
私の声に二人がくるっと振り向く。
「あ、ミホ」
「はじめましてっていうのかな?」
「ね、なんか変な感じだよね」
あおちゃんが微笑む。
「ミホは仕事大丈夫だった?」
きりんが背を屈めるようにして話す。
「うん。用事があるって抜けてきた」
「よし、よくやった」
ふいに、そんな声が私の後ろから聞こえてきた。
三人でその声の方に視線を回す。
「豆太郎」
きりんが呆れたような声を出す。
「おつかれ」
豆太郎が敬礼をするように右手を額に当てておどけた表情をする。
「おつかれさま」
あおちゃんが嬉しそうに笑っている。
「さあ、行こうぜ。もう始まってるはずだ」
一番最後にやって来たくせに、豆太郎が先頭に立って歩きだした。
上質でおしゃれなジャケットにTシャツと言う、少し崩したようなラフな格好がとてもよく似合っていた。
オフ会は桜木町から歩いて10分ほどのイタリアンのお店。
さすがの「ちょっとオシャレにみなとみらい」のサークルなだけあって、素敵な外観。
入ってみると、内装も田舎町のイタリアンって感じでとても気さくで情緒ある感じ。
なにより、店に入ったとたんお美味しそうなガーリックとチーズの匂い。
このお店もきっと、佐野くんだったら知ってるんだろうなあ、なんて思い出してしまったりして。
ことある毎に佐野くんが頭の中に出てきて、ちょっと嫌になる。
未練なんてないし。久しぶりの異性との二人きりの食事だったから、うん、ちょっと楽しかっただけだもの。
佐野くんを教訓にして、絶対いい人を見つけてやる。
店の奥、木材の板を張り合わせたような長テーブルに、7人の男女が座っていた。
「あ、豆太郎」
その中の一人の女性が、右手を振るようにして声をあげた。
「おう」
豆太郎が同じく片手を上げて合図している。
「元気だった?」
別の女性メンバーが豆太郎に声を掛ける。
「遅いよ」
「おお、今日はきりんも一緒か」
「あっと、あおちゃん……だよね」
口々に声がかかる。
すでに、豆太郎はみんなの輪に入って、もみくちゃにされている状態。
「なあ、ほら。こちら、ミホ。最近、入会したばかりの」
きりんがぼそぼそと紹介してくれた。
「そうだよ。みんな会いたかっただろ?」
豆太郎がバタバタと戻ってきて、私の横に立った。
「おお、ミホ。歓迎するよー」
どこからともなく声が上がった。
わちゃわちゃと席を用意されて、きりん、あおちゃん、私の順で席に着く。
豆太郎はいつの間にか、先に来ていた他のメンバーの間に座っていた。
――ああ、豆太郎って人気なんだ。
気さくで、ちょっとカッコつけで。超絶イケメンではないけど、まあまあ。
こうやってぐいぐい話をしてくれる人って貴重だものね。
その後、乾杯をして、ひとしきり料理が出てきたところで、玄関の戸がカランっと音を立てた。ふらっとコートのポケットに手を入れたまま、肩で扉を押すようにして一人の男性が入ってきた。
~ to be continued ~
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