第60話 残党狩り?(2)
『それで? あんたやけにこの子に肩入れしてるけど、理由があるんでしょ。茶とか青とか、あの駄犬どもの件もよ。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないの』
じきに日も
遅くなる前に
ジェインに何らかの思惑があるのだとしても。
しかし、ジェインが誰かを警護するのは相当に珍しい。
『残党狩りは報酬がでるにしたってさぁ。この娘を警護して送っていくなんて、あんたにしてはちょっとおかしくない?』
カティアはジェインがどうせ一人にならないと答えられないのが分かっていても、とにかく言わないと気が済まなかったようだ。自分だけでぶつぶつと呟いていた。
確かに、あの場には元冒険者のリュシェルも守護隊もいた。別にジェインがわざわざ送り届けなくても良かっただろう。だが、リュシェルはその瞳をすぐに活用すべきだし、隊士に送らせるとすればそれは隊長クラスが数人でないと力不足だ。
理由すべてを披露する必要はない。ジェインがつけばすむ話。
ただ、それだけだった。
寄ると言っていたアルメール地区の医者の所へは今日の所は行かないことになった。実のところ状況が状況ということで彼女たちも救護に駆り出されるらしいのだ。さすがに街もこれでは、もとよりアシュリーに割く時間もなかっただろう。
ジェイン曰く、アシュリーの怪我にはとても良く効く軟膏を塗ったので、追加ですぐに薬の必要はないらしい。それなら、とアシュリーは他の怪我人をひとりでも多く診てもらう為に、今日の訪問はやめることにした。
お礼なら、後日改めて行けばいい。
「街全体に被害があるわけじゃないようですね」
「そうだね。まあなんだ、あいつらは守護隊まっしぐらだったみたいだし」
『もう! 宿に帰ったら教えてよ?』
頭の中に降るカティアの声は
ふと、ジェインの唇が動いた。
「……」
「はい? どうしました?」
覗き込むアシュリーの顔は怪訝そうだ。
ジェインは思わず目を逸らした。
「ジェインさん?」
「いや、すまない。……一瞬だけ立って寝てた」
ジェインの返事に、アシュリーがきょとんとした。
「ふふ。お疲れですよね。早く帰りましょう」
守護隊本部から月花亭へと続く道は、
『……今、なんて?』
カティアがジェインの漏らした短い言葉に反応した。
青狼の影がない道は、特段どこかが壊れた様子もなく、怪我をした人が道端でひっくり返っている訳でもなかった。少し遠くの人々の話し声と雑多な音が、ちょっと前の襲撃を思い出させはしたが。
「あ、見えてきました。うちの看板……え?」
看板娘が指した指先に、見覚えのある建物があった。だが、店の周りはいつも通りではなかった。
青狼の群れと守護隊の白い隊服が入り乱れ、彼らとそいつらの間に二人の人影が見え隠れしていた。
「おじさん!」
アシュリーは見るなり声を張り上げ、駆けだした。勿論、ジェインもそれを追いかける。
武器も持たず囲まれたせいで、ただ戦いの中、リオを守ることしか出来ずにいたゴーシュの耳に、聞きなれた声が聞こえた。思わず出所を探す。
腕の中のリオもまた、ハッとしてそれを探した。
「リオ!」
「アシュリー!」
ゴーシュの腕を振り払う形でリオがアシュリーの広げた両腕の中に飛び込んだ。ぎゅうっと抱きしめ合いながら、アシュリーがゴーシュに顔を向ける。
「急いで店の中にっ」
「ああ、だが……」
集まった青狼の数が守護隊より多く、近くといえど
「ここにも路銀が」
わぁわぁと隊士達の出す声と青狼の低く唸る声の中、ただひとりだけ、嬉しそうににやつきながら斜め上の反応をするのは、その異様ささえ惹かれてしまう美貌の
ジェインは青狼と守護隊の闘うさまから目を離さないまま、三人に言った。
「少しだけここにいな。すぐ片付ける」
嬉しさのあまりパチリと片目を閉じて、愛嬌を振り撒いたジェインは守護隊が取りこぼしそうになっていた青狼のもとへと向かった。
「うわあ……こんな時だけど……」
残された三人、アシュリーとゴーシュの顔は、夕日に照らされてか自前か、真っ赤に染まっていた。
「あ、昨日の賞金稼ぎか?」
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