本当の再会
母さんの提案で今日はリリスがうちに泊まることに。
着替えなどの心配もあったが、母さんとスタイルなんかは似ている部分があるため、夜は母さんの服を借りるようだ。
「……良いなぁ」
思わずと言った具合に、そう呟かずには居られなかった。
特に何もすることがないのもあって、俺はずっと夕飯を作っている母さんとリリスの後ろ姿を見ている。
楽しそうに笑みを浮かべる母さんと、リリスもずっと笑顔だ。
この家に来た時は緊張で表情は固かったものの、今ではもうあの通りである。
「トワ、もう少しで出来るからな」
「うん」
「待っててくださいねトワ君」
「はい」
ジッと見ているせいか、頻繁に二人と視線が合ってしまう。
二人からすれば腹が空いて料理が待ちきれないように見えているのかもしれないけれど、俺からすればただただ目の保養で見ているだけだ。
「……あ」
そうこうしているとぐぅっと凄まじい腹の虫が鳴った。
お腹を押さえて誤魔化そうとしたものの、まさかのあちらにまで今のは聞こえていたらしく、母さんもリリスもクスッと笑っていた。
「っ……」
「ふふっ、本当に可愛い子だ」
「フィアさんはズルいです。あんな可愛い姿をずっと見ていたってことでしょう?」
「母親だから当然だろう?」
「……むぅ!!」
母さんの言葉に、リリスが唇を尖らせた。
決して彼女の歳では似合わないはずなのに、やはり見た目が美しすぎるからこそ逆に似合いすぎている。
「しかし、本当にお前は自然に笑うようになったな?」
「……そうですね。自分でも驚いていますよ。今の私にはもう、忘れていた世界の色が見えていますから」
「心配は無さそうか?」
「はい」
強く頷いたリリスは、母さんから俺に視線を向けた。
彼女は何も言わずにクスッと微笑むだけ……その笑顔は俺だけでなく、母さんもドキッとするくらいには綺麗な微笑みだった。
その後、程なくして三人での夕飯と相成った。
「フィアさんも料理がお上手なんですね」
「トワのために必死に勉強したんだぞ? 元からある程度は出来たがもっと美味しい物を食べさせたかったからな」
「気持ちは分かりますよ。私も“大切な方”には美味しい料理を食べさせてあげたいと思いますから」
「そうだろう?」
俺はあまり会話に参加せず、料理を食べながら二人のやり取りを楽しんでいた。
最初の衝撃的すぎる出会いを考えれば、ここまで仲良くなってくれたことは素直に嬉しいし、母さんもリリスもお互いに絆のようなものも生まれているようで……本当に見ていて安心する光景だ。
「……ほんとに美味しいや。母さんとリリスさんが作ってくれた料理、最高すぎる」
この世界でも家畜として世話されている鳥の肉だったり、シチューやサラダに他にも沢山の料理が並んでいるが、どれも美味しくて手が全く止まる気配を見せない。
「ありがとうなトワ」
「ありがとうございますトワ君」
小さく呟いたつもりだったけど、どうやら聞こえていたらしい。
そのことに恥ずかしさを僅かに覚えつつ、俺は二人が作ってくれた料理を心から堪能するのだった。
そして、食事も終盤に差し掛かったところで魔法学院の話になった。
「三年後には、トワ君も入学するんですか?」
「そうさせる……あぁいや、させたくない……いや、トワが望むならさせたいんだが……むむむ」
「……あぁそういうことですか。寂しいんですねフィアさんは」
「当たり前だろうがぁ!?」
バタンと、母さんは軽く机を叩く。
別に朝から学院に通うだけで夕方には帰ってくるし……確かに寮生もかなり居るようだが、距離的には全然遠くはないので毎日帰ってくるつもりなんだけどな。
「母さん、俺は寮に入らずに帰ってくるから大丈夫だよ」
「……そうかぁ?」
「うん」
「それなら良いではありませんか。もしも不安でしたら私が毎日ここまで送り届けても良いですし」
「それは良いのか?」
「もちろんですよ。この世の中、依怙贔屓は当たり前です」
大きな胸を揺らしながら、自信満々にリリスはそう言った。
依怙贔屓なんて良い言葉ではないけれど、でも気に掛けてもらえるのは良いことだし、相談だって出来るし良いこと尽くしだ。
「リリスさん、学院では分かりやすい贔屓は控えてもらえると……」
「そこは理解しています。私のせいでトワ君に何かしらの不利益を被らせるのはごめんですから」
リリスがそう思ってるのなら安心だ。
「トワのレベルは既に15だし、学院に入るための試験はいつでも突破出来るだろう」
「15! 凄いですね……流石はトワ君です」
「だろう? 何なら今からでも入学出来るほどの天才だ! いやぁ流石私の息子だな!」
「今からでも入学……ふむ」
今から入学は年齢が足りないので無理かな。
母さんも本気で言っているようではなさそうだが、確かに今の俺のレベルならこの状態でも確実に試験は合格出来る……というかレベルが15の時点で突破出来ない方がおかしいとさえ言われるだろう。
「若返りの薬があるように、三歳くらいであれば成長を促せる薬も私は持っていますよ。もちろん体に害はないですし、元の体に戻るのも調節が出来ます。ふふっ、これは私が早くトワ君と学院でも過ごしたい願望からですけれど、どうしますか?」
「えぇ!?」
「……………」
突然の提案に俺は驚いたが、反対に母さんは考え事をして冷静だ。
いの一番にダメだと言ってくると思ったんだが、どうやら母さんにも考えがあるようだ。
「色々と言ってきたが、それもまた悪くない気もするな……私も四六時中一緒に居たいところだが、早い内にトワに友人が出来ればなという気持ちもある。トワが望むのであれば、私はその意思を尊重しよう」
「……………」
その言葉に、俺は少し考えさせてと返事をする他なかった。
さて、学院については一旦考える期間として……その日はもう、俺は疲れに疲れていた。
昨日の今日だったし、リリスのことで頭を回転させすぎたせいだ。
それでもリリスが浮かべてくれた笑顔と、何となく大丈夫そうな雰囲気に安心した俺は、母さんとリリスに両サイドから抱きしめられながらすぐに眠りに就くのだった。
▼▽
そして、俺は不思議な空間に立っていた。
「……ここは?」
その場所はあまりに綺麗な場所だった。
空にはオーロラが揺らめいており、ずっと眺めていたいと思わせるほどの素晴らしい光景だ。
そんな景色の中に彼女が……リリスが居た。
「リリスさん?」
「来てくれましたかトワ君」
「これは……リリスさんが?」
「はい――サキュバスが作り出せる夢境の空間です」
「夢境……」
これは初めて経験したものだけど、俺はどうやら夢を見ているようだ。
ただこれはリリスの力によって見せられている夢であり、おそらく俺もリリスも記憶に残り続ける夢なんだろう。
「この場所は特別で、どんな存在さえも介在する余地はありません。それこそどんな力を持った存在も、この夢境に入り込むことは出来ません。更に言えばブライトオブエンゲージの影響もあって、この空間には本当にあなたと私だけです」
「……ブライトオブエンゲージ」
ブライトオブエンゲージって運命を繋ぐだけじゃないのか……?
というかなんで今そんな会話を俺にしたんだ?
「ふふっ♪」
リリスが目の前に立ち、俺の両手を掴んだ。
「お久しぶりです……気付くのが遅くなりました」
「え?」
彼女は、優しく言葉を続けた。
「トワさん……あなただったんですね?」
「っ!?」
手を握る力が更に強くなった。
優しい色を見せる眼差しから溢れたのは一筋の涙。
「沢山お話したいことはあるんです――この空間だからこそ話せることが沢山。でもまずは、おかえりなさい」
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