旦那様と呼ばれたいお年頃……なわけあるかい
仲間たちを守り、死んだと思ったらまた生まれ変わった件。
実の両親に捨てられ絶望していたら、めっちゃ綺麗な姉ちゃん――フィアママに保護され、息子にする宣言をされた直後にやべえ男の襲撃に遭っててんやわんやだ……ふぅ。
「ネトル、いい加減にしろ。そもそも私は男が嫌いだ――故に、誰のモノにもなるつもりはない」
「おいおい~、いい加減に諦めろよ。この俺様が、お前を嫁にしてやろうって言ってんだよ」
えっと、寝取るのが趣味の男……じゃなくて、ネトル・ノガ・シュミさんだっけ?
壊滅的に終わっている名前で、間違いなく元の体なら爆笑していた。
明らかな嫌悪を浮かべるフィアママだが、そんなフィアママを見つめるネトルの顔は分かりやすいくらいに欲望に満ちている。
(なんつうか……昔のあいつを思い出すな)
俺が思い出したのは共に旅をした一人である勇者カイシンのことだ。
カイシンは勇者であったものの、性格は無類の女好きということで他のメンバーたちからの印象は最悪だった。
あいつが勇者として目覚めたことでやりたかったのは、世界を救うついでに女を囲ってハーレムを作るだったしなぁ。
(でも……あいつは変わった)
結局、何が決定的だったかは知らないがカイシンは旅をして変わった。
女は自分を着飾るためのアクセサリーみたいに考えていたのに、途中からは人が変わったように勇者としての使命を全うするに至った。
それこそ俺を含め、他のメンバーの信頼を勝ち取り……純粋な恋愛を王女様とするくらいに。
(……ははっ、流石にあいつと比べるのは無しだな)
何となくだけど、このネトルって奴はカイシンみたいに変わることはないんじゃないかって気がする……絶対にそうだと何故か断言出来る。
「……………」
だからか、フィアママが心配になり俺は服を強く握った。
赤ん坊の体では出せる力なんてたかが知れているので、この緊張感ある場面でフィアママは気付かないと思ったのだが……彼女はしっかりと俺に視線を向け、安心させるように微笑んだ。
「私を心配してくれるのか? だとしたら無用な心配……と言いたいところだが、お前からの心配は心が躍り出しそうなくらいに嬉しいものだ。安心しろ――どうやら私は、子が出来ると強くなるらしいからな」
「だ?」
子が出来ると強くなるとは一体……。
そこでようやく、ネトルはフィアママが抱く俺の存在に気付いた。
「なんだそのガキは……人間か?」
「その薄汚い目でこの子を見るな――私の大事な息子をな」
「息子……だとぉ!?」
「だっ!」
どうも~大事な息子になりましたと自己紹介するように、俺は軽く手を上げてみせた。
すると手の平に感じるのはピリピリとした圧……俺がそれを殺気であると分かったのは、いくつもの修羅場を乗り越えた結果とも言える。
「おいおいおいおい冗談だろ? 誇り高きヴァンパイアの……それも次代のヴァンパイアクイーンとまで言われたお前が人間の子供を息子にするとはタチの悪い冗談だ」
「冗談なものか、この子は私の息子として育てる。それはもう決めたことであり、仮にこの子の両親が返してくれと言っても返さん」
優しく抱きしめながらフィアママはそう宣言した。
まだ出会って一日だというのに、こんなにも俺の事を考えてくれることにまた感動して大泣きしてしまいそうになる。
(つうかヴァンパイアクイーンって吸血鬼の女王ってことか?)
もしかしてフィアママ……めっちゃ凄い人だったりするのかな?
一応、魔王を倒す旅の中でヴァンパイアという種族が居ることは知っていたけど、出会う機会は最後までなかったからな……う~ん、分からないことだらけだぜ。
「……なるほどなぁ、そのガキがお前を変えちまったってことか……俺の言葉に靡かねえくせに」
「赤ん坊に嫉妬はみっともないぞ。常に薄汚い視線を向けてくるような奴よりも、こんな風に可愛らしい子供に惹かれるのは当然だが? まあ仮にそうでなくとも、お前みたいな男は願い下げだがな」
フィアママの一言に、ついにネトルはキレた。
雰囲気でもそれがビシビシと伝わってくるほどに大地が揺れており、それもあってかなりの実力者だと分かる……けれど、そんな奴を前にしてもフィアママは表情を変えない。
「くくっ……はっはっはっは! 良いだろう! なら今日こそ、徹底的に痛めつけて連れて行ってやる! そして、そのガキをお前の目の前でぶっ殺してやろうじゃねえか! そうして泣き縋るお前に凌辱の限りを――」
ネトルは最後まで言葉を発することは出来なかった。
視界がクルッと回ったかと思えば、さっきまで高らかに叫びまくっていたネトルの首が宙を待っていた。
「この子を殺すだと……? 私への凌辱云々は死ぬほどどうでも良いが、そればかりは許せん」
「……がっ……あがっ」
「同じヴァンパイアとしてその生命力だけは感心するよ。だがお前も知っているだろう? どんな強い生命力も、脳を破壊されれば意味を持たないことを」
フィアママはいつの間にか、俺を抱く手とは反対の手に真っ赤な鎌を持っていた。
俺が思う最高にかっこいい武器トップスリーに入る鎌の出現に、俺は心の底から大興奮していた……まあ目の前で頭が飛んでるんだけどこれにビビらないのも前世のおかげだな。
「死ね」
スパッと、ネトルの頭は両断された。
生きる力を失ったことで、分断された頭と残された体は空気に溶けるように消えていく。
「ふぅ……すまない嫌な物を見せたか」
「あ~う~」
くそぅ……やっぱり喋れねえや。
そんなことはないよ、かっこ良かったと伝えたいんだけど……だが、そこでフィアママに異変が起こった。
「っ……くぅ……はぁ……はぁ……っ!」
手に持っていた鎌が消え失せ、苦しむようにフィアママが蹲る。
俺を抱いたままなのでその苦しそうな息遣いがこれでもかと届き、余計に心配の念を駆り立ててくる。
「フィ……まんま……?」
「あぁ……大丈夫だ……と、言いたいところなんだがな」
まるで熱に浮かされたかのような様子……それこそ人間が風邪を引いているような表情だ。
近くの木に背中を預けるようにしながら、フィアママは言葉を続けた。
「ちょうど血を吸わないといけない時期が来ただけだ……そこまでの量を必要とはしないんだが、ちょうど渇いている時に力を使ったせいでいつも以上に衝動がある」
あ、やっぱりヴァンパイアだから吸血衝動があるのか。
「だから早くストックしている血を……あ」
っと、そこでフィアママは呆然とした表情へと変わった。
その視線の先は先ほどまで俺たちが居た場所……つまり、フィアママが使っていた家なわけで、そのリビングとも言える位置はネトルによって破壊されてしまっている。
もしかして……?
「マズイ……血のストックが……っ!」
やっぱりそうなるんだな!?
吸血衝動というものはやはり抗えないのか、更にフィアママの息は荒くなり瞳も瞳孔が広がっていく……だがどうやらフィアママは肝心なことを忘れているらしい。
「だっ!」
「……お前」
そう、ここに俺が居るじゃないか。
一体どれだけの血を吸われるのかは分からない……怖いけど、それでも苦しむよりは全然良いんじゃないか?
「だ、ダメだ! 子供から……それもお前から血を吸うなど、そんなことは決して許されん!」
「あ~う~! だっ!」
「十歳そこらの子供ならまだしも、お前は生まれたばかりだろう? あまりにも体への負担が――」
ええい! 煮え切らないなと、俺はフィアママの口に指を突っ込んだ。
この赤ん坊の体もこういう時には役立ってくれた……何故なら、そんな渾身の一撃は良い具合にフィアママの尖った牙に当たり、薄らと血が出てきたからだ。
「お前……」
「だうっ!」
「……ありがとう」
フィアママは瞳に慈愛を乗せるように、開いていた瞳孔をゆっくりと元に戻していく……だがそこで、俺は自分の血がキランと輝いたのを見た。
それはまるで、俺の力が……奇跡を起こす力の発動に見えたんだ。
「っ……あむ……ちゅる」
そしてそれは、フィアママに更なる変化を及ぼす。
俺の指から出る血を舐め取る彼女は……何というか、あまりにもエロいというか……色気が凄まじい。
しかしながら俺の体は所詮赤ん坊……何も起きないので一安心だ。
「あぁそうか……そういうことだったのか」
「あう?」
「お前が私の……旦那様なのだな?」
「!?!?!?」
……はいいいいいいいいいっ!?!?
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