第2話  宝玉

放課後。

「なあ~。かなちゃ~ん」

 イヤな奴が話しかけてきた。彼は近藤雅一。幼なじみの、俗に言ういじめっ子だ。何かと昔から私に突っかかってくる。

「近衛さんと仲直りできなくて寂しいでしょ?俺と帰らない?近くにコンビニあるから、おごるよ」

「そんなのいいし。典道は。いつも一緒じゃん」

「あー、アイツ帰った。塾だってさ」

「そ」

 イライラオーラを、微妙に出しながら対応する。頼む。早く帰らせてくれ。私は今、気持ちが沈んでいるんだ。ナップを背負い、挨拶する。

「んじゃね。また明日」

 私の気持ちなど、知ったことかとでも言うように優しく話しかけてくる。

「冷たいなあ~。せめて顔見せろよ」

「・・・」

 私は前の扉から廊下に出る。

 すると後ろから足音がして、それが急に止まった。

「近衛に無視されて病んでるだろ!?」

 私はこめかみがきしんだ。ああ、そうだよ。たしかに今心は沈んでいる、病んでる。ただ。何も知らないお前に、口出す筋合いはない!

 だから。

「うるさい」

 それが精一杯だった。しかし雅一は煽るように私に向かって叫んだ。

「はあ!?聞こえねえよ!!」

 その時、私の中の なにか がキレた。

 自分でも怯むぐらいの大声で叫んだ。

「うるさいつってんだろ!!!」

 そういってふりかえる。

 雅一は、潰されたように顔をしかめた。

「えーなになに」

「タイマンか?」

 気づけばクラスメートどころか、隣の5組まで興味深そうに私を見ている。

 私は突然恥ずかしくなり、ズカズカと下駄箱に向かった。


 帰り道。

 私はため息ばかりついていた。

 思い出す度、後悔という2文字が脳裏をよぎっては消える。

 何もうまく行かない。人間関係も、運動も、成績も。自分は何も成し遂げられない。

 自暴自棄になっていた、その時。

「?」

 周りが霧に包まれていた。

「いつもの道通ったのに。変だな」

 前になにかある。

 ゆっくり近づいていくと段々と形がはっきりしていく。

 小さくて古そうな骨董屋が姿を盛大にみせていた。

 その店は私を呼んでいるようだった。

 まるで、手招きするように。おいでおいで、と言うように。

「・・・入ってみるか」

 入らないと、帰らせてくれなさそうな雰囲気だったので、入ってみることにした。

 カランコロン 。

 カフェとかによくある、ドアのベルがなる。

 バタン。

「こんにちは。どなたかいらっしゃいませんか」

 返事がない。もう一度言ってみる。

「どなたかいらっしゃいますか」

 やっぱり返ってこない。

「留守かな。でも店は開いてるし。」

 キラン。

「ん」

レジの方で、なにかが光った。

 見る限り、赤色をしている。

 私はカウンターに寄った。

 光っていたものは、何かしらの玉だった。

 驚く程に赤く、美しかった。

「それは神の宝玉ですよ」

 突然の声にびっくりした。弾かれたように、前を向く。

 するとさっきまで居なかったはずのおばあさんが、数珠をジャリジャリさせていた。

「それは神が作ったとされる、究極の玉です。持ち主にふさわしい者に触れたときには、強く反応すると言われています」

「へえー」

 私は何も考えずに、玉を持ってみた。

 すると。

 ビカアッ !!

 玉が太陽のように眩しく光った。私は慌ててもとの場所に置く。すぐに光が消えた。

「ま、ま、まさかあなたのような方に・・・反応するとは・・・」

 おばあさんが目を見開いて言った。手から、数珠が消えていた。間もなくボトっ、という音がした。数珠を落とす程びっくりしたんだな、そう思っていると。

「これ持っていきますか?よければ・・・差し上げますよ」

「え、いいんでしょうか」

「どんな物も、持ち主と一緒にいるほうが良いですからね。大事にしてください」

 私は一礼すると、店を出た。

 カランコロン。

 次にベルがなった時、世界が変わった。といっても、普通の通学路に戻っただけ。

 手には、赤い玉があった。私は悟った。あれは幻ではなく、本当に自分の身に起こったのだと。

 宝玉の光は随分弱まっていた。私はポケットにそれを突っ込んだ。


 前置きが長くなった。今ここに、すべてを話すことを宣言しよう。

 私達の、不思議な3年間の物語を。

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