第4話 もう、オレ達に逃げ道は無かったんだ。

 『お前ら、コレにサインしただろ』

 彼女が手に持って見せたのは、オレが部屋の鍵を貰う時に書いた自分達のサインと〇の印、その紙の一番上には[労働者適正選抜試験申し込み]と書かれていた。


『これはな、自分達が働く事のできる職場を[自分で]探し、試験を受けて合格する事で労働者としての適正を認められる、って事に同意したってサインした事になるんだ。 出された物に、目も通さすサインするようなバカはこうなるって見本だな』


・・・・・

 全員が押し黙る中、女性係員はここにいる全員に目を向ける。


「だっ!でも、オレは働く気は無ぇし!」「そうだ!働く気も無ぇのに試験なんか受けるかよ、オレは帰るからな」「そうだ!帰るから、それでネットに上げてやるからな」そうだ、家に帰ってもオレが損するわけじゃない、料金分は楽しんだんだ、追加で泊まれないだけで損はしていない。


『はいバカ発見!お前ら本当の馬鹿だな、お前ら、誰に言われてここに来たんだ?親だろ?お前らクソ引き籠もりのうんこ製造器を、なんでここに行かせたと思う?

同意済みなんだよ、良く言えばお前らは引き渡れたんだ』

 悪く言えば捨てられたんだ、帰る家にはお前らの部屋は無ぇよ。


「は?・・・」「うそ・・だろ・・」「騙されたんだ!そんな嘘信じない!」

「親がオレを捨てるはずが無いだろ 嘘つくな!」

「親は子供を養育する義務があるんだ!法律違反だろ!」


『ハイハイ、法律法律、クソワロタ。じゃあそんな法律に詳しい馬鹿共に質問だ、親が倒れた時・動け無くなったとき、親の介護する義務、これを扶養義務って言うんだが、それは知ってるか?』

 親は養育義務を持つが、健康な子供は扶養義務を負う。親だってタダでゴミに飯を喰わせている訳じゃないんだよ。


『お前ら親の寄生虫・ゴミ人間が、親の介護なんか出来んのか?』ムリだろ?


「・・・・・」


『もう親は『お前らの介護は要らん』って切り捨てたんだよ、良かったな、老いた老人の世話なんか、お前ら絶対耐えられねぇぞ?・・・って事で説明を続けるぞ?』


 労働者としての適正は無く、本人に試験を続ける意思が無い、そう判断された時点で[労働の義務]を果たせないと判断される。


 日本国憲法においても第27条1項の勤労の権利と並び置かれ、教育・納税・勤労と並ぶ3大義務であり、27条で労働の義務を負う、ときちんと書かれてあるのだ。 

『つまりだ、権利を求めるなら義務を果せ、それくらいガキでも解るだろ?

 物が欲しければカネを払え、それくらいの常識だぞ』

 権利だけを欲しがるのは、カネも払わず物を欲しがる事と同じだ、それは泥棒か乞食だろ?と。


『この国にはもう泥棒を住わせる場所も、乞食に喰わせるカネも無ぇんだって、

 安全な国でインフラを利用したきゃカネ払え、税金を払えないヤツは国民じゃねぇって事だ』


「でっでも、税金は親が払ってるし、インフラだって・・・家から出ないから」

『その親が『お前らは要らん』って言ってるんだ、働かない意思もお前らの口から出た言葉だろ?じゃ話しは合ってるよな、続けるぞ?』


 親にも国にも義務を果たせないと確認された場合、権利を与えられるかどうかは相手の状態しだい、国がその者に権利を『与えるのはどうだろうか?』と判断して、止めて置こうという声が大きくなった場合、権利の剥奪はあり得る話しだった。

「まさか・・」


『その法案が通ったんだよ、お前らが選挙に行かない間にな』

 

 それは法案より少し手前の[案]の一つで、特区を作り義務を果さない者を集め[最低限の保証]だけをするという。


『お前らが知ってるかどうかは知らないが、この国には数千以上の無人島があるんだよ。その一つにお前らを運んで『勝手にしろ』って事、良かったなお前ら、今度は無人島で死ぬまで引きこもれるぞ。正し、島にはインフラは整備されてないから、水・電気・電波は自分達で整備する必要があるけどな』


「嘘だろ・・・!そうだ!!

 日本国民は最低限度の生活を保障されているんだ、そんな事が出来るわけが無い」


『その為の特区だよ、自治区と言ってもいい。

 そこで実験的に自由に自治を行って好きに引き籠もれって事だ、ニートの頭では理解出来ないか?ちなみに、法律の保護も反故も自由だ。

 精々最低限度の文化的な生活ってヤツを楽しんでくれ』


『ちなみにここ、特区の飛び地として登録してある。

みなさ~ん、状況が理解できましたか~~、では抵抗は無意味だと理解出来たはずなので、これからは頑張って生きて下さいね♡』


 オレ達の後からぞろぞろと姿を表してきた重装備の人間、機動隊の完全装備のように盾と警棒を持ち、人数はオレ達の倍以上。オレ達を捕縛しようとする連中の後にも盾を並べてオレ達を逃げられ無いようにしている。


 もう、オレ達に逃げ道は無かったんだ。


 スマホを取られ手錠と目隠し、抵抗したヤツはテーブルや床に身体を倒され後手に手錠を掛けられ、口には喋られないように猿ぐつわを噛まされた。


『最後に言っておくけど、お前らは親から捨てられたんだ。島から逃げても帰る家は無いよ?無職で住所不定、働いた経験も働く意思も無い人間が、島以外の場所で生られるとは思わないように。

 住民票をとりにお役所なんかに行ったら、そのまま確保して連れ戻すから、面倒な手間は掛けさせないでね』


 目隠しをされ腕を掴まれてトラックに運ばれるオレ達には、その声は絶望しかない物だった。

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アンダーワールド 葵卯一 @aoiuiti123

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