第2話 上も隣も引き籠もり、ここは引きこもりの天国か。
引き籠もりの男共が到着したのは、TVにCMが流れてそうな旅館だった。
新築7階建ての旅館の前に優しそうな仲居さんが10人以上が並び、オレ達を迎えてくれて旅館の床は赤くフェルトのように柔らかい。
「皆さ~ん、お部屋の鍵をお渡ししますので、こちらにお名前をお願いします」
部屋番号を確認すると名前、そのよこに受け取りのサインとして〇を書く。
金属プレートの鍵は番号が刻印され、その番号の部屋の壁に鍵を差し込むカードキー。部屋には充電器が置かれスマホ用のケーブルもある。
「Wi-Fiの電波も十分か」
ここで引き籠もってたらあいつらどんな顔するんだろう。
(当然料金は親持ちだよな、あいつらが行けと言ったんだから、責任はアッチにあるし)10年くらいは余裕で引き籠もる自信はある。
・・・掲示板を見ていたらだんだん周囲がうるさくなって来る、バタバタドタバタ、うるさい、なんだ?とか思っていたら,上から どん! と物が落ちるような音が。
(違う、物が落ちた音じゃない、これは、上のヤツが飛び跳ねていやがるんだ!)
床に飛び跳ねドン!ドン!と音を立てるバカがいる、うるせぇ!
「ウルセェぞバカ!静かにしろ引き籠もりが!」大声を上げるオレ、直ぐに左右がドン!ドン!両隣が壁を叩いてくる。
「お前がうるさいんだよ引き籠もりが!」「うるさい黙れ!」
壁も天上もうるさい、なんだこいつら!
「上がバンバン飛び跳ねてうるさいんだ!ソイツに言ってんだから黙ってろよバカが!」「黙ってるのはお前だバカ!」「どうでもいいから静かにしろバカ!」
「おれは静かにネット見てんだよバカ!うるさいのはお前らだボケ!」
15分以上怒鳴り合って疲れた、でもオレは悪く無い、悪いのは上のヤツだ意地でも負けるか!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
勝った、上のヤツが飛び跳ねるのを止めて静かになって、左右のヤツらには「上が静かになったから黙ってやる!お前らも壁を叩くなよ!」
「「ドン!」」最後に左右からを叩く音がして静かになった、オレの勝利だ。
(それにしても、なんで上のヤツが飛び跳ねて・・・)ああ、時間か。
窓の外は暗く、時間は20時。飯が欲しくて飛び跳ねていたのか、アホだな。
(そう言えば晩飯って・・・)パンフレットを確認、なるほど、食堂で喰うのか。
飯を食うのには部屋から出る必要がある、そんな事すら忘れていた。
(ガキの頃には当たり前の事だったのに、そんな当たり前の事すらできなった大人がいる、、、、)少しだけここに来て良かった、そんな事に気づけて良かったと思った。
ビュッフェ形式の食堂で小恥ずかしそうに料理を取る男が数人、多分オレと同じように気が付いた連中だ。
(ここに来ていないヤツはまだ部屋に引き籠もって、扉の外に食い物を置かれるのを待っているのか、アホだな)そう思うと同時に、自分も家で同じ事をしていた事を思い出し口角が上がる。
席を離し挙動不審に飯を食う男、ローストビーフばかりをひたすら喰うデブ、豚のように食い散らかしテーブルを汚し床にこぼす男、食堂に来ても臭い匂いを撒き散らかす不潔な男。「飯が不味くなる」こいつらクズばかりだ。
「・・・・ここ、いいか」窓際で飯を食っていたオレに話掛ける男がいた。
(他にも席はあるだろ、なんで此処なんだよ)とは思ったが、声が出ず、頷くだけしか出来なかった。
「・・オレは放出 大輝[はなてん だいき]そっちは」
なんでオレ?こいつに名乗るのか?
「・・・私市 拓海[きさいち たくみ]」
放出はオレの斜め前に座り、料理を食べ始めた。
「・・・オレ、家で7年引き籠もってた」
「そっ、、、オレは5年」
大学を中退してそれからずっと無職で引き籠もり、親が急にパンフレットを渡し『行ってこい』と言われたらしい。
「働く気なんか全然無かったけど」ここに来て親に少し感謝しているらしい。
自分より不潔でバカな引き籠もりがいる、そんな状況を直視すると自分がまともでまだ引き返せるかも知れないと。
「ここの料金くらいは返そうと思う。帰ったら簡単なバイト探して・・・」
「あ・・う・・」言葉が出無い。
(社会復帰・・・)初対面の人間と話しを出来る人間なら社会に出て働いてくれ、オレは嫌だ、親が死んだらナマぽ生活して一生働かないんだ。
働いても社畜になるだけ、こき使われて人生すり減らして身体を壊すくらいなら税金で喰える『ナマぽ貴族に、オレはなる!』
「ここに居たヤツの中ではまともそうなだから、アンタに声を掛けたんだが」
「そっ・・かっ・・すま」他人と話すのが辛い、言葉が出ない。
対面でなければ・壁があれば、暴言や文句なら簡単にでる声も人と話す時には出なくなる、でもどうせ一生働かないんから問題無しだ。
食堂で何年ぶりかのビールを飲んだ、身体が久し振りのアルコールを摂取して分解出来ずに視界が回る。
ぐるぐるぐるぐる・・・・(ああ、目が回る、ビールじゃなくてファンタにしておけば良かった)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます