第13話 囮作戦1
朝、サラが目を覚ますとすでにアルカードは姿を消していた。いくら力の強い吸血鬼でも陽の光の中では姿を保つのは難しいようだ。
隣の部屋のソファで寝ていたオルファを起こして、手近にある食料で朝食を取りながら昨日の話の続きをする。そうだ。図書館で借りた本には魔女が記憶を盗む『忘却術』について記された書物があったのだった。
イザベラはこの屋敷のどこかにアルカードから盗み出した記憶を保管しているはず。
「昨日さ、お前がいい気分で寝てる間にアルカードの野郎に聞いてみたんだよ」
「何を?」
サラがスープを飲む手を止め、きょとんとした顔で尋ねる。
「イザベラが記憶を保管してる場所だよ!『心当たりは無いか?』って聞いたら、
『イザベラは屋敷のどこかに秘密の儀式部屋を持っていて、朝には必ずそこに帰る』って言ってたぜ」
パンを口いっぱいに頬張り、もぐもぐと話続ける。
「でも、アルカードを含めた彼女の
『もしかしたらそこが怪しい』とは言っていたが、これがなかなか特定するのは難しいんだと」
「どうして?」
「あの魔女ババアは鼻が効くらしい。匂いに敏感だから、尾行してもすぐに暴かれてしまうってさ」
「前に書いてくれた魔法陣は使えないんですか?」
オルファはしばらく考えた後に、苦々しく言った。
「あれは、動く対象には使えないな」
アルカードが言っていたというイザベラの隠し部屋について、サラも何か心当たりが無いか思いを巡らせるが、めぼしい場所は浮かばなかった。
『イザベラは必ず毎晩そこへ帰っていく』
サラは何気なくティールームの窓から中庭を眺めた。
外ではハチワレ模様の野良猫がポーチの段差に寝転んで気持ちよさそうに日向ぼっこをしている。
「昔、ウチに野良猫が侵入したことがあったんです」
ん?とオルファも窓の外に目をやる。
「母の編み物道具をめちゃくちゃにしてドアの隙間から逃走したんですけど、その時に脚に毛糸が絡まったまま逃げたので、すぐにキッチンの隅にいるところを見つけることができたんですよ」
「イザベラの足に紐でもくくるってか?」
オルファが怪訝そうに聞いてくる。
「何か魔物の目には見えない糸のようなものがあればいいのですが……」
考え込むサラの背中を、興奮した様子のオルファが叩く。
「その手があったか!でかしたぞお前!」
オルファは教会の宝物庫にあると言われている『金のローブ』の話をした。それによると、身につけると魔物から姿が見えなくなる貴重な金糸で作られたローブが、町の教会には奉納されているらしい。
「王族から賜った高価なものだから、流石にローブを持ち出すことはできないが、ほつれた糸を拝借するぐらいは大丈夫だろう」
「その見えない糸を何かに巻いてイザベラに渡せば、部屋を特定することができますね!」
作戦に希望の光が差し、これでアルカードの記憶を取り戻せると心が踊る。
「決まりだな。で、誰がイザベラと対峙するんだ?」
そんな危険な役回りはごめんだというふうにオルファは両手をあげてヒラヒラと振った。
サラはオルファの顔を覗き込み、半目状態でじっとりと見つめた。その視線には軽蔑と不審の念が多大に含まれている。
「……アナタ、私のこと囮にしましたよね?」
「そんなことあったっけか?」オルファは叱られた犬のように目を合わせようとしない。
「アルが、イザベラは器量の良い男性が好みだと言っていましたよ」
必死で目をそらしているオルファに向けてサラは適当にでっちあげた話を続ける。
「年下の従順な捨て犬タイプがいいらしいです。オルファはぴったりじゃないですか!」
「ふざけんな真逆だろうが!」
まるで捨て猫のように抵抗していたオルファだったが、やがて諦めて囮作戦に協力することを約束した。
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