第10話 守護霊

『許されようなんて思っていない』

『大切なのは己の力で立ち向かったかどうか』


 サラはこの言葉を何度も繰り返していた

 私は、どうだっただろう?

 己で考えもしなければ行動も起こさず、覚悟もなかった。


 私は何もできなかった


 ——だから、彼は

 ——大切な彼は私のせいで




 ******



 サラが冷や汗にまみれてベットで目覚めると、心配そうなアルカードとオルファがベッドを取り囲むようにして座っていた。


 大丈夫か?と声をかけるオルファに少し疲れただけと説明する。アルカードがすまなそうにサラの頭を撫でた。


「状況はコイツから聞いた。やっぱり女性を攫っていたのはこいつで、とんでもない魔物じゃないか」

 オルファはアルカードを睨みつけながら言う。


「そんなこと言わないで。アルの言い分も良くわかります。どんなリスクを負おうとも、無くした記憶を取り戻したい。そのためにはどんな犠牲も厭わない」

 アルカードがサラを見ている。


「そして、それを許されようとは思っていないということも……」


 サラは話しながら、胸が潰れそうなほどの切なさを感じていた。


「私には、本当に……その強さが、羨ましい。私にもその強さがあればよかった」


 少しの間、ためらう様子を見せたオルファがかけた次の言葉にサラは身を固くした。


「それは、お前の後ろにいる男に関係する話なのか?」

 

 オルファの視線はサラの右肩の後ろに広がる虚空にあった。

 サラは放心したような目でオルファを見る。


「誰か……いるのですか?」


 声が震える。


 ——まさか


「お前の後ろ、出会った時からずっといるよ。深い緑髪の男だ」

 サラは息を呑んだ。


「黒い鎧を着て、ずっとお前のそばにいる」

 アルカードもオルファの言葉を肯定するかのように床に視線を落としている。


「シモン」


 サラは力なく呟き、自責の念に耐えられないというように手で顔を覆う。


 アルカードとオルファは黙ってサラを見守っていた。


「私は、恨まれても当然の人間なんです」


 サラは誰に促されるでもなく、世界の終わりだといわんばかりの悲痛な表情で旅に出るきっかけとなった事件について語り始めた。

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