第17話

 十五分経って佳子が起きなかったらこっそり帰る。


 ただそれだけの簡単なお仕事。


 子供だって達成できるイージーなミッションだ。


(そう思っていた時期が僕にもありました……)


 佳子が眠ってまだ数分だが、裕太は今、猛烈におちんちんがイライラしていた。


(っていうかお昼休みからずっとイライラしてるし!? やっとエッチ出来ると思ったら内田さん寝ちゃうんだもん! しかもこんな天使みたいに可愛い寝顔で! 完全に無防備な状態で! パンツだって丸出しで、ムチムチのお尻も太ももも丸見えで! そりゃおちんちんだってイライラしちゃうよ!?)


 その上佳子は膝枕と称して裕太の腰にベッタリ抱きつき、太ももを枕にして、おちんちんのすぐそばでくぅくぅと可愛らしい寝息をたてているのだ。


 膝にはモニュンと暖かな塊が乗っているし、佳子の部屋は相変わらず良い匂いだし、佳子の頭や身体からもほわほわと痺れるようなフレーバーが香っている。


 脱童貞したとはいえ、昨日まで童貞だった裕太には堪らない。


 というか、一回エッチした程度でいきなり童貞力が消えるわけもない。


 むしろエッチしてしまった事により、エッチの味を知ってしまった事により、佳子の裸を見てしまった事により、彼女の柔からさ、甘い香り、淫らな喘ぎ声、その他諸々を体験してしまった事により、余計にスケベになってしまった気さえする。


 昼休みの痴態に負けず劣らずの生き地獄、ムラムラ寸止め焦らし空間が発生していた。


 否が応にもおちんちんの支配力が高まって、裕太を切ない気持ちにさせる。


「まずい、まずいよ……。このままじゃ、頭がおちんちんになっちゃうよ。どうにかして気を紛らわせないと……」


 それで裕太は考えて、携帯を取り出した。


 時間を潰すならツイッターは最強のアプリだ。


 これを眺めているだけで、十五分なんかあっと言う間に過ぎるだろう。


 そう思ってアプリを開くのだが。


 悲しいかな、裕太はエッチな絵師ばかりフォローしていた。


 当然、タイムラインには彼らが描いたエッチな画像ばかり次から次へと表示される。


 あちらでは流行りのネタに乗っかった二次創作エロ大喜利が開催され(例えば太ももムチムチずんだもん)、こちらでは流行りのアニメ二次創作エロ画像発表会が開催され(〇ンジョン飯チェンジリング回種族入れ替えネタ、ハーフフット化脱法ロリに、ムチムチドワーフ&オーク化、オーガもあるよ!)、他にも粛々と特定のジャンルの絵、性癖ばかりを描き続ける職人達の魂の傑作等々……)


「って、こんなの余計にチンイラするよ!?」


 慌てて携帯をぶん投げる。


 危うくおちんちんに身体を支配される所だった。


「うぅぅ……。余計にムラムラしただけだった……。って、まだ五分も経ってないの!?」


 佳子の部屋に置かれた時計を見てガックリする。


 退屈な授業の比ではない程時間が間延びしていた。


 無駄にムラムラしてしまった事もあり、このままではとてもではないがあと十分も正気を保っている自信がない。


「な、なにかないかな……。気がまぎれる物……」


 本棚に手が届いたら、漫画でも読んでチンイラを誤魔化せるのだが。


 佳子の本棚には有名どころからマイナー作品まで、幅広いジャンルの漫画が収められている。


 中には刃〇や〇斗の拳なんかもあって、この辺を読む事が出来ればチンイラも収まりそうだ。


「持ってないけど気になってた漫画もかなりあるし……。普通に読ませて貰えないかな……」


 オタクのサガでついそんな事を思ってしまう。


 と、不意に裕太は気になるタイトルを発見した。


「ふ、〇たりエッチ!?」


 知らない漫画だが、物凄く気になるタイトルだ。


「異世界〇ビュアーの原作もある!」


 こちらはアニメで知っている。


 異世界の風俗業をテーマにしたエッチな作品だ。


 恥ずかしいので親に隠れてコッソリ見ていた。


 すごく良い作品で、是非原作漫画を読みたいと思いつつ、恥ずかしくて買えなかった作品である。


 他にも『異世界セックス無双』や『いじめられっ子の僕が復讐の為に悪魔を召喚したら処女サキュバスがやってきた件』、『パワハラ上司は〇ナルが弱い』等、所々に気になるタイトルの作品を発見した。


「ど、どんな話なんだろう……。っていうか、普通にエッチな漫画混ざってない?」


『エロトラップダンジョンRTA』とか、『クラスメイトと〇っクスしないと出られない部屋に閉じ込められたんだが男が俺しかいない件』などはどう考えてもただのエロ漫画である。


 佳子の趣味なのか、はたまた親が買った本が置いてあるだけなのか(それもどうかと思うが)。なんにしろ、物凄く興味をそそられるタイトルである。


「って、バカバカバカ! エッチな事考えちゃダメだってばぁ!」


 裕太は頭を抱えた。


 すやすやと眠る佳子の鼻先数センチの場所では、一個師団が収まりそうな程巨大なテントがそそり立ち、硬くなった支柱がビクビクと脈打ちながらSOSを送っている。


 あまりの切なさに、裕太は目が回ってきた。


「……内田さん完全に眠ってるし……。ちょっとくらいなら触ってもバレないかな……」


 ちょっとだけ、先っちょを少しにぎにぎするだけ。


 時間になるまで、ちょっとガス抜きをするだけだ。


 こっちだって頑張っているのだから、それくらいは許されるのでは?


「って、いいわけないでしょ!?」


 おちんちんに乗っ取られかけてハッとする。


 付き合ってまだ二日目の彼女の家で、自分の為に早起きして寝不足で寝ている彼女に膝枕をしながら、我慢出来ずにおちんちんをにぎにぎするなんて。


 どう考えてもアウト、頭おちんちんの変態である。


 ……いや、佳子なら「あらあらうふふ。我慢出来ずに一人でしてしまったのかしら? たった十五分を耐え切れず、性欲に負けて一人でおちんちんを握ってしまったのかしら?」とか言って喜びそうだが。


 それはそれでそそるシチュエーションではあるのだが……。


 でもダメだ!


 絶対ダメ!


(僕にだってプライドはあるんだから!)


 ただでさえ佳子には押され気味なのだ。


 ここで負けたらこの先ずっと佳子の尻に敷かれてしまう。


 いや、あんなに大きなお尻なら敷かれてもいいかなとも思いつつ。


 いくら佳子でも普通にドン引きするかもしれない。


 そんなリスクは犯せない。


(あ、あと五分だから……。五分経ったら帰ってちんちんだから……。頑張れ僕、負けるな僕……。ちんちん、ちんちん、ちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちんちん――)


 もう、裕太の頭はちんちんの事でいっぱいで、ちんちん電車になった気分だ。


 それでもなんとか十五分を耐えきった。


「フーッ……フーッ……フーッ……。う、内田さん……。十五分経ったよ……。起きる時間だよ……」


 柔らかな佳子の肩を軽く揺する。


 案の定、佳子は爆睡していて起きる気配はない。


 それでいい。


 裕太だってこの期に及んで佳子が起きてエッチ出来るなんて思ってはいない。


「……じゃあ、僕は帰るからね。また明日、学校でね……」


 佳子の頭を撫で、ふわふわの頬に軽くキスをする。


 その瞬間、不思議な事におちんちんの支配力が弱まった。


 ギラギラした剥き出しの性欲とは違う、もっと暖かく幸せな気持ちで胸がいっぱいになる。


 それはエッチした後、性欲の全てを吐き出した後に裸で抱き合っている時に感じる、あの幸せな気持ちと同じものだった。


 それはエッチと同じか、それ以上に心地よい物だった。


 それだけで、裕太は切ない気持ちを堪えてまで佳子の家に来た甲斐があったと思った。


 荒れ狂う性欲の津波に心の中で血涙を流しながら必死に耐えた甲斐があったと思えた。


 僕は今、ちゃんと彼氏を出来ている。


 性欲に負けず、内田さんに対する好きを大事に出来ている。


 その事が誇らしい。


 でも、もう限界だ。


 それはそれとして一刻も早く家に帰ってスッキリしたい。


 裕太はそっと、爆弾処理班のような慎重さで膝に乗る佳子を降ろそうとした。


 だが、出来なかった。


 眠っている癖に、佳子の両手はガッチリと裕太の腰を掴んで離さない。


「ど、どうしょう……。無理に動くと内田さんの事起こしちゃいそうだし……」


 困っていると、佳子が寝言を呟いた。


「……かえっちゃ、らめぇ……」


 小さく寝返りを打ち、目の前にある物をぱくりと口に咥えた。


「ぁ」


 不意打ちがクリティカルして、裕太の意識が白濁した。

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