第16話
(授業が終わったら内田さんとエッチ授業が終わったら内田さんとエッチ授業が終わったら内田さんとエッチ授業が終わったら内田さんとエッチ――)
昼休みに限界ギリギリまで焦らされたせいで、裕太の頭の中はエッチの事でいっぱいだった。
お腹の中でグツグツと、熱いパトスが煮立っているみたいで気持ち悪い。
勉強なんかまるで手につかず、放課後までの数時間が無限のように長く感じられた。
今や裕太は、身も心も完全におちんちんに支配された状態だった。
情けないと思うのだけれど、恥ずかしいと思うのだけれど、いけない事だと思うのだけれど、おちんちんがイラついてどうしようもない。
(やっと終わった!)
放課後になると、裕太は鞄を引っ掴んで教室を飛び出した。
そして、昨日コンドームを買ったコンビニで佳子を待った。
二人の関係を隠す為に、帰るタイミングをずらす事にしてあった。
待った時間は十分程だったが、それすらも裕太には耐えがたい程の苦痛だった。
「はぁ、はぁ、はぁ……。ごめんなさい、待たせてしまったわね……」
佳子も昼の事はやり過ぎだったと思っているのだろう。
早く裕太を楽にしてあげたいと、急いで追って来たらしい。
申し訳なさそうな佳子の顔を見た途端、おちんちんの支配力が弱くなり、罪悪感に襲われた。
自分がスッキリしたい為だけに彼女を急がせるなんて、ダメな彼氏のする事だと反省する。
「ううん、全然! そんなに急がなくてもよかったのに!」
おちんちんは相変わらず耐えがたい程にイラついていたが、そんな事はおくびにも出さず、裕太は佳子を安心させようと明るく振る舞った。
「でも……。授業中も松永君、すごく辛そうだったし……。寸止めプレイは楽しかったけれど、正直かなり萌えたのだけれど……。でも私、松永君が苦しめたかったわけではないの……。辛い思いをさせたかったわけではないのよ……。それが私のせいなら猶更よ……。申し訳ないし、嫌われてしまうんじゃないかって気が気じゃなかったわ……」
「そんな事で嫌いになったりしないよ! 僕だってなんだかんだ楽しんでたんだし、おあいこだよ! でしょ?」
「そう言ってくれると助かるのだけれど……。今だって本当はすごく辛いんでしょう?」
「そんな事ないよ!」
「そんな事あるじゃない。嘘を言っても私にはわかるんだから。付き合ってまだ二日目だけれど、私はずっと松永君の事を見ていたのよ? 様子がおかしい事くらい分るわ。私に気まずい思いをさせない為に、頑張って気丈な振りをしている事くらい分かるんだから……。だからさぁ、早く行きましょう? 私が楽にしてあげるわ」
優しい笑みを向けられると、裕太は無性に情けなくなった。
「……ごめんね内田さん。気を使わせちゃって……。なんか僕、おちんちんの事しか頭にない奴みたいで恥ずかしいよ……」
実際その通りではあるのだろうが、だからこそイヤだった。
なにも裕太はエッチがしたい為だけに佳子と付き合っているわけではない。
エッチの為だけに、性欲を発散させる為だけに佳子の告白を受けたわけではない。
勿論それもあるのだが、その事は否定できないのだが。
それ以外にももっと色々、恋人らしい事、青春っぽい事をしたくて付き合ったのだ。
「気にしないで。私だって同じ気持ちなのだから。切なくなってる松永君を見て、物凄くムラムラしてしまっているのだから。早くエッチがしたくて堪らない、頭破廉恥人間なのだから。だからお願い。そんな風に自分を責めないで。じゃないと、私まで自分の事を責めてしまうわ。松永君に告白したのは二人で楽しく青春を過ごす為で、こんな風に落ち込む為ではないのだもの……」
佳子は自分を責めているようだった。
口ではあれ程裕太が悪いと言っておきながら、その実内心では、全部自分が悪いと背負っているようだった。
優しい子だなと裕太は思った。
こんな優しい子を彼女に出来て自分は幸せ者だ。
こんな優しい子を悲しませてはいけないと思った。
おちんちんの支配力はさらに弱まった。
いや、裕太の意思が強くなったのだ。
「うん、ありがと! これからエッチするんだから、楽しい気持ちでいなきゃだよね! お昼の仕返しに、今度は僕が内田さんの事めちゃくちゃにしちゃうんだから!」
「そうこなくっちゃ。でも無理よ。松永君はもう限界なのだから。表面張力ギリギリまで水が溜まったコップと同じ。間違いなく入れた瞬間に果ててしまうわ。もしかしたら、入れるまで持たないかも。昨日以上に情けない事になってしまうのは確実ね」
佳子も調子が出て来たのか、ニヤニヤしながら意地悪を言ってくる。
でも、イヤな気はしない。
全然しない。
むしろ燃えた。
二人にとって、それは言葉を使った愛撫であり、前戯だった。
「それは否定できないけど。でも、その後はずっと僕のターンだよ。だから先手は譲ってあげる。どうせ最後に勝つのは僕なんだからね」
得意気な裕太の態度に、佳子はムッと唇を尖らせた。
「き、昨日はたまたまよ。初めてだったし、ちょっと油断しただけ。今日は最初から最後まで私がペースを握るんだから。松永君は私に責められて、女の子みたいにあんあん喘いでいればいいのよ!」
「内田さん。ちょっと声、大きいよ」
裕太が人差し指を立てると、佳子はハッとして口元を隠した。
そんな話をしていたら、裕太を狂わせるおちんちんの呪縛がまた強くなってきた。
だが負けない。
裕太は意思を強く持ち、なんとかおちんちんの手綱を握った。
他愛もない話をしながら、二人並んで家路を急ぐ。
(手を繋いで歩けたらいいんだけどなぁ……)
エッチと同じくらい、あるいはそれ以上に、裕太は今、佳子の手を握りたかった。
そうして一緒に歩けたらどんなに素晴らしいだろう。
でも、二人を知る人間にそんな姿を見られたら一発で付き合っている事がバレてしまう。
それは出来れば避けたい事だ。
「エッチはしてるのに手は繋げないなんて、なんかもどかしいね」
「そうね。でも、それについてはちょっとした策を考えているの」
「どんな策?」
「まだ内緒」
「え~。勿体ぶらずに教えてよ~」
「ダ~メ。楽しい事は、素敵な事は、その瞬間まで取っておくべきよ。箱を開ける前にプレゼントの中身が分かってしまったら嬉しさも半減してしまうでしょう?」
「それはそうだけどさぁ……」
「ふぁぁぁ……」
佳子が欠伸をした。
猫みたいに、大きな大きな欠伸だった。
先程から、何回もしている欠伸だった。
それ以外にも、噛み殺した欠伸が何度もあった。
「眠いの?」
「……あまり寝てないから。でも、全然平気よ」
裕太にはとてもそうは思えなかった。
ただでさえ昨日は二人で遅くまでラインをしていた。
その上佳子は裕太よりも一時間も早く学校に来ていて、さらにお弁当まで作っているのだ。
そう考えると、寝る時間などほとんどなかったはずだ。
「……辛いなら、今日は解散して休んだ方がいいんじゃない?」
そんなの嫌だ!
おちんちんの声を裕太はキッパリ跳ねのけた。
本音を言えば佳子とエッチしたい。
覚えたてのエッチの味は文字通りやみつきになる程甘美だった。
寸止めを喰らった事もあり、身体は完全にエッチを求めている。
だが、それはそれ、これはこれだ。
この気持ちが本当に好きなのかは分からない。
もしかしたら、ただの性欲をそのように誤解しているだけなのかもしれない。
正直に言って、その可能性は否定できない。
だからこそ、裕太は性欲に負けず佳子を大事にしたかった。
もし負けてしまったら、それこそこの気持ちはただの性欲という事になってしまう。
この気持ちが本当に好きなのかは分からないが。
少なくとも裕太は、佳子を好きになりたかった。
本当にちゃんと好きになったと胸を張れるようになりたかった。
その為には、佳子よりも性欲を優先してはいけないのだ。
内心では、エッチしたくて仕方なかったとしてもだ。
「そんなのダメよ! 絶対ダメ! 私が松永君をムラムラさせたのだから、ちゃんと責任を取らないと! 無責任な女になってしまうわ!」
「そんな事ないと思うけど……」
「あるわよ! 私は松永君の事が好きよ。本当にそうなのかは分からないけど、でも、そうなりたいと私は思うの。松永君にもそうなって欲しいと思っているのよ。それなのにここでエッチをしなかったら、松永君を玩具にして遊んでいるだけの悪女になってしまうわ。それはイヤ。絶対イヤ。だから今日、私は絶対に松永君とエッチするの!」
佳子は佳子なりに、裕太との事を考えていて、それ故に固く決意をしているらしい。
だが、どれ程固く決意をしても、人間である以上肉体の限界には抗えない。
どれだけ頑張っても無限にうんこを我慢する事は出来ないように。
どれだけ頑張っても無限に眠気を我慢する事は不可能なのだ。
どう見ても佳子は限界だった。
平気な振りを装ってはいたが、次第に佳子は口数が減り、普段から眠そうな目はとろんと閉じて、足取りはふら付いておぼつかなくなった。
裕太に手を引かれて辛うじて歩いてはいるが、殆ど眠っているようなものである。
それでもなんとか家にはついた。
「それじゃあ、僕は帰るね……」
佳子を部屋まで送り届けると、囁くような声で裕太は言った。
この期に及んで佳子とエッチをしたいと思う程頭おちんちんな人間ではない。
いや、もちろんしたいが。
メチャクチャエッチしたいが。
でも、我慢は出来る。
物凄く辛いけれど、家に帰るまで我慢して、一人でシュッシュすればいい。
それなのに。
「らめぇ……。かえりゃなぃれぇ……」
最早呂律も回らないのに、佳子は裕太の腰に縋りついた。
「えっひ、しゅりゅにょ……。らないと、まちゅにゃがくんにきらわへちゃぅ……」
「そんな事で嫌ったりしないから! ていうか、そんな状態でエッチなんか出来ないでしょ? 僕の事は気にしなくていいから、ゆっくり休んでよ。エッチなら何時でも出来るんだから……」
「やらやらぁああああ! おねがいらからいかないでぇ……。わたひのこと、きらいににゃらにゃいれぇ……」
「まいったなぁ……」
「……じゅうごふんらけねかせて……。そしたらきっとらいじょうぶににゃるから……」
「いや無理でしょ。その様子じゃ一度寝たら絶対起きないよ」
「おこひて! やくしょく! じゃにゃきゃ、ねにゃいんらからぁ……」
言ってるそばから寝落ちしそうになり、ハッとして佳子は両頬を抓った。
「いだ~い……」
「あぁもう、わかった、わかったよ! じゃあ、十五分ね?」
こうなったら言っても無駄だろう。
とりあえず約束した事にして、佳子が寝てから帰る事にする。
「じぇったいよぉ……。だまひてかえったりゃ……ゆるしゃないんらからぁ……」
「十五分経ったらちゃんと起こすから」
そして帰る。
嘘はついてない。
佳子だって、そんな事で本気で怒ったりはしないだろう。
「ひじゃまくりゃひて……」
「えぇ……」
「ひーじゃーまーくーりゃぁあああああ!」
眠くて子供返りしてしまったのだろうか。
ベッドに寝ころんだまま、佳子がジタバタと駄々をこねる。
狙って履いているのだろう、裕太好みの漫画みたいな純白パンツが丸見えだ。
「もう……。これでいい?」
正直言って、幼児モードの佳子も悪くはない。
というか良い。かなり良い。超萌える。
だからというわけではないが、裕太は言われるがまま膝を貸した。
佳子は最後の力を振り絞って裕太の膝に身を寄せると、ガッチリ腰に両手を回した。
「ちゅかまぇたぁ……。これで……かえれ……にゃぃ……ぐぅ……」
力尽き、佳子は天使の顔で寝息をたてた。
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