第15話

「う、内田さん!? なにしてるの!?」

「言わなくたってわかるでしょう? 見ての通り、感じた通りの事をしているの」


 すりすり、つんつん。


 制服越しに佳子の足が触れる度、シュワシュワと腰が溶けるような快感が迸る。


「ぁぅ、ぁぅぁぅ……。そ、それは分かるけど……。そうじゃなくて……。まだお弁当食べてる途中だし……。それにさっき、学校でエッチはダメだって……」


 箸を止め、切なそうに腰をくねらせる裕太を見て、佳子の口元が粘度を増す。


「えぇ。学校でエッチはいけないわ。だってリスクが高すぎるもの。万が一にも見つかったら、言い訳なんか出来ないわ」


 すりすりぎゅっぎゅ、すりぎゅっぎゅ。


「ぁぅっ……。ぁ、ぅぅう……。だ、だったら……」

「エッチはダメだと言ったけれど、エッチな事をダメだと言った覚えはないわ。これだったら、万が一急に誰かがやって来てもバレる心配はないでしょう?」

「そ、そういう問題じゃ……。ぁ、ぁっ」


 抑えきれぬ声が漏れ、裕太は前屈みになって口元を押さえる。


 そんな裕太を見て、佳子はふるふると愉悦に震えた。


「うふ。うふふふ。うふふふふ。良いわ、すごく良い。とってもいい眺めよ。ねぇ、松永君。なにが問題だって言うのかしら?」

「フーッ……。フーッ……。フーッ……」

「歯を食いしばって唸っていないで、顔をあげて答えてちょうだい。ねぇ、なにが問題なの? 教えてくれなければ、やめる理由が見つからないわ」


 ぐり、ぐりりり。


 強く踏まれて、思わず顔が上がる。


「んぁ! だ、だって、ダメだよこんな事! こんな所で!」

「よく言うわよ。忘れてしまったのかしら? さっき松永君は、こんな所で見境なく、私のお尻に発情していたじゃない。私のお尻を痛いくらいに握りしめて、硬くなったモノをぐりぐりぐりぐり私のお腹に押し付けていたじゃない。アレに比べたら、こんなのは可愛い方だと思うのだけど?」

「それは……。ぁぅううっ! そ、そうだけどぉ!?」

「でしょう? だったら別にいいじゃない。松永君だって、本気で嫌がっているわけではないでしょう?」

「それは……。うぅぅ……。そうだけどぉぉおおお!」


 半泣きで言うと、裕太はハッとした。


「でもこれじゃあ、折角のお弁当が食べられないよ!」

「どうして?」

「ど、どうしてって……」

「だって松永君、両手もお口も自由じゃない。だって松永君、ただ私に大事な所を足でふみふみされているだけじゃない。食べようと思えば幾らでも食べられるじゃない。だからこそ、私はこんな事をしているの。これならば、お弁当を食べながら二人で楽しい時間を過ごせるでしょう? 折角の二人っきりの時間を有効に使えるでしょう?」

「む、無理だよ……。こんな事されながらお弁当を食べるなんて……」

「そう……。なら、残すしかないわね。松永君の事を思って、一生懸命作った初めてのお弁当なのだけれど。食欲が湧かないというのなら仕方ないわ」


 わざとらしく佳子は言う。


 悲しそうに、残念そうに。


 演技なのは分かっている。


 分かっていても裕太は焦った。


「た、食べるよ! 食べます! 食べればいいんでしょう!?」


 震える手で箸を掴み、快感に悶えながらお弁当を口に運ぶ。


「はむ……。ん、んんっ……。んぐ、んぐぐ……。んっ!?」

「そう。食べればいいのよ。食べれば……。あぁ、素敵だわ松永君。可愛いわ、松永君。私に足で責められながら、泣きそうな顔で必死にお弁当を頬張る松永君、最高よ」

「い、言わないでよ……。う、ぁぅ……。う、内田さんがやらせてるんだよ……」

「違うわよ。松永君が私にやらせているの。松永君が私を誘惑して、こんな事をやらせているのよ。そうでなかったら、私だってこんな変態じみた真似はしないわよ」

「僕のせいなの!?」

「そうよ。松永君のせいよ。なにもかも、松永君が悪いんだから。松永君が可愛いのが悪いんだから。エッチなのが悪いんだから。私をムラムラさせるのが悪いんだから。それに昨日、私の事を一方的にイかせまくったじゃない。私がどれだけ頼んでも、お願いしても、やめてくれなかったじゃない。意地悪を言って私を辱めて、恥ずかしい想いをさせたじゃない。だからこれは仕返しよ。こう見えて、私は結構根に持つタイプなんだから」


 すーりすり、ちょんちょんぎゅっぎゅ、ぎゅーぎゅっぎゅ。


 佳子の足先が器用に裕太を握りしめる。


「ふぎゅぅぅううっ!? だ、だってあれは内田さんが可愛すぎるから!? ごめんなさい! 謝るから、許してよ! これ以上されたら僕……」

「これ以上されたら僕、どうなっちゃうのかしら?」


 答えを急かすように佳子の足が動きを速める。


「出ちゃう! 出ちゃうよ! 学校なのに出ちゃう! 学校で出しちゃうよ! 制服なのに! 制服のズボンの中に出しちゃうよぉ!」

「あはっ!」


 熟れ切った果実のように粘ついていた佳子の笑みが、パッと弾けた。


「ダメよダメ。そんな事を言ったら松永君、逆効果だわ。余計にイジメたくなってしまう。松永君を辱めたくなってしまうわ……」

「う、うう……。酷いよ内田さん……。意地悪だよ内田さん……」

「ごめんなさい松永君。でも無理なの。自分でも止められないの。松永君が可愛すぎるから。松永君がエッチ過ぎるから。否応なく意地悪になってしまうの。大丈夫よ。汚れた物は脱いで洗えばいいわ。パンツを脱いで、ノーパンで過ごせば大丈夫よ」

「全然大丈夫じゃないと思うんだけど!?」

「確かに松永君の松永君は立派だから、ノーパンだとちょっと心許ないかもしれないけれど。まぁ、大丈夫じゃないかしら。クラスのみんなもまさか、松永君がお昼休みに秘密の彼女と文芸同好会の部室でイケない事をして、恥ずかしいお漏らしでパンツを汚した挙句、ノーパンで過ごしているだなんて夢にも思わないはずだわ」

「そりゃ、思わないとは思うけど……ぁぅぁぅ、でも、すごく恥ずかしいよ!」

「恥ずかしいわよねぇ。教室でノーパンで過ごすのは。それが嫌なら、我慢するしかないわよねぇ。ほら頑張って。お弁当を食べ終わったらやめてあげるわ」

「そ、そんなぁ……」

「もちろん、本気でイヤだと言うのなら今すぐやめるのだけれど。松永君が今すぐやめろと言うのなら、もちろん私は従うのだけれど?」


 嬲るような目で見つめられ、裕太は悔しそうに視線を逸らした。


「……内田さんの意地悪っ!」

「あはっ! そういう松永君はなんなのかしら? 付き合って二日目の彼女にこんな事をされてもイヤな顔一つしない、エッチな変態さんなのじゃないかしら?」

「知らない! 知らない! うぅぅぅ……。内田さん、こんな事して、後でどうなっても知らないからねっ!」


 なけなしの気力を振り絞り、裕太はキッと佳子を睨んだ。


「あら怖い。ベッドの上では松永君、飢えた獣みたいに恐ろしいものね。そんな事にはならないように、後で痛い目を見ないように、今のうちにたっぷり絞っておいた方が安全かしら?」


 ぐにぐにぐにーっ! ぐにぐっぐ!


「にょほおぉぉ!? 無理っ、内田さん!? それ、無理だから!? 負けちゃう、負けちゃうよぉおおおお!?」

「がんばれっ、がんばれっ。私だってね、松永君。大好きな彼氏に恥ずかしい思いをして欲しいわけではないのよ? だからほら、応援してるわ」

「逆効果だよそれ!? 条件反射で高まっちゃうよ!?」

「はぁ……。本気の我慢をしている松永君、可愛すぎるわ……。エッチ過ぎる……。見ているだけでこっちまでムラムラするじゃない……。イケない事、したくなってしまうじゃない……」

「内田さん?」


 ゴクリと裕太の喉がなる。


「しないけど。しませんけど。しちゃったら最後、絶対に歯止めが利かなくなってしまうもの。絶対ここでエッチしてしまうわ」

「だよね……」


 佳子の冷静さに安心したような、がっかりしたよな。


「ほら、手が止まっているわよ。罰としてスピードアップ」

「んんんんんんんっ!? ぁっ……」

「えっ」

「ま、まだ出てない! ちょっと漏れただけだもん!」

「………………」

「ここでトドメを刺しちゃおうかしらみたいな顔しないで!?」

「だって見たいじゃない!? 松永君の恥ずかしいお漏らし! 松永君が逆の立場ならそう思わない!?」

「思うけど!」

「でしょう!?」


 なんてやり取りを繰り広げつつ。


 なんとか裕太はパンツを汚す前に佳子のお弁当を完食した。


 正直、後半はほとんど味なんか分からなかった。


「おめでとう松永君。よく頑張ったわ。少し残念な気もするけれど、流石にここで出しちゃうのは色々マズいし。充分堪能させて貰ったわ」


 事後みたいなホクホク顔で佳子は言う。


 裕太はゲッソリとした表情でお腹をさすっていた。


「うぅぅ……。我慢しすぎてお腹が気持ち悪いよぉ……」

「ご、ごめんなさい。ちょっと調子に乗り過ぎたかしら……」

「……謝らないでよ。僕だってイヤではなかったし……。ていうか男の子として、密かに憧れてたシチュエーションではあるし……」


 そんな事を口にするのは恥ずかしく、もごもごと歯切れが悪くなる。


「ならいいのだけれど……」


 ホッとしたように胸を撫でおろすと、佳子は恥ずかしそうに耳打ちした。


「ごめんね松永君。放課後になったら、私の家で思う存分スッキリさせてあげるから」


 裕太は困った。


「もう、内田さん!? 折角治まりかけてたのに! そんな事言われたらまた勃ってきちゃったよ!?」


 そろそろ教室に戻らないといけない時間である。

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