第9話

「だめー!」

「キャァ!?」


 土壇場で、裕太は佳子を押し返した。


 ぷにぷにとしたお腹の上に馬乗りになりながら(最高!)、裕太は告げた。


「ダメだよ内田さん! 大事な事を忘れてるよ!」

「にゃ、にゃにかひらぁ……」


 華奢な裕太にあっさり押し倒されて、佳子は飢えた狼からか弱い乙女に成り下がっていた。


 初めての彼氏の童貞を無理やり奪ってしまうのもいいけれど、初めての彼氏に乱暴に処女を奪われるのも同じくらいに素敵だわ……。


 そんな事を考えながらドキドキしている。


「ゴムだよゴム! エッチするならちゃんとコンドームをつけなくちゃ!」


 言われて佳子はハッとした。


「その通りだわ!? 結婚もしていないのに生ハメオセッセなんて絶対ダメ! ありがとう松永君! 私ったら、とんでもない過ちを犯す所だった……」

「お互いの為にも、こういうのはちゃんとしておかないとね」

「うん……」


 にこやかに微笑む裕太を見て、佳子はキュンとした。


 この土壇場でちゃんとそれを言えるなんて。


 なんて素敵な彼氏なのだろう。


 お互いに好きではないけれど、それでも裕太はちゃんと佳子の事を考えてくれている。


 それが佳子は嬉しかった。


 そして安心した。


 好きでもないのに付き合って初日にエッチしたがる女なんて普通に考えたらふしだらだ。


 悪い男なら、そんな奴は中出ししたって平気だろうと安く見るかもしれない。


 けれど裕太は違う。


 そんなクズとは全然違う。


 そういうタイプだと思って選んだのだが。


 いざ実践されると凄く嬉しい。


 嬉しくて頼もしくてカッコいい!


 私の彼氏、最高~!


 と、富士山の頂上で叫びたい気分だ。


 そんなわけで、二人はドキドキしながらコンドームの小箱を開封した。


「……ねぇ、松永君。私がつけてもいいかしら?」

「それはいいけど……。願ってもないお願いだけど……。でも、気を付けてね。優しくつけて……。じゃないと、それだけで出ちゃいそうだから……」

「……それもちょっと惹かれるわね。私の為に必死に我慢している松永君が情けなくコンドームにお漏らししてしまうシチュエーション……」

「内田さん!?」

「冗談よ。思っただけ。ただの妄想よ。私も、松永君の初めては私の中に出して欲しいもの……」

「言わないで! あんまりそういう事言われると、それはそれで出ちゃいそうになっちゃうから!」

「松永君こそ言わないで! そんなに可愛い事を言われたら、意地悪したくなっちゃうじゃない!」

「そんな事言われても……」


 困り顔をすると、裕太は言った。


「……ごめんね。早漏で」

「いいのよ。いいの。むしろ嬉しいわ。それに、私だってイキそうだし。初めてならこんなものなんじゃないかしら?」

「だといいけど……」

「もし早漏でも私は平気よ。むしろ可愛いと思うわ。……でも、松永君が気にするなら私に任せて! 二人でチントレをしましょう! それで解決! ね?」


 励ますように微笑まれ、裕太は情けない気持ちになる。


 だが、それ以上にホッとした。


 佳子のような優しい子に告白されて、自分はなんて幸なのだろう。


 一生分の幸運を使い果たした気分である。


「……うん。その時はお願いしようかな」

「それじゃあ、つけるわね。松永君、ファイト!」

「はぅっ!? ぁ、あぅぅぅっ……」


 危うく裕太は達しかけた。


 だがギリギリで踏み止まった。


 毛むくじゃらの体育教師の顔を思い浮かべたのだ。


 そして二人は裸になり、ベッドの上で一つになった。





「……ごめんね、内田さん。入れた途端にイッちゃって……」

「……いいのよ松永君。私もイッてしまったもの。だからおあいこ……。それに、こうして二人で抱き合っているだけでもいい気分だわ……。物凄く幸せで、心も体も満たされたような気持ちになるもの……」

「……だね。内田さんと裸で抱き合ってるだけで凄く幸せ。これはこれで最高だよ」

「……松永君って華奢なのに、触ってみるとやっぱり男の子って感じがするわ。スベスベなのに中はちゃんと固くて……。それにやっぱりいい匂い……」

「内田さんだって。柔らかくてスベスベでモチモチして凄くいい匂いだよ」

「……そう思って貰えたのなら嬉しいのだけど」

「じゃなきゃあんなにすぐにイかないよ」


 布団の中でいちゃつくと、程なくして裕太は元気を取り戻した。


「これならもう一度出来そうね」

「そうだけど、いいの?」

「ダメな理由があるのかしら?」

「ないね」

「ならしましょう」


 第二ランウドが始まった。

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