第7話
(内田さんのおっぱいが見られる!?)
ドビュッ、ドブドブッ!
その瞬間、裕太の頭の中でこってりと濃厚な脳内麻薬が噴き出した。
時が止まった。
そう思える程加速した時の中で、裕太は両の目をギンギンに見開いて、佳子が乙女の秘宝を曝け出すのを食い入るように待っていた。
(……あれ?)
時は止まったままだった。
佳子は上着の裾に手をかけたまま、凍り付いたように動かない。
(……もしかして僕、本当に時間を止めちゃったの!?)
一瞬本気でそう思った。
だが違う。
落ち着いて胸元以外を見て見れば、佳子は確かに動いていた。
顔を真っ赤にし、決意めいた表情で固く目を閉じながら、プルプルと小刻みに震えている。
程なくして、佳子は絞り出すように呟いた。
「……やっぱり無理。一人で先に脱ぐなんて、恥ずかしくて出来ないわ……」
不安げに裕太の顔を見返すと。
「……もし裸を見せて、松永君にがっかりされたら怖いもの……」
「がっかりなんかするわけないよ!」
「そんなの誰にも分からないじゃない……。こんな事を自分で言うのはとてもとても恥ずかしいのだけれど。ハッキリ言って、私の身体はモデルみたいに綺麗じゃないの。クラスのイケてる女子達のように、男子がこぞって憧れる人気者の女子達みたいにスリムじゃない。むしろ逆よ。太っていると言われても仕方のない、怠惰でだらしない体をしているの……。くびれなんかどこにもないし、お尻だって大きいわ……。脚だってムチムチしていて……」
「最高じゃないか!」
裕太は叫んだ。
滅多に声を荒げる事のない、物静かで小心者の彼が。
「こんな事を声を大にして言うのは自分でもどうかと思うけど。でも、良いと思う。そういうの、すっごく良いと思う! 他の誰がなんと言おうが、僕は好きだよ。ムチムチした女の子! くびれのないお腹も、大きなお尻も、僕は大好きだよ! 僕がツイッターでエッチな画像を集めているのを覗いてたなら、内田さんだってその事は分ってたはずでしょう?」
「……えぇ、分かっていたわ。だから松永君を選んだの。それだけが理由ではないけれど、他の多くの事柄と同じくらい重要な要素の一つよ。こういう趣味の持ち主なら、私の告白を受けてくれるかもしれない。こんな私を受け入れて、選んでくれるかもしれない。好きではなくとも一緒に青春を謳歌してくれるかもしれない。そう思ったから……」
「だったら!」
「……でも、怖いのよ。土壇場になって怖くなったの。ううん。内心ではずっとその事を恐れていたの。だって、リアルとフィクションは別でしょう? 二次元と三次元は別物よ。いくら松永君がデブ専でも」
「ちょっと待って! あれくらいは全然デブじゃないから!? 本当のデブの足元にも及ばないから! 健康的でちょっと太ましいだけだよ! その程度でデブ専扱いされたら本職の人達に怒られるから!? 内田さんだって全然デブじゃないし!」
佳子の言い分では、某太ももの錬金術師や人気ソシャゲの会計担当、特撮原作のヒーローアニメのヒロインもデブという事になってしまう。
そんなわけあるか!
「脱いでないのにそんな事わからないじゃない!」
「バカにしないで! 分るよ! 余裕で分かる! そんな事は服を着てても一目瞭然だよ! 内田さんはデブじゃない! 本気でそう思ってるなら鏡を見て! それであと30キロは増量して出直して! 本当のデブはそんなものじゃないし、その程度でデブを名乗ったら本当のデブの人に失礼だよ!」
「……そう言われたらその通りなのだけど。私だってそれくらいの事は頭の中では分かっていたつもりなのだけれど……。でも、怖いのよ。こと自分の体に関しては、それも裸となってしまったら、自分でもビックリするくらい不安になってしまうの……。ここまで来て、松永君に裸を見せて、万が一にも「えっ……」って顔をされたら立ち直れないわ……」
「そんな事には絶対ならない! 断言するよ! だって制服の上から見たって内田さんの体型はすごく魅力的だもん!」
「……そう言ってくれるのは嬉しいのだけど。嬉しくて嬉しくて、思わず頬が緩んでしまうのだけれど……。でもそれは、私が松永君に告白したからでしょう? 私が彼女になったから、そんな風に見えるだけなんじゃないかしら……」
「違わないとは言わないけど、それだけじゃないよ! だって僕は、内田さんに告白される前から内田さんの事を良いなって思ってたもん! エッチだな、可愛いなって思ってて、内田さんでその……しちゃった事だってあるくらいだし……」
その言葉に、佳子の目が丸くなった。
暫く茫然とすると、口元が溶けたチーズみたいにニタリと笑った。
「……まぁ。まぁまぁまぁまぁ。それは、うふふ。うふふふふふ。とても嬉しい事だけど。幸せで、心強くて、天にも昇る気持ちだけれど。それってなにかしら? いったい松永君は、私でなにをしちゃったのかしら?」
「聞かないでよ!? 分かってるくせに!」
「でも聞きたいの。松永君の口から直接聞きたいのよ。そしたら私、安心するわ。自分の体にも、もう少しだけ自信を持つ事が出来ると思うの。だから、ねぇ。言って。松永君は私で、なにをしたのかしら」
佳子の視線がねっとりと、エロトラップダンジョンの触手みたいに裕太の身体に絡みつく。
「うぅぅぅ……」
恥ずかしさで、裕太は熟れて潰れたトマトみたいになった。
それでいて、裕太の裕太は切なくて、パンツの中で身悶えした。
「オナニーだよ!」
恥を忍んで裕太は言った。
恥ずかしいけれど、それで佳子が安心出来るなら是非もない。
彼女の不安を取り除くのは、彼女を安心させるのは、彼氏の務めなのだから。
「クゥゥゥゥッ……。沁みたわ……」
佳子はウットリと自分を抱きしめ身悶えした。
「それに効いたわ……。まさかまさか、松永君が私をオカズに一人エッチをしていたなんて。それも私が告白する前にしていたなんて。私を思って、私の裸を妄想して、シコシコ自慰に耽っていたなんて。そんなのエッチ過ぎるじゃない。濡れてしまうじゃない……」
「い、言わないでよ!? 恥ずかしいから……」
「無理よ無理。こんな事、言いたくなるに決まっているもの。嬉しくて、思わず言葉が溢れてしまうもの。私の為に白状して、真っ赤になっている松永君があまりにも可愛すぎるのだもの。そんな事ってあるのかしら? あぁ、あぁ、あぁ! なんだか夢を見ているみたいだわ!」
「喜んでくれたならいいんだけどさ……」
それならば、恥を曝け出した甲斐はあった。
「喜んだわ。安心して、勇気も出た。不安がなくなったわけではないけれど、きっとそれは、どうやったって消えてしまう事はないのだけれど。でもいいの。それを上回るくらい私は今、松永君に自分の裸を見て欲しいと思えたもの」
そう言って、佳子は再び制服の裾に手をかけた。
今度は何の躊躇もなく脱ぎ去ろうとするのだが。
「ちょっと待って!」
「なにかしら? 出来れば気持ちが高ぶっているうちに脱いでしまいたいのだけれど」
「考えたんだけど、内田さんを先に脱がせるのってフェアじゃないんじゃないかな。そういうのってなんか卑怯って言うか、漢らしくない気がして……」
「そうかしら? 私は別に構わないのだけれど」
「僕は構うよ! 内田さんがあんな風に不安がってた後なら猶更!」
「もう済んだ事よ」
「でも、同時に脱いだ方が安心出来るんじゃないかな……」
「……それはそうね。確かにそう。間違いのない事だわ」
「でしょう?」
そう言って、裕太はズボンに手をかけた。
ベルトを外して準備完了。
「では、せーので脱ぎましょう」
「わかった」
「「せーのっ!」」
ボロン!
音なき音が部屋に響いた。
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