第5話 胸を大きくしたい!――相談⑤ 早乙女 由美

 次の相談者が来るまで、私は携帯で男の人のの画像を見る。いつ見ても大きいわね…。


「あの~…」


何やら近くから申し訳なさそうな声が聞こえる。


「えっ?」


顔を上げると、向かいの椅子に女子生徒の早乙女さおとめ 由美ゆみさんが座っている。


「いつの間に座っていたの?」

全然気付かなかった…。


「つい今ですが、わたし普通に入ってきましたよ? ノックもしたし『失礼します』も言ったし…」


いけない、画像に気を取られていたみたい。しっかりしなきゃ!


「出直したほうが良いでしょうか?」


「そんな事ないわ。今から悩みを聴くからね」


情けないところ見られちゃった。気を引き締めよう!



 「実は…、“胸の大きさ”について悩んでいて…」


制服の上からだとよくわからないわね。そもそも、高1はまだ伸びしろがあるから気にする必要はない。何かきっかけがあったのかしら?


「胸の大きさが気になる時があったの?」


「はい。わたしには2歳上のお兄ちゃんがいるんですが…」


という事は、お兄さんは高3になるのね。


「わたしが家に帰ってきた時、玄関でお兄ちゃんと彼女の人とすれ違った事があるんです。その人の胸がとても大きくて…」


だから大きくしたいのか。気持ちはわかるわ。


「早乙女さん。あなたはまだ1年だから、これからもっと成長するわよ。だから気にしなくて良いの」


「…そう思いたいですが、その人お母さんより大きかったんです。胸の大きさって、遺伝しますよね?」


「確かするわ。といっても、全てじゃないから安心してちょうだい」

姿勢や生活習慣も大切な要素になる。


「わたしも自分なりに調べたんですが、先生のアドバイスを聴いてホッとしました。なので、胸を大きくするために“バストアップマッサージ”を始めたんですが…」


「? 何か問題があるの?」


「動画の人のようにできてる気がしないんです。わたし不器用なので…」


一人称視点と三人称視点の違いが影響してるかも。それか、マッサージが難しいか…。


「先生。わたしに動画のバストアップマッサージをお願いしても良いですか?」


「ええっ!?」


「こんな事、先生にしか頼めないんです。お母さんは忙しいし、お兄ちゃんに頼むのも恥ずかしいし…」


お兄さんには頼めないわよね。私を頼りにしてくれるなら…。


「わかったわ。自信ないけどやってみるわ」


「ありがとうございます! では、この動画の通りにお願いします」


早乙女さんは携帯を取り出し、バストアップマッサージの動画を再生した。



 動画を見終わった私と早乙女さん。効果はともかく、マッサージの内容は難しくなかった。実践して記憶に定着させれば何とかなりそう。


「マッサージはが効果的なので…」


早乙女さんはそう言って、制服の上とブラを脱いだ。…小ぶりなものの、形は私より良いかも?


「先生、お願いします」


「わかったわ…」


私の指が早乙女さんの胸に触れた瞬間…。


「あっ♡」


突然彼女が小さい声を上げる。


「ごめんなさい、大丈夫?」


「大丈夫です。続けて下さい」


…マッサージを続けたものの、早乙女さんは小さいながらも声を上げ続ける。そんな声を聴き続けると、だんだん変な気持ちになってくる。


「一通り終わったわよ」


「ありがとうございます…」


当たり前だけど、1回マッサージしただけでは変わらない。何事も継続しないと効果は見込めないだろう。


「先生。これから相談できる時にマッサージをお願いしても良いですか?」


「わかったわ。私ができない時は、自分でやってちょうだい」


「はい」



 相談が終わり、早乙女さんは教室を出て行く。昼休みの相談は時間的にこれで終わりね。職員室に行かないと!


…着いて早々、校長に大量の雑務をお願いされてしまった。そのせいで放課後にやる予定だった相談はできなくなった。こういう事もあるか…。


雑務を終えた頃には、辺りは真っ暗になる。そんな時間にもかかわらず、職員室には私含む数人が残っているわね。皆さんお疲れ様です。



 帰宅してすぐ、校長の指示通りに相談内容をノートにまとめる私。今日含むと5人の相談に乗ったのか…。私のアドバイス後に別の問題が生まれてないかしら?


今度は私から5人に声をかけて、悩みの進捗を訊いてみよう。悩みは“一難去ってまた一難”みたいな要素があるし…。


……よし、まとめ完了。これから大好きなお風呂で羽を伸ばそう。

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