第2話 ガチャの悩み――相談② 安藤 浩太
私がやる“お悩み相談”は、時間の都合を考慮して昼休みか放課後に行う事になる。
さすがに毎日やるのは難しいけど、1日でも多くこなせるように頑張ろう!
昼休みは、丸平君の悩みに応えた私。今日は放課後も“お悩み相談”できそうだ。それを朝に加えて帰りのホームルームも伝えた後、空き教室で待機する。
次は応えやすい悩みでありますように…。そう心の中で祈りながら相談者を待つ。
…扉から小さいノック音が聴こえた。相談者が来たみたいね。
「入って良いわよ」
返答後に扉が開き、男子生徒1名が入ってくる。
「失礼します…」
彼は確か…、
「私の前にある椅子に座ってちょうだい」
「はい…」
丸平君みたいにはいかなそうね。私がリードする感じが良さそう。
「安藤君。早速だけど悩みを聴かせてもらえる?」
「実は“ゲームのガチャ”についてちょっと…」
「ガチャ?」
あの100円入れて回すやつだっけ? あれってゲームなのかな?
「ソシャゲの事です…」
私の反応が鈍いせいか、安藤君が補足する。
「ああ、そっちの事か。それがどうしたの?」
最近何かと問題になってるわね。そういうのに疎いせいか、他人事だわ…。
「何回ガチャしても、欲しいキャラが全然出ないんです。その事ばかり考えるせいで、他の事に集中できなくて…」
私の予想は簡単に裏切られた。一筋縄ではいかないわ。
「そうなんだ。欲しい物が手に入らないのは辛いわよね」
「はい…」
悩みを解決するには、時には厳しい意見も必要だ。たとえ相手が高校1年であっても伝えないといけない。
「安藤君。欲しい物は、大人になっても全て手に入れられないの」
「そう…なんですか?」
「ええ。だから欲しい物をランク分けして、自分の身の丈に合う物をたくさん手に入れれば、気は紛れるんじゃないかしら?」
「どういう風にランク分けするんですか?」
ここは、うろ覚えのソシャゲ知識で何とかする!
「ソシャゲを例にするなら、Sランクの物よりBランクの物のほうが手に入れやすいじゃない? それらは同等の価値じゃないから、代わりに数でフォローするの。Sランクの物1つ分を、Bランクの物3つでフォローするというか…」
これで伝わるかしら? 安藤君の顔を優しく見つめる。
「…先生の言いたい事は何となくわかります。“ちりも積もれば山となる”みたいな感じですよね?」
「ええ、そんな感じよ」
察してもらうなんて、勉強不足を痛感するわ…。
「先生のアドバイスは現実的だと思います。これ以上、課金額を増やす訳にはいかないので…」
お小遣いにしろバイトにしろ、学生の収入だと大人より制限されるわよね。
「それか、ゲーム以外の楽しみを見つけるとか…」
課金に意識が向かなくなれば完璧よね。
「それは今のところ、まったく考えてないです」
「そう…」
余計な事言っちゃった。安藤君怒ってないと良いけど…。
「先生。お忙しい中相談に乗ってもらって、ありがとうございました」
安藤君は席を立ち、私に向かって頭を下げる。
「気にしないで。私のほうこそ、うまく答えられなくてごめんなさい」
個人的に消化不良の結果なのよね…。
「そんな事ないです。自分の気持ちを話すだけでも、かなり楽になりますね」
彼の笑顔に、嘘とか建前がないのを信じたい。
「では失礼します」
彼は出入口付近でそう言ってから、教室を出て行った。
相談に乗るのも大変ね…。校長が“お悩み相談”に賛成してくれたのは、私に成長するきっかけを与えるためかも? なんて考えてると…。
「せんせ~。あたしに『大人のキス』を教えて~!」
1人の女子生徒が教室に入って来て、安藤君が座っていた椅子に座る。
息つく暇なく、次の相談に乗らないといけないみたい…。
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