第4話 ビッグベンの移送

 タリエシンの製造は資材も人材も大量に投入する必要がありながら国民はもとより諸外国に対し、秘密裏に行う必要があった。軍はビッグベンを解体するという計画を発表して偽装とした。しかし、製造が進むにつれ研究開発や感染者の捜索には多くの軍人や民間人が必要となり、当初の計画よりさらに大規模な計画になったため、多額の予算が必要となりビッグベンの解体ではなく、別の場所への移送という偽装情報に変更された。コードネームは「ビッグベンの引っ越し」と決まり、国防大臣ゴッドラグナメメ直轄の秘密作戦として扱われることとなった。

 レールガン開発中の事故で死亡した老人の遺体の解剖から得られた情報、つまりはソンゴルヅ熱病ウイルスに感染し、数十年たったものは肉体が変異し、人が乗り込むことができる兵器になるという情報一般兵士には隠され、ソンゴルヅ熱病の感染歴のある老人を集める事だけが通達された。それと同時に、現在ソンゴルヅにかかっている者の捜索もされた。大昔に流行した病気であり、今では医療関係者さえ知らないものが多い病気で、こちらは後回しとされた。

 都市部の病院はもとより、地方の小さな施設も捜索の対象とされた。感染者を一人として漏らしてはならないと考えた軍は、老人ホームにまで捜索の手を伸ばし、ついには過去に移民として国外に転居した者までウイルス感染歴を調査しはじめるに至る。このことが他国の情報網に引っかかりイギリス軍のこの行動いぶかしむ政府も出現しはじめた。

 人員の多数導入はどうしても情報の漏洩が否めない。他国にソンゴルヅ熱病とタリエシンの関係性が露呈してしまうのも時間の問題と思われた。

 こうなるとイギリスはどうしてもソンゴルヅウイルスそのものを手に入れ、他国に先んじなくてはならない。捜索はさらに大規模になった。

 感染者の調査を行っていたマケラグランス少佐は越権と分かっていながら焦るあまり無断で他部隊の人員まで動員した。また、諜報部と連絡までしはじめた。スパイ網まで活用し、一人も漏らさずあぶりだそうというのである。




 タリエシンの兵器としての性能を評価したイギリス軍部は、EU圏の乗っ取りを手始めに、ユーラシア大陸の征服までをも視野に入れた。多方面同時宣戦布告は威力を示すための第一歩であり、ユーラシアへのくさびを突き立てることが第一目標であった。

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