第3話 エビイシという男
イフダラ組手
世界中で100人くらいしかやっていない技術で、その習得者と入門者のほとんどはイギリスにいる。人を殺すことを最大目的とした技術の習得であり、7段階ある基礎運動スキルを修めないとその上の段階の殺人術を学ぶことは許されないという厳しい戒律があるためどうしても競技人口は少なくなる。
エビイシは6歳からイフダラを習い始め、15歳から急に体がムキムキになった。もともと覚えがよく10歳の頃にはもっぱら稽古相手は大人だった。
武道でいうところの師範代クラスの腕前になった頃、父親と些細な事から仲たがいした。
「父さん!どうして認めてくれないんだ」
「お前などまだ未熟だ。技だけを身に着けても真の組手家とはいえない」
「どうしても自分の実力を試してみたいんだ!」
「まだ駄目だ。まだお前はここで稽古を兼ねる時期だ」
海外に出て武者修行したいと申し出たエビイシに対し父親は反対し、資金援助は一切しないと突き放した。家を飛び出したエビイシは、金など自分でどうとでもしてやると鼻息荒く金策に巡ったが、何の結果も出していない若者への世間の厳しさを知るのみであった。友人にも相談したものの、同年代の若者にできることなどなかった。
しかたなく家に戻るが、父は態度を変えることはなく、武者修行の夢は終わった。
それからも稽古は続けていたが、なぜ自分の限界に挑戦することがいけないのかと不満を募らせた。そして、友人と散歩をしているときに偶然、軍の入隊募集の催しに出くわした。半分やけくそになりながら軍の入隊検査を受け合格、頭にのぼった血がおさまってきて、ひどいことをやらかしてしまったと、なかば後悔しながら入隊試験の筆記ではわざとでたらめを回答したものの肉体の見事さから試験も合格にされてしまう。エビイシ17歳の時である。
進軍してきた戦車部隊に対しタリエシンを操るレッドレオ部隊は猛烈な速さで展開した。速力は戦車をはるかに上回り、陣形を整えるのはこちらの方が先だった。定位置に着くと、レールガン・リメサイヤの長距離タイプを装備している機体から射撃を開始。アルミの弾頭が凶悪な速度を得て、戦車に襲い掛かる。ミサイル装備機体はさらに攻撃を追加する。
初撃ではあえて命中させない。戦車のまわりを狙い敵部隊の後退と密集を誘う。戦車ぎりぎりのところで嵐のように上がる無数の土煙は目論見通り、敵を後退させることに成功した。敵はじりじりと、だが確実に戦線を下げ、その動きを見逃さずエビイシは半包囲の動きの指示を出す。
「想定通りだ! 各隊包囲せよ」
部下たちはたくみにタリエシンを駆り、歩兵のみならず戦車戦でさえ考えられない速度での機動を見せる。家屋や岩、廃棄された車両といった障害物を利用し相手から機体の姿を隠しつつ、機敏に目的配置まで進んでいく。一分の無駄もない動きだ。
包囲体勢が整うと、中距離、短距離用のリメサイヤがいっせいに発射される。超高速のアルミの雨あられが戦車を襲う。爆発反応装甲などものともせず、戦車はひしゃげて、ゆがみ、鋼鉄のボディが引き裂かれていった。
かろうじてなされた反撃も、戦車には不可能な人型ならではのランダムな高速移動に命中どころかかすりもせず、すべてかわしていく。戦車は混乱しながら主砲も機銃も乱射するもののまったくの無力だった。
各機体同士の通信は独自規格の無線通信で行われており、盗聴は不可。電波通信であるためジャミングは可能だが、妨害された際には、光点滅通信や、シンプルに音声でのやり取りも可能だ。人型の利点の一つとして、耳に相当する箇所もあるからだ。
敵部隊は陣形を維持できず、打開を図るため半包囲を突き破ろうと突出してきた。
「1班中央、突出した部隊を押しつぶせ!」
短距離用リメサイヤ装備の隊が距離を詰めていく。タリエシンは腰部から水素を噴出し、爆発させジャンプと急加速ができる。複数のタリエシンが猛烈な速度で近づいてくるため、戦車は対応ができない。ついには戦車砲に手をかけて地面に押し付ける。戦車のエンジンを全開にしてもタリエシンは押し負けない。その隙に、別の機体がリメサイヤを戦車に撃ち込む。戦車は沈黙する。
そのようにして敵部隊を次々と撃破していった。
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