第8話

 私メイプルは十五歳になった。


 そしてそんなお年頃の私は、今や王都に進出して商会本店に次ぐ規模の王都店を構えるまでになったバート君との重要な商談があって、本当の本当に渋々王都にまで出張ってきていた。無論両親には内緒でよ。


 カイが便利なテレポート魔法で実家のある僻地ラングウッド地方から王都まで送ってくれたんだ。


 何年ぶりだろう。煩わしいくらいの人混みとその喧騒が懐かしの石畳の王都。ラングウッドは土の道の方が多かったから、ああ靴が汚れない便利~って変な部分で感激してしまった。

 バート君のピカピカな商会建物があるという大通りの一つを歩いていた時だった。


「メイプル! お前メイプルだろう!」


 そんな男性の声が聞こえた。

 へえ、きっとこの大通りに私と同じ名前の娘がいるのね。声はゲームのレオンハルトの声にそっくりだけど、似た声の人だっているよねーうんうん。関係ないしと私は見向きもしないでさっさと足を進めた。


 過去の私を知る人がいても、さすがに今の私を見てあの公爵令嬢メイプル・シュガーだと気付く人はいないはずだもの。


 全然体形が違うからね。


 スラリと背もの伸びて姿勢も良く、自分で言うのもなんだけど見た目だけなら凄腕冒険者とか女騎士でも通じるような健康的な美人になった私だもの。


 まあそれはさておき、バート君との待ち合わせ時間に遅れないようにと気持ち足を急がせた。


「メイプル! おいメイプルって! 待ってくれ!」


 ああまだ呼んでる。


「メイプル! 聞こえているだろうメイプル! 無視するな!」


 もしや二人は喧嘩中? メイプルさんにツーンと無視されているって感じかしら。ふふっ青春。


「待てメイプル!」


 だけど何だか不穏。近付いてきているのか声量が大きくなっている。

 きっと私と歩く方向が一緒、それだけだ、うん。


「――メイプル!」


 余裕をこいていたら、すぐ後ろで声がした。


「――メイプル・シュガー!」


 えっ。


 不意に肩を掴まれて、私は必然的に足を止めざるを得ない。


「よもや婚約者を忘れたとは言わないだろう?」

「…………」


 ふふふ、ふふ、こんな非礼を非礼と思っていない偉そうな振る舞いの男でこの王都にいる奴なんて思い当たるのは一人だけ。

 未だに私の婚約者な奴なんても、上に同~じ。


「何度も何度も呼んでいたのに一瞥さえもくれなかった。別に改名したわけではないんだろう?」


 私はゆっくりと振り返った。

 何故か相手がハッと息を呑んで一度目を泳がせる。


「こほんっ、ひ、久しぶりだなメイプル」


 ぞんざいにも聞こえる口調。


 視界に入ったのは案の定の相手――レオンハルト・ソルト!


 彼の護衛だろう甲冑の王宮騎士が四人程控えている。

 彼らは彼が私をメイプルと呼んだのに大層衝撃を受けたようだった。まあね、前の私を知っているならさもあらんよねー。

 本当ならまだダッシュで逃げ出したかったけど、観念した。でも通行人からはもう注目され始めていて、そこは王都民に周知されている王太子殿下だから当たり前か。って言うか無駄にこっちの正体ばれるでしょーがっ、フルネームで呼ぶな叫ぶなーっ!


「お久しぶりですね、レオンハルト殿下。改名はしていません。まさか知り合いから正体を気付かれて呼び止められるとは思ってもみなかったので、わたくしではないんだと思っていただけです」

「気付かれない? どうして。私は遠目でも一目でわかったというのに」

「……」


 うっそ、私だって初見で気付いたわけ? この痩せてからの姿で?

 成長後は剣も魔法もできて容姿も頭も宜しい完璧男レオンハルトだし、彼の目には体型によらない高精度の顔識別機能が付いていると言われても不思議ではないけど、それはそれでちょっと怖い。

 レオンハルトは改めて幻覚ではないと確認するためにか、マジマジと私を上から下まで見つめた。あたかも目を離せないみたいな顔をして。え、細密スキャンされてる……とか?

 えーコワ~なんて思いつつ私も負けじと睨み付け、ううん見つめ返す。目が合って三秒。


 ………………この男、イケメンレベルヤバくない?


 私も育てば当然彼も成長しているわけだけど、たとえ再会してもゲームで青年レオンハルトのビジュアルは知っていたから大した驚き湧かないわーって簡単に考えて笑い飛ばしていた節さえあった一分前の私を激しく後悔した。

 美青年になった生レオンハルトは眼福過剰で失神しそうなレベルで危険人物だった。

 見た目だけならどこまでも好み過ぎるから見ているだけでドキドキしてくる。

 あ~~~~っ、まさか私自身がこうなるとは不覚~~~~っ!!

 一目惚れではないけどそれに近い形で腰砕け~になるなんてっっ。

 私はふらつく前に無理矢理視線を剥がしてそっぽを向いた。心臓に悪いったらない。


「そっちこそ、私だとすぐにわかったな。……忘れないでいてくれて、良かった」


 優しい響きの声についつい目を戻せば、ちょ、ななな何でそんな嬉しそうに蕩けた笑顔を浮かべるわけ!?


「と、歳の近い男性で王都の知り合いは殿下くらいですし、あなたが婚約者云々って言っていたので、嫌でも誰だかわかりますよ」


 バート君は普段は他の拠点にいて、必要があれば王都に通う身だって言っていたし、カイは歳が近いとは言えないもの。


「私だけ……ふうん、そうなのか」


 レオンハルトの声が高くなって上機嫌になった。笑みが深まる。だから心臓に悪いって!


「ところでメイプルはどうして一人で街中を歩き回るなんて危ない真似を? 誘拐されたらどうするんだ。私からのもので馬車を雇えたはずだろうに」


 没落して田舎に去ったシュガー家に、このレオンハルトは王太子の度量の広さを示したかったのか、実は一度だけではなく定期的に生活費を振り込んで寄越した。


「ああ、ご厚意は大変に有難かったんですけど、お世話になるつもはありません。自分達の食い扶持は自分達でどうにか稼いでいますし、入金下さったものには一切手を付けていません。いつでも全額お返しできるようにしてありますので、折を見てお返ししますね」

「返す必要はない。どうせ結婚したら同じだろうに」

「殿下、だいぶ以前ですが申し上げましたよね。わたくしは辞退したいんです。それに今のラングウッドでの暮らしを変えるつもりもありません」


 レオンハルトは明らかに不愉快そうに眉根を寄せる。


「……メイプルはそれでいいいのか? 婚約解消はそう簡単じゃない」


 え、お宅のとこの王后さんに言えば簡単だと思うけど、とは言わなかった。こんな衆目のある場所でする話でもない。


「殿下、その話はまたいつかにしましょう。これから約束があって少し急ぐので、失礼しますね」

「久しぶりに会ったのにもう行くのか?」


 今日はバート君からの前々からの提案を容れて、王都で魔法石を装飾品に加工するために必要な業者を交えての商談予定だった。

 はあ、代理人を頼めば良かった。私は王都にはなるべく近付きたくなかったのもあって、これまでも王都で何かある時には代理人に任せていた。

 こんな風に最も会いたくない相手にばったり会うかもしれなかったからだ。はーああ、ツイてない。

 それでは、とそそくさと回れ右をしようとしたら、今度は肩ではなくて腕を掴まれた。

 だぁーから失礼な男ねっ!


「あのですねえ」

「この七年、メイプルは私に会えなくて寂しくなかったのか?」


 むしろ清々したよって言ってやろうとしたけど、止めた。

 レオンハルトは見るからにしょんぼりしていたからだ。


「どうしているか、ずっと気になっていたんだ」

「あ、はあ、そうなんですか」


 怪訝にすると、向こうはハッとしたのか手を離して咳払いした。


「こ、婚約者がどうしているのか気にならないわけがないだろうっ」


 この男は本当にメイプルに冷徹なレオンハルト・ソルトなんだろうか。

 ふと疑問に感じたものの、どうせ義務感や責任感から出た言葉なんだろうと結論付けた。

 ああもう、商談時間に遅れたらどう責任取ってくれるのよ!

 信用って大事なんだから。

 前世でメイプルの人生を踏みにじっただけでは飽き足らず、今度は順調に行っている私の道まで邪魔をするつもりなの? まあ前世の事なんてこのレオンハルトには自覚なんてないだろうけど。

 私の焦躁と苛立ちを察したのか、彼は次にこんな台詞を宣った。


「足止めして悪かった。行こうか」


 と。


「はい? 行こうかって、どこにでしょうか」

「――メイプルは魔法石を売りに行くんだろう? 今日もそのために王都まで出てきたんじゃないのか? わざわざそんな商人のような服を着て」


 チーーーン、と私の頭の中では仏壇のお鈴が鳴った。


「え……ちょっと待って下さい。魔法石って、知っていたんですか!? うちの両親も知らないのに!? いつから!?」

「婚約者の事なんだから当然だろう。まあそうは言っても諸々の下準備もあったし三年くらい前からだがな。世の中には危険な悪徳商人もいるんだ。密かに目を光らせていたが、幸いメイプルはそういうのには当たらなかったから良かったよ。……ただ、少し気に食わないが」


 気に食わない? 何が? 私の成功が? それとも……私の取引相手が?

 違和感のある言い方だけど、それよりもええと何だろ、この敗北感……。バレていないと安心しきっていた己の愚かさよ!


 もっと詳しく聞けば、さすがに装飾品関連の商談だとまでは知らなかったようだけど、私は商会にレオンハルトを連れていくしかなかった。だって王太子命令には逆らえない。投獄なんて御免だ。

 しかしね、まあね、男連れで参上した私に、バート君はびっくりした後で複雑そうな顔をしていたわ。そらそうだ。信用ガタ落ちよきっと。あー涙出る。

 この先の商売に影響が出たら確実にレオンハルトのせいだ。

 まあだけど、その日の商談は上手く行った。

 嬉しくも、私の掘った魔法石はその方面でも卸せるようになった。元々バート君推薦の相手は乗り気だった上に、近年自らの基盤を整えつつある王太子殿下の存在感が取引意欲を後押ししたんだろう。嗚呼権力……。


 レオンハルトは何故か私の商売を応援してくれるし、魔法石採掘も秘密も守ってくれている。


 だから強くは追い払えないままに時だけが過ぎていった。







 私達一家をこそこそと調べていたらしいレオンハルトと王都で再会してから早いものでもう一年が過ぎた。


 私は十六歳になり、彼の方も十九歳になっていた。


 生憎、婚約はまだ続いている。


 この日もラングウッドの森で私は魔法石採掘に勤しんでいたんだけど、前回会った日から五十二日とか何とか細かい言及をしたレオンハルトを前に微妙な気分になっていた。


 相も変わらず素敵なキャラデザ過ぎて動悸がしてしまった。彼は破壊力抜群の美顔を明るく輝かせている。うぅ眩しくて目が潰れる~。


「どうやらちょうど採掘が終わったところのようだな。ふむむ、中々に品質の良さそうな石だし……よし、その魔法石は全て私が相場の二倍で買い取ろう」

「こちらこそご無沙汰しておりますレオンハルト殿下。有難いご提案には感謝します。ですが馴染みの卸し先がありますので。そのお言葉だけ頂戴しておきます。ところで、わたくしは既に殿下もご存知のように貯えるのに忙しいのでお構いはできません。ですのでどうぞ両親の農場でも見学していって下さい。販売予定はありませんが新作チーズができたので、是非それを味わっていって下さい。奇特にもここの秘密を口外しないでいて下さる殿下へのせめてもの感謝です。うちの両親もさぞかし打ち震えて喜ぶ事でしょう」


 主に恐縮で。二人には本当に悪いけどレオンハルトをカチカチ緊張しながらでもいいからどうにか持て成して、彼にはさっさとお帰り頂きたい。

 そんな私のあーこいつ面倒だなって胸中を汲み取ったのかどうかは知らないけど、レオンハルトは何故か微かに怯んだようにした。


「メイプル、私は婚約者のお前と過ごした……話し合うために来たんだ。そう釣れなくするな。それに貯蓄が……老後が心配なら私と結婚すれば安泰だろう。もしも、万が一、億が一、その後で別れるにしても財産の半分はくれてやる」


 うっかり嫌気が顔に出そうになった。


「あのーですねー、陰謀渦巻く王宮に暮らして安泰は不可能です。一度でも暮らしたら終わりです。巻き込まれます。わたくしは臆病で命が惜しいので殿下のお相手は務まりませんと何度も申し上げました。しかも王都を出る際……八年前からわたくしの意思は表明してありましたよね。話し合いなど不要です。こっちはこっちで堅実に生きていきますのでどうかお気遣いなく婚約解消もしくは婚約破棄なさって下さい。本当の本当にわたくしを放り出して下さって構いませんから」


 ほんっと何度同じ事を言わないといけないんだか。彼はポンコツ脳みそで鳥頭なんだろうか。

 天下の王太子様は何故か不服げに少し黙った。


「無責任に放り出すなどしない。……今度は、私が必ずお前を護る」


 今度? 護る? ああ王都での破産寸前な一連を言っているの? それ以外は思い当たらないからそれよね。けどあれは私が画策したわけで……ってまあいいか。

 ともかく私は次なる獲物を求めて片手で重いツルハシをひょいと拾い上げた。王都の中央貴族だった頃の名残りのようにごきげんようと一言言い置いて。


「メイプル!」


 動揺したようなレオンハルトからツルハシじゃない方の手首を掴まれた。ボトボトと魔法石が地面に落ちる。

 はあーっちょっと! 傷が付いて査定額に響いたらどうしてくれるのよ!

 彼にはこれが状況によったら非礼だって自覚があるんだろうか。身分が高いと何をしても許されると思っているのかもしれない。魔法石は後回しにして私は悩んだように振り返る。

 振りほどくのはできるけど、それじゃあ解決しない気がするしね。

 ……そしてどうして彼は捨てられたわんこみたいな目をしているんだろう。


「あのですねえ殿下、殿下には近いうちにきっとイイ人が現れるはずです。わたくしよりも相応しい運命の誰かが。ええきっと、必ずや!」

「何を言うかと思えば下らない。私は結婚するならお前だけと決め――ごほごほっ、いや普通に考えて婚約者のお前とに決まっているだろうに」

「どうせしても別れるのにですか?」

「……っ……メイプルは別れる別れると言うが、別れるか否かは結婚してみないとわからないだろう」

「いえ別れますよ。王后陛下もわたくし達の婚約を快く思っていないようですし、わたくしも変に注目されたりして目立つのはとても困るんです。殿下に人の心があるんでしたら、ここで静かに過ごさせて下さい」

「人の心、か。人の心があるから私は九年前からのお前との婚約を続けているんだよ。お前とだから維持している」


 ええ? 冗談でしょ……? そんな口上が彼の口から飛び出してくるとは思わなかった。

 だって本来の彼は私を疎んじているはずなのに、血迷った?

 私は深い溜息を落とした。


「無礼を承知で正直に言いますと、他に王后陛下を牽制できる使い勝手の良い令嬢がいないからと、わたくしを利用するのはそろそろおしまいにして頂けませんか?」

「は? 利用? そんなつもりなどない! ただ純粋に私はお前がっ――」


 ハッとして彼は言葉を切ってやや俯いた。何か間違った言葉を言いそうになってそうしたみたいに。

 ……まあどうせ可哀想とか不憫にとかそんな言葉だろう。

 まだ駄々っ子のように手を放してはくれない彼は、それでもとうとう何か意を決したように顔を上げる。

 初めて見る真剣な眼差しに正直戸惑った。

 だってまるで本来の彼が「ヒロイン」に告白をする場面みたいだ。

 本当にどうしたんだろう。


「メイプル・シュガー嬢、私はお前が――」


 え、これはまさかの……!?


 彼のいつにない熱い眼差しに、ドクンと胸が高鳴って私は大きく両目を瞠った。






 三分経った。

 レオンハルトはまだ何も言い出さない。

 首を傾げて怪訝にしていると、


「――おい人間、スコーンから手を離せ」


 すぐ近くから別の男の声が上がった。

 急に現れ、私を掴むレオンハルトの手首を掴んで力を入れたのは黒髪金眼の美青年だ。彼もレオンハルトに劣らないイケメン。

 私はレオンハルトの注意が逸れたのを好機と掴まれていた手を引き抜くと、黒髪の男性へと視線を転じる。


「カイじゃない久しぶりよね。魔法塔忙しかったの? あとわたくしの名前はスコーンじゃなくてメイプルね」


 彼とは約一月ぶりだった。因みにレオンハルトとはさっき彼が具体的数字を言及していた通り概ね二月ぶり。


「ふぅ、人間の名前は中々覚えられない」


 小難しいとこは何もないと思うんだけど、小難しい顔付きで眉間を寄せるカイは相変わらずの妖精王子っぷりだ。

 最近は魔法塔や妖精界に遊びに来ないかってよく誘われるけど断っていた。そう言ってくれるのはとても光栄なんだけど、うっかりここに帰れなくなったら大変だもの。


 そんな頼れる友人一号カイは淡々とした口調ながらもハッキリと怒りの見える低い声音と眼差しで、レオンハルトから私を庇って前に出る。


 ここのところのカイは、レオンハルトにもバート君にも、更にはうちの両親にも姿が見えるようにしていた。彼との会話中に私の独り言だと思われなくなったのだけは素直にありがたい。


 レオンハルトは、彼ももう何度も顔を合わせて知っているカイへと剣呑な顔付きになる。この二人、どうにも馬が合わないみたいなんだよね。

 種族は違えど同じ王子身分の同族嫌悪ってやつ? それとも王家と魔法塔の微妙な関係のせい? よくわからない。


「関係のない人外は口を出すな」

「関係ならある。もう俺はショコラの――」

「メイプル」


 食い気味に挟んでやった。


「……メイプルの一切を見て見ぬふりはしないから。大体な、彼女はあんたのものにはならないよ」


 カイは冷静にそう言って後半部分で余裕の微笑みを浮かべた。レオンハルトは表情に不愉快と不可解をない交ぜた。


「どういう意味だ?」

「俺はあんたが罪深いのを知っている」

「は、貴様が私の何を知っていると……?」


 ムキになるレオンハルトに私は頭が痛くなる思いがした。カイもカイだ。レオンハルトじゃないけどどういう意味?


 それにここ最近いつも思うけど、レオンハルトなんて特に元は冷徹なはずのキャラが崩壊し過ぎでは?


 本当ならもうこの時期、レオンハルトはこの上なく私を遠ざけるようになっていて、そうだったなら婚約解消だってものの十秒で済んだだろうし、そうなれば今頃は私の心も肩もすご~く軽くなっていたはずだったんだけどねー……はあ、溜息しか出ない。


 カイもカイで、作中では長らく謎の魔法塔主人だったのが一番初めに姿を見せた相手は本来私ではなくヒロインのはずなのに、こうして早い時分から堂々と出てきている。しかも妖精王子身分まで明かしている始末。


 男二人の魔法的なオーラが衝突して、辺りの木々を激しく揺らし始めた。私の茶色い長髪はポニーテールに結んであるとは言えばっさばさ。


 何も見なかった聞かなかった事にして一人採掘しに去ろうかなーって半ば本気で考えていると、ピリピリとした一触即発の雰囲気を一蹴する呑気な声が飛び込んだ。


「お、どうしたのそこは? 拳で友情を深めようって方法を実践中?」


 ああっ天の助け!


「バート君!」


 そこには金髪に赤い瞳の馴染みの美形商人の姿があった。

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