第7話

 レベリング開始一年が経つ頃には、私メイプルも立派に身体強化を使えるようになっていて、魔法石の採掘もつい数日前にやり始めた。まだそこまで大きな岩はパッカーンと砕いたりはできないけど、それもこの先鍛錬するうちに向上すると思う。


 辛いレベリングのおかげで体付きも標準的になった。


 うん、そうなの、痩せてスリムになった!


 少し背も伸びたからね。

 ただ不思議と胃袋だけは変わらずモンスター級で、食欲が旺盛。

 レベリングをして、尚且つ鍛えられて代謝の向上した体がカロリーを消費するから単に太らないってだけなんだろう。

 とは言え人よりはレベル上昇速度が速いみたい。これも体質なんだろう。


 まあその話は脇に置いておくとして、何と幸運にも私が使える魔法は炎属性がメインだった。


 イヤッホーよ! この人生は元々がゲーム世界とは言えたぶんリセマラなんてできないだろうから、ハズレたらそれに甘んじるしかないと覚悟を決めていただけに、望んでいた属性が得意だってわかって天にも昇る心地よ。これなら人生お金持ち計画に支障はないわ。


 私は将来的には採掘した魔法石の他にも、炎魔法で溶かした魔法石同士を適切に合成して作った錬成魔法石を売り出すつもりだから。


 そのためにも炎魔法が得意でなくちゃってわけだ。


 魔法石と、炎属性魔法と、そして後は商品として魔法石を卸せる適した卸し先さえあれば、この人生文句なしね。


 実家の手伝い、レベリング、魔法石採掘の主に三つが私の日々のルーティーンになって半年。


 半年も経てばさすがにそこそこ掘り出した魔法石も溜まる。そんなわけで私はそろそろどこかに売りに行きたいと考えていた。一度限りならどこか大きな街に行けばそれで済むけど、継続して更にはそれが商売となると決まった卸し先があった方がいい。

 一つ年を取って九歳になっていた私は、さてどうやってその取引先を探そうかってレベリングしながら我ながら器用に悩んでいた。


「ぬぅうおおおおーっ! っふ、っはー! ふー……経験値吸収しゅ~うりょっ!」


 レベリングの獲物に森スライムだけではなく、スライムの棲息する辺りよりももう少し森奥に出る魔物羊を倒した私は、キツイ経験値取得の次には残留物と言うかこの場合魔物由来の素材の回収を始めた。


 魔物羊にはその強さランクに合わせて沢山の毛色があるみたいだけど、私が倒したのは黒い羊だったから黒いもふもふの塊が素材としては得られた。魔物でも羊だからウール百%!

 しかも、魔獣の毛だから普通の獣のそれとは性質がやや異なり何と魔法属性があったり魔法を後付けし易い代物だ。


「ふふふふ、これで必要な量が溜まったわ。帰ったら早速三人分の冬用布団を拵えよーっと。今は夏の終わりだから冬までには何とかなるでしょ。発熱魔法を付与したら贅沢な温もりを味わえる究極の布団になる事間違いなしよ。二人はきっと驚くわ」


 ここの冬は山だからってのもあるのか温暖な王都とは比べものにならないくらいに寒いんだもの。寒風吹きすさぶ厳しい大地よ。積雪量だって積もるのが珍しい王都よりは断然ある。無防備になる就寝時くらいは天国の如き心地よさの中で眠りたい。

 ほくほく顔で羊毛を鞄に仕舞うと、私は次なる獲物を求めてツルハシを手に再び森を歩き出した。関係ないけど現在のは二代目ツルハシだ。

 少し歩いたところで、何もない前方に突如としてふわりと黒髪の青年が顕現した。

 彼はおよそ魔法塔のトップには見えない簡単過ぎる服装でいる。近所の樵ですって言われても納得だ。だけどその顔や醸す雰囲気を認識すれば十人が十人こいつ絶対樵じゃないって気付くと思う。まあその姿が見えたら、の話だけど。


「タルト、あんまり飛ばすのも体に負担が掛かるからよした方がいい。レベリング初日みたいにへとへとになる」

「心配ありがと、カイ。あとわたくしの名前はメイプルよ」

「ああそうだっけ」


 はあ……。間違えるのはもう挨拶みたいなものだから大して気にならない。その上で私はむしろ彼が思っていた以上に沢山のスイーツを知っているのに感心していた。時々同じ固有名詞が出てくるとは言え、私も知らない名称も中にはあった。例えばポルボロンとか。

 人間の名前はややこしいとか言いつつ、何故かピンポイントでスイーツしか挙げてこない辺り……敢えて間違えて楽しんでいるとか言わないわよね? いやいやいやまさか、ね?

 薄ら疑惑を抱いてじっと見つめてしまっていたら、カイが不思議そうにしながらも近付いてきた。そして何を思ったのかズイッと更に顔を真正面から寄せて覗き込んでくる。


「カ、カイ……? どうしたの急に? 何か顔に付いてる?」

「メイプルが秋波を送っているのかと思って」

「秋波? あはは、そんなわけないでしょ。友達にそんなのしないわよ」

「……」


 あら珍しい。カイも冗談を言ったりするんだ。だけど私以外に言ったら本気で「はい送りました好きです」って展開になりそうだからしないように言ってやった。

 彼は何故か不服と言うか不満と言うか、私をどこか責めるように見つめてきた。でもどうして? きょとんとしていたら盛大に溜息をつかれた。だから何で!!


 あとはすぐにもういつもの物静かな天然妖精王子キャラに戻ったみたいだけど、そんなカイは相変わらず私が森に入ると現れる。


 森との境を通過すると知らせが行く魔法センサーでも設置してあるんだろうか。それよりほぼ毎日来てくれてるけど、魔法塔の仕事は大丈夫なの? 彼の手足となる下々の魔法使い達があくせく働いてくれているからトップは案外気楽で暇なのかもしれない。


「ねえカイ、見守ってくれるのは心強いしありがたいんだけど、わたくしに構っている時間を大事な王子妃候補に使った方がいいんじゃないの?」


 一瞬カイは変に黙り込んだ。因みに未だに例の妖精王子妃候補の妖精ちゃんには一度も会えていない。見かけさえもしていない。存在感が薄い妖精なのか本当に気配すら感じたためしがないんだわーこれが。


「……メイプルは、人間と妖精間の恋愛についてどう思う?」

「ええ? いきなりね。当人同士が好き合っていれば別に良いと思うけど」

「メイプル自身はどうなんだ? 妖精と恋仲になれる?」


 思わず眉を寄せてしまった。カイが明らかに悲しそうにしたから慌てたわ。


「あ、誤解しないで! まだわたくしにはそういうのは早いなあって思っただけだから。別に妖精は無理なんて思わないわよ。基本的に異種族間の恋愛には抵抗ないもの」


 十歳にも満たない私にやけに真剣な顔で訊いてくるから、正直また冗談でも言ってくるのかと思ったのよね。


「ああ、まだ……」


 カイも私の言いたい事かわかってか、気まずそうな様子で目を逸らす。


「はあ、つい急ぎ過ぎた。……王都の奴がぐずぐずしているうちにって思ったら」


 小さくそんな台詞を落とした。

 王都の奴って何だろう。よくわからないけど、今は森の奥にいるんだし私は周囲への警戒を怠らずに視線をあちこちに向けつつ止めていた足を動かした。カイも今日も付き合ってくれるようで付いてくる。

 私達が歩き始めてまもなくだ、私の視線はとある所で釘付けになった。心持ちカイに身を寄せてしまう。


「ティラミス?」

「ね、ねえカイ、あそこ、あれ……人が倒れてない?」


 名前を訂正するのにも気の回らない私の視線を追ったカイが「ああ、うん、人が倒れてる」と確信を後押しする。死んでいたらどうしようと嫌な感じでドキドキしながらも、私はその誰かにゆっくりと近付いた。


 結果を言うと、私とカイは森で珍しくも一人の遭難者を発見した。


 汚れたボロい旅行者マントに包まった痩せた少年で、金髪に、レオンハルトを思わせる深紅の瞳の持ち主だ。


 ……なーんて言っても相手は気を失っていたんだけど、私が自分でその子を検分するみたいにして瞼を押し上げて色を確認した。だって知り合いと言うかメインキャラの誰かだったら対応が変わってくるもの。

 正直最初はギョッとした。

 基本的に赤い瞳は王家に発現するのが多いらしいからだ。

 だけど、こんな辺鄙な森の中で遭難するような王族なんて私には思い当たらない。勿論レオンハルトではない。顔が違うから。容姿を変える魔法を使っている形跡もないとカイが断言していたから素顔と考えて障りない。

 つまり、幸い私の懸念するメインキャラの誰かではなかったと言うわけだ。良かった~。


「え、でも誰よこれ?」


 だってねえ、またまた超絶美形少年が出てきた。


 レオンハルトともカイともいい勝負なイケメンが。

 年齢はレオンハルトと同じくらいか少し上かな。十二、三歳、或いは十四歳?

 人間、食事の質によって成長具合が変わってくるから一概にはその年回りとは言えないけどね。

 不健康に痩せた遭難者君は怪我もしているようで、ボロボロの服には血が滲んでいる。昏倒している間もその表情がとても苦しそう。

 何か良くない夢でも見ているのかもしれない。


「とりあえず応急手当てよね。止血しないと」


 私はレベリング時に持ってくるようになっていた消毒薬と包帯を鞄から取り出した。

 速効性の魔法薬は高いし、擦過傷なら自然治癒で事足りるから常備携帯していない。ああでも家には一応置いてある。両親に必要になったら使うつもりでね。まあ使う機会がないのが一番だけど。

 そんなわけで、まずは目に付いた所だけ彼の手当てをしてあげた。

 それからカイの魔法に手伝ってもらってうちに運んだ。もしメインキャラだったらカイに頼んで最寄りの街にでも連れて行ってもらうつもりだったけど、その必要はなかった。

 うちにいる未来のお嫁さんを心配したのか、カイは最初少年をうちに連れていくのを渋っていたけど、人間では唯一の友人たる私の頼みだったからなのか了承してくれた。何だかんだで案外優しいのよねカイも。


 ……いや、も、てどうしてここでレオンハルトなんかを思い出すんだかね。


 カイには玄関先までにしてもらって、私が少年の肩を背負うようにして玄関を潜ると、お昼休憩中だった両親は予想通りびっくり仰天した。


「この子ね、一人で農道近くの森の中に倒れてたの」

「「一人で!?」」


 二人は揃ってまたびっくりした。

 驚き過ぎでしょって呆れたら、二人して夫婦仲良く顔を見合わせて取り繕ったみたいに苦笑いを浮かべた。


 その様子に何か引っ掛かりを覚えたけど、どこで彼を見つけたのかを問われてボロを出さないように気を張っていたらそんな考えはすっかりどこかへ行ってしまった。魔物の出る森の奥に行ってましたーなんて知られるわけにはいかないもの。


 両親からの許可も得て、私は行き倒れ少年に一時的にだけど私のベッドを貸してやり介抱した。必然的に夜寝る時は両親と一緒に寝たわ。ふふっ久々で嬉しかった。


 少年には回復薬を飲ませてやって安静にさせてやったら、翌日の午前中には目を覚ました。


 彼は自らをバートと名乗り、心底からの感謝を示して私と両親に頭を下げた。


 うん、本当に私の杞憂だったみたい。登場キャラにはバートなんて名前のキャラは脇役にもいなかったから、彼こそが私のほとんどモブなんかとは違う真の完全モブなんだわ。

 その場には何故かカイも同席していたけど、きっとバート少年には両親同様に見えてはいなかったと思う。たぶん。


 今度は逆に私が名乗ったら、彼は予想もし得ない名前を聞いたみたいに「えっ、あなたがあの!?」と目を丸くした。


 あの。

 それって、お前はあのメイプル・シュガーなのかーって意味よね。

 もしかして、彼は私が王太子の落ちぶれ婚約者だと知って驚いた?

 とは言え王都を離れて一年半以上経ったし現地の人々は私やシュガー家の存在なんて忘れて過ごしているはずだ。流行と一緒で人心も移り変わりが早いもの。バート君にしてもきっと名前を聞いて思い出したとかだろう。

 だけど結局はレオンハルト云々の会話には繋がらなかった。私の方は勿論、向こうも仮に思ってはいたとしても当人を前にしてはかなり微妙な話題だからか、それ以上続けはしなかったからだ。

 バート君は空気を変えようとしてか、ベッドから出ると両足でしっかりと立って私に頭を下げた。両親にも。まだもう少し寝ていなさいと私達は言ったんだけど、本当にもう動いて平気だからと彼は大いに恐縮していたっけ。


「改めて、助けて面倒まで見て頂いて、本当にありがとうございました。シュガー家の皆さんは僕の命の恩人です。この先僕でお役に立てる事が何かあれば遠慮なく仰って下さい」


 バート君は恩を感じてかお礼を申し出てきたけど、生憎このラングウッドの地で私達一家が余所者の彼に頼める何かはない。まあもしも長期滞在して農場を手伝ってくれるなら別だけど、そこまではお願いできないわ。


「そこは気にしないでいいですよ。それとあと、わたくしは九歳で、バート君は十四歳なんですし、敬語はいりません」

「あー、敬語は話す時の癖みたいなものなんですよね。幼い頃から周囲には年上ばかりだったのもあるのかもしれません。だけど、メイプルさんの前ではなるべく直すね。こんな感じで」

「ふふっ、バート君は実はどこかいいところの育ちだったりして?」


 茶化す気分での冗談だったのに、一瞬変な間があって、バート君は「昔はね」と眉尻を下げた。え、マジで~……。


「メイプルさんには隠すつもりはないから話すけど、僕もかつては王都暮らしだったんだよ。そうは言っても直接メイプルさんとは顔を合わせた事はなかったかな」


 私とはって言い方は裏を返せば私以外とは面識があるって受け取ってもおかしくはない言い方だ。しかも私の近しい人と。


 まさか、もしかして、レオンハルトの知り合い?


 うわーでもあの男の名前は出したくない。仮に知り合いだとしても私には関係ないし、よし、ここは深入りしないでおこう。


「そうだったんですか。わたくしもバート君のような素敵な殿方と会ったなら絶対に忘れるはずがないですし、向こうで会っていたらまた違っていたかもしれませんよね」

「あはは、そうかもしれないね。あと素敵な殿方なんて言ってくれてありがとう。お世辞でも嬉しいよ」

「へ? 別にお世辞を言ったつもりはないですよ」

「え、そうなの?」

「はい。自信を持って下さい。バート君はわたくしのトップスリーに入るイケメンです!」

「トップスリー……。……ふふっ、あははっ、ありがとう」


 たぶん彼の家もうちと同じく落ちぶれた口なんだろう。勝手に妙な連帯感を抱いていると、玄関を叩く音がして、在宅を問う声が聞こえてきた。来客だ。


 それまでこっちを微笑ましげに眺めていた両親が応対に消え、部屋に残された私達は何となく息を潜めてしまった。

 珍しいわね、うちにお客様だなんて……と思っていたら、ちょうど窓から玄関が見えたのか、バート君がハッとなった。


「ごめん、あれ僕の連れ達だ。申し訳ないけど、玄関まで案内頼めるかな?」


 彼の連れ……。


 私もチラッと窓から見える人達を見てみた。

 ええと、商人みたいな格好をしてはいるけど、人相と言うか風貌は戦う者のそれだ。剣なんかの武器も腰に携帯しているのが見える。

 私の中で急な不安が膨れ上がる。山賊とかの武装集団だったらどうしよう。だとすれば、応対に出た両親が危険だ。

 血相を変え即座にくるりと身を翻した私の動作と、いるのをほとんど忘れかけていたカイの声が重なった。


「危険はない。もしもあれば俺がいるから」


 カイ……。そうよね。今は彼がいる。でもいつも必ずいるとは限らない。

 カイの声は聞こえていないだろうし、急に足を止めた私をどう思ったのかは知らないけど、バート君は真面目な面持ちでこっちを見ていた。


「メイプルさん、怖がらせてごめんね。でも安心して大丈夫だよ。彼らはならず者の集まりじゃなく、多少、いやかなり人相はあれだけど、歴とした商人なんだ」

「え、商人?」


 商人っぽいなあと思った服装の通りに?


「あはは、初見じゃ信じられないよね。でも本当なんだ。だからこそ彼らを紹介させてほしい」

「ええ、わかりました」


 保険としてカイもいるしで、私はバート君を半分信じて玄関まで連れていった。


 もう既に玄関を開けた両親が、屈強な戦士とか傭兵にしか見えない男女の一団を前に圧倒されていたけど、私達が駆け付けるとその一団が一斉にその場で片膝を突いた。


 正確にはバート君を見てすぐに。


「バート様っ、よくぞご無事でっ!」

「良かったですバート様あああっ! 森で離れてしまった時はどうなる事かと……っ」


 皆涙を浮かべていて、彼らは本当にバート君を案じていたんだって伝わってくる。彼らの事情はわからないけど、無事に再会するお手伝いができて良かった。

 立ち上がった一団から縋り付かれてたじたじなバート君の様子には微笑ましくなった。


 落ち着いた彼らを屋内に招いて話をすれば、バート君はとある商会の商会主で、ムキムキな彼らは彼の護衛兼従業員だそう。


 まだ大商会には及ばない弱小商会だからか、近年利益を上げて急速に勢いを増す彼らを妬んだ同業者から嫌がらせをされたり、中には短絡的にも脅してくる連中さえいるみたい。今回は商会の中核たるバート君を誘拐して潰そうとしたんだとか。けしからん話よね。


 でも、バート君は商人、若くして商会を営んでいる。


「あのー、バート君のところでは、魔法石を取り扱ったりなんて、してないですよねー?」


 駄目元で訊いてみた。


「魔法石? うちで力を入れている商品の一つだねそれは。何かお望みの魔法石でも?」

「え、いえいえほしいわけではなくてむしろ……」


 って駄目だ、この場には両親と彼の仲間がいる。

 魔法石の取引をするなら産地の守秘義務を課したいし、知る人数は少ない方がいい。


「バート君、あの、ええとっ」


 意を決した私のただならない様子に、周囲もバート君本人も怪訝そうにした。


「後で二人きりでお話がしたいです!」


 バート君はキョトーン。

 カイは何故かバート君をキッと睨んだし、睨んだのは普段のほほんとしているはずの父親もそうだった。母親はあらまあって両手を頬に当て妙にによによしていたし、バート君の仲間達は各々興奮して色めきだった。


「バート様にもついに遅い春が……!」

「常々容姿だけならバート様でもいつかは女性を引っ掛けられるって信じていました!!」


 他にもあったけど、聞いていて気の毒になるくらいにバート君は散々な言われようだった。モテそうなのに……。

 彼は終始笑顔を崩さなかったけど、どことなく殺気のようなものを感じたわね。

 まあ、その日のうちに私は彼と二人きりで商談をした。

 採掘した魔法石を参考にと見せると、中々に質の良いそれらに驚いた顔をしていたわ。


 私が卸し先を探しているのだと告げれば、彼は私が何を望んでいるのかすぐに理解してくれた。


 タリタリラー! メイプルは専属の卸し先をゲットした!


 ゲームならそんなテロップが出てきたはず。

 これから何年と、私と彼とは商売繋がりで友情が続いていく事になるのよね。

 友人二号もゲットだぜ!

 彼のおかげで私の懐はほっくほく。

 レベリングも順調で素材集めも捗って、そこからも利益がざっくざく。

 私はこのラングウッドの地で十五歳になるまでは、このメイプル・シュガー人生は勝ち組だぜ~い、と本気でそう思っていた。愚かにも。

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