第5話
王后から両親へのさりげない誘導と頼んでもない根回しもあり、スピーディーにも後の三ヶ月までに私の画策は成功した。
シュガー家は多大な損失を被って破産……まではいかないギリギリのラインで没落した。
王都の屋敷や家財の大半を売り払って何とか借金だけは負わないで済んだから両親はとても安堵していた。それはまあ普通はそうだろう。借金なんて一円たりともない方がいい。
唯一残った財産と言えば、私が事前にチェックを入れていた例の田舎の土地だ。
以前人の好い父親が、友人から金山があると騙されて購入したと言うこの国の僻地の一つラングウッド。
金山なんてものはなかったけど、本来のこのゲームではメイプルの死後彼女の両親は世を儚んで出家した。二人は深く悲しんだけど後追いはしなかったのは幸いだと思う。
その際例の土地は誰かに貸し出していて、そこで農場を営んでいた農場主が沢山魔法石が埋まっているのを偶然にも発見し、そうしてその後国内有数の採掘地となる土地だ。その莫大な利益で両親は娘メイプルを偲んで世界各地に不遇な女性や子供を扶助するための基金を設立したと、エンディングに説明文オンリーだったけど表示されていたのを薄ら覚えている。
まあ私のに話を戻すと、購入当時も現在も人里離れて野山しかない辺鄙な場所だと一般には認識されているし、森奥には普通に魔物も出る。そんなわけで結構な面積の割には値段は安かったみたい。
畑や農場には打ってつけのなだらかな広い丘陵地と山々がセットの領地は、当面はのんびり領地経営を目論む私に必要な物が全部揃っている。
丘の終わり、森との境には以前の住人のだろう小さな木の家が建っていて、そこが私達の新たな家になる予定だ。
この土地の秘密を何も知らない両親は土地購入時に一度だけ訪れたそこで畑でもやって、家族三人暮らしていこうと決めたようだった。
使用人達は誰も付いてこない。薄情な彼らはシュガー家の財政が苦しくなった途端、さっさと退職金を手に他の貴族屋敷へと移っていった。まあゲームでも王后のスパイだったり賄賂であっさり裏切ってメイプルを陥れるのに協力したりと、ろくな人間がいないのはわかっていたから何とも思わない。まあ私も彼らが出ていくようにそれとなーく焚きつけたんだけど。
シュガー家内部がごたごたしていたおかげで、レオンハルトとは王都を去る前日まで会わずに済んだ。
何故か王后との密会後は歌劇鑑賞や会食の予定を彼自らキャンセルしてきたのもある。体調や都合が悪くなったんだとか。どことなく彼から距離を置かれた気もするけど、何かした記憶はない。
ただそれは、裏を返せば去る当日には彼に会ったって意味だ。
こんな事になりごめんなさい私の事は気にしないでそちらはそちらの人生エンジョイして下さいって旨の健気な手紙を残して顔を合わせない予定だったのが、予想に反してレオンハルトがシュガー家に来たの。手紙の書き損だ。貧乏なのに奮発した紙とインク代を返せ。
豪華でもない安そうな馬車に少ない荷物を積み込んで、さてついに王都からエスケープだーっと朝から爽快だった私の気分は嫌みたらしいなと思ってしまうくらい豪華な馬車で乗り付けたレオンハルトを見たら急下降した。
言っておくと彼の馬車は別に嫌みでもなく普段使いの物だ。これまではうちも似たような豪華さだったからとりとめて何も感じなかっだけ。こうして差があるのが並ぶと際立つ、うん。
「メイプル、少し会わない間に痩せたな」
「はい?」
痩せた……ってどこら辺が!? まだまだまるまるしていますけどー? 鍛えているせいで三ミリくらいは細くなったかもしれないけど。
「しばらく会えなくて悪かった。ここを出て行きたくないなら行かなくてもいいんだぞ」
「ああ、そこはお気遣いなく。田舎暮らししたいんです」
「……っ、そ、そうか、田舎暮らし、一度は憧れると聞く。しかし大自然は過酷だ。もっと大人になってからでも……。王宮なら安全だし空きスペースが沢山ある」
「いえ、わたくしはインテリアとかファニチャーではないので、あしからず」
せめて空き部屋って言えないのかいこの子は。まあいいけど。
「ええと、今回のことでは殿下には大変なご心配と多大なご迷惑をお掛けしています。申し訳ありません。向こうで落ち着いたらと思っていたんですが、わたくしとしてはこれ以上我が家の没落スキャンダルに殿下を巻き込みたくありません。ですので――」
「――しない!」
「……まだ何も言っていませんけど」
「婚約解消しようと言うつもりだろう?」
「わお、大当たりです。勘がいいですね」
思わず拍手してしまうと、レオンハルトからキッと睨まれた。ごめんちゃいレーヴェきゅん。
「こんな没落程度で王家の定めた婚約が破談になると思っているのか? 王家がそこまで無責任だと思うのか? お前の家が被った損失は私が肩代わりしてやる! 曲がりなりにもお前は私の婚約者なんだ。私は婚約者を路頭に迷わせる甲斐性なしになどならない。お前を路頭に迷わせたりなどしない!」
「いえ路頭に迷うわけではないんですけど……。単に田舎の領地に引っ込むだけです」
「私を置いてか?」
「え、置い……え?」
急に何?
「あ、殿下も田舎暮らししてみたいんですか?」
「……状況によってはしてもいい。だが今じゃない。私の基盤は磐石ではないからな。とにかくだ、メイプル達がこの屋敷で元の生活を送れるようにする。だから去る必要はない。私はメイプル、お前のためにできる事はしたいんだ。気に食わない所だって直すと約束する! ……つ、償いたいんだ」
償う? いつも私に対しての不機嫌面をようやく駄目なやつだって気付いたんだろうか。
「その気遣いだけで本当に十分です。とにかく婚約は解消しましょう。お互いのためにも」
「だから解消解消と軽々しく言うな。私は醜聞にしかならない逃避をやめるよう言っているだけだ」
醜聞、か。まあ確かにそうだ。
足を運んでまで私を引き留めようとしたのは、結局自分の体裁のため、か。
貧乏になった婚約者が王都から去らないとならなくて、それを傍観していただけなんて、何て無慈悲な王太子って陰口叩かれちゃうからね。
大体、もしも言われたようにしてここに残ったら、おんぶに抱っこの図々しい人間だって後ろ指指されるのは私や両親なんだけど、そこをわかって言ってる?
ゲームでもメイプルを敵側の人間だと決め付けてからのレオンハルトは、彼女の状況なんて考えもしなかった。
ヒロインに出会うまで罪悪感に苛まれはしても、彼の心の氷は解けなかったんだから、この目の前のレオンハルトに私への気遣いやら献身性を求めたって無駄無駄。
多少「ん?」と眉をひそめて立ち止まりたくなる違和感はあれど、基本的なキャラの性格は変わらないだろうから。
「殿下、少し時間を置いてからまた話し合いましょう。必要なら上京しますので」
「時間を? ふん、十年後も変わらない。婚約解消はしない」
「十年……」
はあ、と私は心で嘆息する。もうこれ意地になってない?
十年後なら私は十八歳。死亡エンド予定より一歳多い。
異世界からヒロインがやって来るのがその頃だったはず。
そしてレオンハルトはヒロインに恋をする。
ゲームではもう死んでいるけど、仮に生きていてもメイプルの入る余地なんてないくらいにヒロインにメロメロ~でベタ惚れ~で溺愛~だ。
恋愛に目覚めたらそんな情熱的な一面のある男なんだっけそう言えばこの人。
ただ私もお役御免と死ぬわけにはいかない。十年後も絶対生きているつもりでのこの状況なんだから。
「はあ、殿下は頑固ですね。わかりました。保留で。別れたくなったらいつでもご連絡下さい。ああそれと、わたくし達家族に干渉はしてこないで下さい。引っ越しやらでしばらくはバタバタしているでしょうから。そこは重ねてお願いします」
「援助くらいはする」
「結構です」
「遊びに行くくらいは……」
「殿下はそんなに暇なお立場なんですか?」
「婚約者に会うための時間くらい作っても……」
「一切合切結構です。それでは、――さようなら、レオンハルト殿下」
さようなら、を敢えて強調した私は慇懃に頭を下げて、御者代節約と父親自らが手綱を握る馬車に駆け寄った。だってこのまま会話していても埒が明かないだろうから。
早々に殿下に挨拶だけは済ませていた両親はそれぞれ気がかりそうにしていたけど、私はにこりとして「お腹が空く前に出ましょう」と発進を促した。あたかも怒った彼から不敬だと足止めを食らう前にと逃げるように。
一方そんなレオンハルトは怒って追いかけて来たりはせず、どうしてか急に呆然としたように佇んでじっとこっちを見ていた。
あれ、そう言えば破談したいなら連絡してとか言ったけど、行き先教えてなかったかも?
この国の登記は必ずしも王家に直接提出するものでもなく、その地方毎に役所があるからそこに提出する。売買も元々の土地の所有者と購入者間で合意さえすればいいだけだ。
つまり、王家の知らない私的な土地売買が山程ある。
うちの引っ越し先を知りたいなら必然、全国の役所に照会しないとならないって手間が生じる。果たして彼がそこまでの手間をよしとする?
まあいいか。どうせもう会わないだろうし。必要なら向こうで勝手に婚約破棄するでしょ。
異議申し立てはしないから安心してよね。
幸いにして、この先何年と私は彼とは顔を合わせなかった。
彼の方も敢えて居所を調べてまでこっちの顔を見に来ようとはしなかったに違いない。事実一度も会わなかったしね。
暇人なんて嫌味を言ったけど、レオンハルトが本気で会う時間を見つけようと思ったらそうできたはずだけどそれをしなかったって事はそういう事だ。つまりメイプルは重要な存在ではない。
うん、思惑通りに進んでいる。この調子で頼むよ~。
まあ先々の話はまだ置いといて、田舎に暮らし始めた私メイプルは、しばらくは飢えた水牛みたいな血走った目で「ゼロカロリー! ゼロカロリー!」って空腹で錯乱して周囲を威嚇していたそんな時期があった。
貧乏で満腹になれなかったせいだ。
余程私が憐れだったのか怖かったのか、引っ越して三日目にはもう、以前は転ばせてくるような小さな悪戯妖精達も甲斐甲斐しく森の木の実の場所を教えてくれたりするようになっていた。
それでも足りなくて私は寝ていても食べているみたいにもぐもぐしていたらしい。両親は枕をはむはむする私をとても案じた。
不思議にも、余程可哀想な人間とでも映ったのかいつしか朝になると誰かが集めてくれた新鮮な木の実がたんまりと家の玄関前に置かれるようにもなっていた。
笠地蔵的な善行をした覚えはないし、季節を無視した木の実のサンタクロースになってくれている誰かに心当たりもない。
間違ってもレオンハルトの線はないだろうし。
ああ彼と言えば両親が言っていたけど、我が家の銀行口座に彼からお金が振り込まれていたみたい。生活費にしろって意味だろう。
だけど、そのお金は一銭たりとも引き出さなかった。
没落したとは言え私達にだってプライドがある。それに引き出したら後で何を要求されるかわからない。
橋の向こうにどんな楽園が見えたって石橋は叩いて渡らないとね。
あと、私は両親にはレオンハルトと結婚したくない旨をはっきりと伝えた。
だから当初は婚約を喜んでいた両親も今では私と彼との婚約状態を余りよく思ってはいない。
会話でレオンハルトの名が出ると何故か結構不安そうにする。
高位貴族には珍しい恋愛結婚だった両親からすると、いつも不機嫌そうで愛情の薄そうなレオンハルトは不合格なのかもね。
そんな私は、一月が経った頃には半分の大きさになっていた。
それでもまだぽっちゃりだけど、元からすれば激ヤセ同然だからだいぶ両親には心配を掛けたみたい。
後々は畑の他にも農場経営を始める両親も、まだこの頃は農場ののの字の発想もなく、畑にしても始めたばかりで作物は育っていないし、レオンハルトの援助金を除けば貯金も底をついていたから使用人を雇う余裕もなく、かつかつの生活だったから余計に気を揉んだだろう。
よし農場をやろうって一念発起したのは約一年後。誰かを雇えるようになったのはここに暮らして三年目くらいからだ。
話の時間軸を戻すと、腹持ちもよく美味しいのばかりだった木の実のおかげで引っ越して二ヶ月、私は錯乱しなくなった。
「うん、何とか多少の空腹にも慣れたかな」
多少の空腹と言っても普通世間一般の人間はこれを空腹にカウントはしない。腹六分目くらいに胃の内容物がある状態だから。メイプルのが、私の胃袋がおかしいだけ。この体質もレベリングしながら追々改善と言うか改造していけたらいい。
ううん、レベリングで体に一体どんな効果が出るのか少しだけ楽しみでもある。
私も両親も連日置かれる木の実に感謝していたけど、私はその置き主が気になって姿を見てやろうと決意。まず、身近な妖精達に訊いてみたけど犯人はわからないって左右に首を振られた。
次に彼らに頼んで玄関先を見張ってもらったんだけど、誰も何も見ていないと言う始末。何度やってもらっても同じくね。
妖精は普通見たままを教えてくれる。誰がやって来て置いていったのかを防犯カメラ宜しくちゃんと見ているはずだから。
――だからこそ不可解。
そう、不可解或いは不自然でしかない。
他方、両親も両親でお礼を言いたいと徹夜したらしいけど、朝気付いたら置かれていたんだとか。足音も足跡もなくてまるで透明人間が魔法で一瞬で出して去ったみたいだって言っていた。
魔法、か。
冒険者や王宮騎士でも魔法はよく使う。
故に当然、王后の他にも使える者はいる。
されど、王后程の使い手は滅多にいない。
加えて、メイプルに関係する誰かとなると見当もつかない。
レオンハルトも成長したら魔法を使えるけど勿論今は違う。
およそ一月真実を暴こうと粘った両親も下位妖精達も結局は何の成果も得られなかった。
……調査は暗礁に乗り上げた。そんなわけで、引っ越してきて三ヶ月、そろそろ私の出番ね!
三ヶ月の間、謎人様からの差し入れには大変お世話になりました。どうか直接面と向かってお礼を言わせて下さい……と、そんなわけで、朝露にしっとりする私は昨日の夜から張り切って玄関がよく見える茂みに潜って見張っていた。
はい、現在メイプルは張り込み中ですどうぞー?
はい、夜明けが近いですどうぞー?
うう、蚊に刺された所が痒いですどうぞー?
あとどれくらいこうしていないとならないのか。溜息しか出なくなった頃だった。
小さな家の屋根の端っこが朝日に照らされたその時、私の目は玄関前にふっと現れた人影を捉えた。
後ろ姿だけど背の高い男性だと思われる。知り合いではない。
誰あれ…………人間じゃない。
驚きしかなかった。
彼からはいつも傍に寄ってくる妖精達と同じような気配を感じた。
あれでは両親にはその姿が見えないわけだ。
妖精の類いは向こうで意図しない限り普通人の目には見えないもの。見える私が変わっているだけ。
後ろ姿からでは妖精の素性はわからないけど、たぶんいい妖精だろう。悪いソレ特有の禍々しさがない。
その人影は手品のようにその手に大きな葉っぱに盛られた木の実を出すとそっと玄関前に置いてくるりと踵を返した。
彼はうちの母親が必ず毎日手の空いた時に手入れをしている美しい花壇を眩しそうに眺めた。
「――!?」
笠地蔵くんは何と知っている顔だった。
黒髪に瞳は金色だろう彼は、紛れもなく妖精だ。
ゲームでヒロインの友人になって色々と助けてくれる男キャラ。レオンハルトと並ぶイケメンで、ゲームでは彼と結ばれるルートも用意されている。
妖精王子カイ。
妖精界の実力者であり権力者。
妖精魔法に長けていて凄腕魔女の王后と渡り合える強さを誇っている。
人間に無関心なのが多い妖精には珍しく、人間に身をやつして人間社会に暮らして、何と気まぐれが高じて魔法塔の主をやっている異色の攻略対象キャラだ。
まあ、だからこそヒロインとも接点ができたんだけど。
妖精達の誰にも見えなかったのにも納得だ。彼が隠したいと思って行動したのなら、彼よりも力のない下位妖精達が察知できるわけもない。
え、でも、そんな凄い存在がどうしてうちの玄関に置き配していくんだろ? 意図は何?
私はハッとして蒼白になった。
まさか、木の実には遅効性の毒が……?
想像したらショックで茂みでガサッと音を立ててしまった。
直後、彼がピンポイントに視線を向けてくる。
さすがは妖精王子、鋭い流し目すらも神々しい。
って、わあーどうしよーうこれは逃げられなーい。
見つかってしまっているのは明白だからと、私は観念して立ち上がった。
バチリと目と目が合う。
「あ。とうとう見つかってしまった……」
妖精王子はそれはこっちの台詞だよねと思う台詞を顔色一つ変えず淡々として口にした。
ああはい、マイペースでちょっと天然なゲームキャラの性格まんまだあ~。
そういえばゲームファンからもゲーム内のキャラからも癒し系って呼ばれていたなあ。……うーん、癒されるかあ? 気は抜けるけど。
とりあえず今のところ害はなさそうだなと茂みから出て彼に近付いた。
「あの、あなたは妖精さんですよね。どうして木の実を置いていってくれるんですか?」
彼の王子身分から魔法塔塔主までの正体を知っているとはさすがにお前何奴ってなるから言えないとしても、妖精だとは気付いてますよー的に言った。
「妖精の王子として、未来の王子妃に贈り物をするのは当然だろ」
「……?」
私は思わずことりと首を傾げた。
彼は全くよくわからない台詞を口にした。
未来の王子妃に贈り物?
ああもしかして、妖精王子妃候補がうちの小さなログハウスに借り暮らししているとか? うちに屋根部屋は確かにある。
それか実は言葉通じていないのかも。そう言えば主にヒロインとしか会話シーンなかったし、ヒロインとしか意思疎通できない難しいキャラって設定が密かにあるのかもしれない。うーんどうしよ、とりあえず礼儀としてお礼だけは言わないと。
戸惑いながらも私は深々と頭を下げた。
「美味しい食べ物を毎日ありがとうございました。まだまだ不慣れなこの土地で家族三人飢え死にしないで食い繋いでこれたのも、妖精さんのおかげです。これからもどうかわたくし達一家を見守っていて下さい」
木の実宜しくってわけだ。下げた私のつむじに彼の美声が届く。
「うん勿論、君が空腹で倒れないように毎日デリバリーする。こちらこそ宜しく。ああ、むしろこれでもう変にこそこそしなくて良くなったよな。面と向かって堂々と話せる」
妖精王子カイは、嬉しそうにほっこりと微笑んだ。くっ、破壊力凄まじいな!
未来の王子妃妖精と同居する人間にまでこんな気遣いをしてくれるなんて、いい人ならぬいい妖精だ。大丈夫、安心して。うちには妖精に酷い目には遭わされても、逆に酷い目に遭わすような危険人物はいないから。
隠れるのが上手なのかその候補妖精の姿をまだ見たためしはないけど、いつか私になら会わせてもいいよってなったら紹介してほしいな。
……んん? ああだけどヒロインと恋仲になる可能性もあるから、王子妃になるかはわからないか。
私も今はプレイヤーではないから約十年後に現れるヒロインがゲームで言う誰ルートを取るかは予測がつかない。
まあでもいっか。
私ほとんどモブ令嬢メイプル・シュガーは最早本編とは関わりない存在、真のモブになったんだから。
妖精王子カイが現れたのはきっとたまたまだ。通りすがりと思って彼には不用意に関わらない。それでいい。
でも図々しくも差し入れだけはもらう。少なくとも日々の食事の心配が無くなるまでは。
ここでの生活全般にも慣れてきたし、人生エンジョイ計画完遂に向けて、そろそろレベリングも始めよう。
さあ私の薔薇色人生はこれからよ!
……なーんて思った私は愚か者だった。
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