放課後の昼寝

菊崎中学校の廊下を歩いている間に、暖かい遅い午後の日差しが高い窓から差し込み、ピカピカに磨かれた床に長い影を落としていた。数時間にわたる授業の連続で、私は疲れ切っていた。


最後のチャイムが鳴り響き、生徒たちの教室から廊下へとあふれる声が満ちていた。ロッカーの扉がガチャンと閉まり、足音が響き、賑やかな会話が壁に反響している。学校を後にして夜を楽しむ生徒たちの期待に満ちた静かで活気ある時間だった。


「See you、クリスタ先生!」

「バイバイ!」

「おはー、あ、see you 先生。」


多くの生徒たちが3連休を楽しむために挨拶をしてくれた。

私が教室の窓の外を見ると、そこにはそよ風が近くの木々の葉を揺らしていた。

私はその光景をじっくりと楽しみながら、日本での新しい生活で起きる小さなことを楽しんでいた。


いつも窓の外をただぼんやりと見つめる母のことを思い出す。彼女は一般的にあまり話さず、穏やかな女性だった。彼女はいつも何かを心に秘めているように感じられた。それは私の人生の過去25年間、彼女についてずっと疑問に思っていた謎だ。


そんな懐かしい思い出に浸っていたところで、隣の教室から大きなおしゃべりと笑い声が聞こえてきた。

その隣のクラスに歩み寄り、三人の女子生徒が話しているのを耳にした。

彼女たちは靴に緑のストライプが入っており、3年生のようだ。

まだ私がドアのそばに立っているのに気づいていないようだった。


「あかね、もう行こうよ。今日は部活が中止だったでしょ? 私は暗くなる前に学校にいるのが嫌いなの!」


「どうして? 私は楽しいと思うよ。まるでキャンプみたいだもん。」


「ふむ? りこちゃん、怖いんじゃないの?」


茶髪のショートボブの少女が、りこに近づいて尋ねた。


「やめてよ、なおみ! 私は怖くないわよ!」りこはなおみから顔を背け、腕を組んだ。


「ねえりこ、知ってた? 学校が日没時に残ってると、長い髪の少女の姿を見かけるという話があるの。」とあかねは楽しそうに言った。


「なんでいつも長い髪の女の子ばっかりなの?」となおみは尋ねた。


「知らないよ、あなたが雰囲気を壊しているよ!」


あかねが咳払いをして続けた。


「でも、その話、実はね…彼女が話しかけてきたら、その声が男の子みたいに深いの。」


興味を持ったなおみはあかねに向かって身を乗り出し、

「何て言うの?」と尋ねた。


あかねは悪ふざけな笑みを浮かべ、二人に寄り添うようにして話し始めた。


「彼女の笑顔は苦笑に変わり、目が暗くなり、冷たくて不気味なオーラが彼女を包む。そして、ぞっとするようなささやき声で『それなら、あなたは永遠に私と一緒にいるのよ』と言うんだ。そして一瞬で...」


あかねは突然、りこの腕を掴む。反応してりこは悲鳴を上げ、なおみは恐怖で後ずさりする。


「...彼女の氷のような握りが手を締め付け、あなたは圧倒的な力で彼女に引き寄せられるんだ。」幽霊になりきったかのように、あかねは話した言葉を真似し、涙を浮かべたりこを引き寄せる。


彼女は続けて言った。「助けを求めても抵抗しても、あなたは影に引きずり込まれ、生者の世界から消え去り、彼女の永遠の闇と絶望の領域に加わることになるんだ。」


「キャー!やめて!!もう聞きたくない!」

りこは叫び、なおみにしがみつく。


あかねは大声で笑いながらお腹を押さえ、まるで笑いすぎで痛みを感じているかのようだった。なおみは呆れた様子でため息をつき、りこがしがみつくのを許した。


「野川先生と付き合ってるんじゃない? 彼の話が頭に入りすぎちゃったのかな、あかね?」


「いやいや、昨年の先輩から聞いたんだよ。この学校が黒菊源こくげん中学校の上に建てられたときの呪いだと言われているんだって。」


またまたその馴染み深い名前、「黒菊源こくげん中学校」が出てきた。

話題になるたびに、その後には奇妙な出来事や幽霊の目撃談が続いた。しかし呪い?それはまるでホラーストーリーのような話だ。


りこの身体が鈍い振りのようになったので、なおみが彼女をしがみついている。


気を引くために、私は教室の扉を開けた。


「Hello! Do you have club activities?」と英語で尋ねた。


三人の女の子がまっすぐ立ち上がった。

なおみは、おぼつかない英語でつまずいて言った。


「Hello Christa-sensei! No…No club.」

「Yes! Home. Home. Club, no today.」と あかねが付け加えた。

「Oh really? Okay, see you!」


私は手を振って彼女たちに合図し、帰るべきことを知らせた。


女の子たちは素早く荷物をまとめ、お辞儀をして教室を出て行った。


「See you Christa-sensei!」

「See you!」

「Bye-bye!」


微笑みながら、彼女たちが正面の出口に向かうのを見送った。疲れが溜まっていたので、窓際の生徒の机に座ったまま、頭を机に乗せた。


こんな暗い歴史のある町に来るとは誰も思わなかったでしょう。

いろんな考えが頭を駆け巡った。

でも、結局は過去のことだ。


幽霊や妖怪、噂…そんなものは本当に信じていない。

信じるということはそれが存在することを認めることになる。

そんな怖いことが本当にあるとは信じたくない。


一度それが現実になれば、いつか自分にも起こり得るかもしれない。

そんなことを考えたくなかった。


今日の出来事を考えながら、だんだんと眠気が襲ってきた。

突然、制服姿の人物が目の前に現れ、長い髪で顔を隠しながら、私をじっと見つめていた。疲れていたので、動くこともできなかった。

たぶん、私の想像が働いているだけだろう。


私は深い眠りに落ちた。

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