吉田守る

吉田守るにとって、それはただの普通の日だった。

28歳の音楽教師である彼は、同僚の野川義人のいたずらに慣れていた。

吉田がこの学校で働き始めた頃から、二人は友人だった。

最初は、吉田はただ礼儀正しく話を聞いていた。

しかし、野川は彼を見るたびに話しかけてくるのだった。


まるで野川は話をやめることができないかのようだった。

さらに悪いことに、彼が話すのは妖怪や霊、幽霊のことばかりだった。

彼は完全なゴーストオタクだった。最初は、吉田は礼儀正しくしようとした。

しかし、野川が話すにつれて、吉田はますます疲れ果てていった。


ある日のこと、野川が話している最中に、吉田は皮肉っぽい冗談を口にしてしまった。


「他に話し相手いないの?」と、冗談半分に言ったのだ。


口に出してすぐに吉田は不適切だったと後悔し、取り繕おうとした。野川は無表情で彼を見つめ、吉田は気まずくなった。


「やばい、怒ってるかな?」と吉田は思った。


野川の目に影が差したように見えたのだ。彼を怒らせたかもしれないと恐れた。


しかし、野川は意外にも明るい笑顔を見せ、

「俺は妖怪フォーラム協会の一員なんだ」と言った。


彼らは月に一度集まって、幽霊の話をしたり、心霊スポットを訪れたりしているという。この話に野川はまたしても熱中し始めた。


吉田はただぼんやりと彼を見つめた。それは予想外の反応だった。


「でも、吉田さんと話すのが好きなんだ。誰にも判断されずに話を聞いてもらえるのはいいことだよ。昔はみんなに変人扱いされたり、奇妙な目で見られたりしたけど、君はそんなことをしなかった。だから、君みたいな人が好きなんだ。」


吉田は恥ずかしくなり、目をそらした。


「そ、そうですか?」と口ごもった。


「俺の友達はいつも都市伝説や妖怪の話で熱くなるけど、君とは議論にならないから話しやすいんだよ。ハハハ!」と野川は陽気に笑った。


吉田は同僚へのわだかまりをすぐに捨て去った。


吉田が野川との過去を思い返しながら、飲み水を求めてシンクの方へ向かった。水を飲もうとした瞬間、顔に液体が落ちてきた。

教師の部屋で起きたことを思い出し、すぐに顔を拭ったが、それは水ではなかった。すぐにパニックに陥り、上を見上げた。


「おい!誰だ、そこにいるのか!今すぐ降りてこい!」


バルコニーには誰もいなかった。


一年生のいたずらにあったと感じ、気持ち悪くなった吉田は、顔を洗うためにシンクの水を出した。しかし、指を見てみると、唾ではなく血だった。


驚いて吉田は本能的にバルコニーを見上げた。

そこには、わずか数センチ離れたところに目があった。

魂のない目が、彼を冷たく見つめていた。


吉田は声にならない驚きをもらした。

それは理解できなかった。どうして真上から彼を見つめることができるのか?


彼は学校で一番背が高いのに、そのように見下ろすためには逆さまに吊り下がっていなければならない。それは物理的に不可能だった。


その瞬間、吉田はその目が子供のものであることに気づいた。

それは血の気の引くような冷たい感覚を伴うぞっとする姿だった。

ぬるぬるした髪が彼に触れ、不気味な冷たさを感じさせた。

子供の腐敗した肌は、触れるだけで崩れそうなほど脆く、骨が露わになっていた。


その子供は不気味な笑みを浮かべた。

腐った歯と紫色の歯茎が見え、腐敗臭が漂ってきた。

小さな湿った手で、その子供は吉田の頭を掴んだ。


遠くから、音楽教師のかすかな悲鳴が聞こえてくるだけだった。

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