第13話 勝負に負けた

「邪魔だ!」


 冒険者ギルドでキョロキョロしてた少年を勇者に蹴飛ばされた。


「ちょっと何するの!」


 少年の連れの少女が文句を言って睨む。


「お前、垢ぬけてないが。こういのを弄ぶのも、けっこう良いな。来いよ」

「きゃっ!」


 勇者が少女の腕を掴む。

 少女は抗うが、勇者の力に敵わない。


「やめろ。アニータに手を出すな!」


「弱いだけで生きてる価値なんかないんだよ」


 勇者が少年をボコボコに殴る蹴るする。


「ぐっ……」

「リック、しっかり!」


「ここでやるのも一興だな。はははっ、指を咥えて見てろ」


 これを見て見ぬふりをしたら、きっと俺は自分を許せない。


「やめてやれ」


 少女の服を剥ぎ取ろうとした勇者が振り返って俺を睨んだ。


『戦いの神:そうだ。戦いだ』

『鍛冶の神:ふむ、ちと厳しいかもな』

『愛の女神:そういう態度は好きですわ』

『試練の神:自分から試練をおのれに課すとは見上げた心だ』


 くっ、早まったか。

 楽勝というコメントではない。


「なんだ。誰かと思えば。おっさんか。ボコボコにして、またカツアゲしてやろう。高そうな装備を持っているな。寄越せよ。そして、口を噤んでいろ」

「ここじゃ不味いから、地下の修練場だ」

「ふん、恰好つけやがって。先に行くが、逃げたら、指名手配だぞ」


 勇者パーティが地下へ行く階段を降りて行った。


「大丈夫か? 今にうちに逃げろ」

「あぐっ、痛っ。ありがとうございます。でも、冒険者になれないと野垂れ死になんです」


 リックと呼ばれていた少年が痛い箇所を手で押さえて、そう言った。


「二人とも農村の出か?」

「はい」

「はい」


 二人の面倒をみてやるとは言えない状況が情けない。

 勇者と引き分けなら良いが、負けたら希望を持たせた分がっくりくる。


「俺が死んだら、他の職を探せ」

「いいえ、アニータを隠して、仇を取る機会を窺います」

「死ぬなんて縁起でもないです。勝って下さい」

「頑張るよ」


『戦いの神:戦いはやるまで判らん』

『鍛冶の神:神剣を与えただぞ。負けたら許さん』

『愛の女神:ここで何とか勝つのが、英雄ですわ』

『試練の神:お前が始めた試練だ。見届けてやろう』


 地下の修練場に降りる。


「弱いくせに、待たせやがって。【超身体強化】【思考加速】【聖剣】」


 勇者の体と剣が光り出す。

 これはやばそうだ。

 聖剣スキルと俺の神剣とどっちが強い?

 厳しいということは同格か?


 俺は神剣エクスザウスを抜いた。


「勝負だ!」


 俺は走って、神剣を打ち込んだ。

 勇者は俺の全力の一撃を軽く受け止めた。


「こんなものか? 遅いし、軽いし、隙だらけだ」


 勇者はそう言うと、鍔迫り合いから、力で強引に俺をはねのける。

 そして、後退った俺を何度も斬った。

 寒い。

 冷たさを感じた。


『戦いの神:勝負ありか』

『鍛冶の神:情けない奴だ』

『愛の女神:がっかりですわ』

『試練の神:試練失敗だな』


 血が噴き出して、血しぶきが霧になって、盛大に立ち込めた。

 慌てて無限ポーションを飲む。


「痛い! くそっ! 負けるか!」


 俺は仰向けに転がされて、剣の切っ先を首に押し付けられた。


「あーあ、弱いったらないな。手加減してやったのが判らないとは、弱すぎて憐れみさえ感じるな」


 そして、神剣を持っていた手を踏みにじられ、神剣を奪われた。

 手首が骨折したので、無限ポーションを飲む。


「何度も飲んだってことは、そのポーションも特注か? 無くならないらしいな」


 そして、頭に蹴りを入れられ、意識が飛ぶ。

 意識が戻って気が付いたら、神剣の鞘と無限ポーションを奪われていた。


『戦いの神:死ぬのか』

『鍛冶の神:神剣が本人以外に使えない仕様で良かったわい』

『愛の女神:これで終りですか。あっけない幕切れですわね』

『試練の神:いや、再チャレンジがありそうだぞ』


 勇者の後ろに歴戦の冒険者らしき人が立っているのが見えた。


「そこまでだ。殺しは許さん。いくら勇者と言えどもな」

「まあ、いっか。なんか良さそうな装備も貰ったしな」


『戦いの神:何度負けても、最後に勝つ奴が強いのだ』

『鍛冶の神:絶対に神剣は取り返せ。お前のために作ったのだからな』

『愛の女神:まだ、楽しめそうですわね』

『試練の神:チャレンジスピリットを使うのだな』


 勇者が去り、俺はよろよろとなんとか立ち上がった。


「庇って頂いてありがとうございます」

「ギルド規則だからな。揉め事を腕比べで決着を着けるのは良いが、殺しまではゆるさん」


 くそっ、レベルは下がってないが、振り出しだ。

 神剣と無限ポーションを盗られたのは痛すぎる。

 いいや、命があるだけましか。


「チャレンジスピリット!」


――――――――――――――――――――――――

レベルアップ+スキルゲットクエスト:

 激辛ラーメン完食。※良い子は真似しないでね。

 ラーメン代、一杯で銀貨1枚。

 挑戦時間3分。

 レッツチャレンジの言葉で開始。

――――――――――――――――――――――――


 口の中が切れてる今は無理。

 レベルアップとスキルはいくらあっても良いから、悪い景品ではない。

 激辛なら、今までのチャレンジより簡単な気がする。


 だが、そんなに簡単ではないのだろう。

 とにかく口の中の傷を治してからだ。


 階段を上がって、リックとアニータのカップルを探す。

 今日は逃げたか?

 それで良い。


「ヒデオさん、伝言があります」


 受付嬢から声を掛けられた。

 伝言の文面は「余計なお世話かも知れませんが、ギルドの教官を呼びました。勇者を避けて冒険者をなんとかやります。リック」とある。


 助けたつもりだったが、助けられた。

 情けないが、仕方ない。

 これが俺だ。


 助かったよとリックに伝言。

 さぁ、仕切り直しだ。

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