第5話 リラちゃんを助けて
ええと、何か良い依頼はないかな。
冒険者ギルドで依頼を物色する。
はっきり言ってゴブリンは怖い。
レベル5あれば負けないはずなんだが。
ゴブリンの巣穴からの救出というランクなしの依頼が目に留まった。
依頼料、銀貨3枚と大銅貨8枚と銅貨4枚。
物凄く安い。
でも、端数があるってことは、あり金をかき集めたんだなと思う。
「誰か僕の依頼を受けて! リラちゃんを助けて!」
子供が叫んでる。
あー、何となく分かった。
この安い救出依頼はあの子供のだ。
親はどうしたんだ。
金をもっと出せばやってくれる人間もいるだろう。
誰も子供の方を見ない。
くそっ、誰か受けてやれよ。
可哀想で見ちゃいられない。
ああ、俺はクズだな。
誰かがやれよと考えている。
なんで俺がやるという選択肢がないのか。
「ええと、情報を買いたい。ゴブリンの巣穴に入って生還するためのレベルはいくつか」
「情報料は大銅貨1枚ですね」
「ではこれで」
大銅貨1枚を財布から出してカウンターの上に置いた。
大銅貨はくすんだ色をしている。
まるで俺の心みたいだ。
「戦闘用のスキルなしですとレベル20でもギリギリですね。25はないと厳しいでしょう。戦闘用スキルがあれば20あれば余裕です」
「ありがとう」
「あの子供の依頼を受けるのですか。推奨ランクはCランクですよ。あなたEランクですよね」
「受けられるなら受けてやりたい」
「やめた方が良いですよとも、是非にとも言えないのがつらいです」
「分かるよ。みんなそう思っている」
「Cランクの人も生活がありますから、あの金額では受けられません」
糞だな。
何もかもが糞だ。
既に諦めている俺がいる。
くそっ、やる前から諦めてどうするんだ。
チャレンジスピリットがあるじゃないか。
5ずつ上がるとしてあと4回。
命に比べたら軽い軽い。
じゃあやれよ。
ほら、チャレンジスピリットと呟け。
あの鼻スパの悪夢が甦る。
あれはつらかった。
もう一度やれと言われてもやりたくない。
クエスト見てから考えたって良い。
無理そうなら諦める。
それぐらいは良いだろう。
無理やり心を納得させた。
「チャレンジスピリット」
――――――――――――――――――――――――
レベルアップクエスト:
熱湯風呂に1分間入れ。※良い子は真似しないでね。
挑戦時間無制限。
レッツチャレンジの言葉で開始。
――――――――――――――――――――――――
くそっ、かなり熱いんだろうな。
玩具扱いだろうから、死ぬことはないと思いたい。
俺は声を張り上げている子供のそばに行った。
子供が俺を見上げて顔を真っ直ぐに見る。
「リラちゃんの親はお金を出してくれないのか?」
「うん、リラちゃんの本当のお母さんは死んじゃって、今のお母さんはリラちゃんが嫌いなんだ」
ええと後妻が前妻の子に嫌がらせか。
よくあることだな。
吐き気がするが。
「お兄さん、君の依頼を受けれるかも知れない。少し待っててくれ」
「そんなことを言って、きっと駄目なんだ」
ああ、かも知れないなんて何で言ったんだ。
でも必ずとは言えない。
くそっ、言えよ。
絶対に必ずって。
「ごめん、冒険に絶対はないから、絶対とは言えない。でもやれるだけやってみる」
「うん、ありがとう」
くそっ、何で言い訳して保険を掛けているんだ。
俺の馬鹿野郎。
「何時間も待たせない。それは約束する。駄目ならはっきり言う」
糞だ。
糞な俺。
子供の顔を見たくなくて、その場から足早に立ち去った。
熱湯風呂の場所は宿の裏庭にしよう。
あそこなら誰にも見られない。
浮浪児に会いに行く。
熱湯風呂で死ぬかも知れないからな。
「あっ、鼻スパのお兄ちゃん」
「今日のお仕事で手伝えることはある?」
「いまのところないかな」
浮浪児に癒される。
ゴブリンの巣穴を全滅させたら、かなり儲かるだろうな。
魔石だけでもウハウハに違いない。
それにゴブリンはお宝を貯め込むと聞いた。
金貨1枚ぐらい行くかも知れない。
そうだこうやって明るいことを考えよう。
浮浪児に豪勢な食事をおごれる。
きっと喜ぶぞ。
武装も何か整えたりして。
剣とか恰好良いかもな。
強くなれば勇者に復讐できる。
コテンパンにできるぐらいになれば、うっぷんも晴れる。
良い事しかない。
たかが1分だ。
次のクエストは何か分からないが、1つずつ。
次にポーション屋に行くと、棚には色とりどりのポーションが並んでた。
「全身火傷に効くポーションはある?」
「それですと上級ポーションですね。金貨5枚からです」
「冷やかしですみません。お金を貯めてまた来ます」
くっ、金が。
勇者の野郎がカツアゲしなければポーションも買えてたのに。
勇者許すまじ。
来たくはなかったが。
宿に帰ってきてしまった。
「女将さん、裏庭で風呂に入りたい」
「遠慮なく使っておくれ」
宿の裏口から裏庭に出る。
シーツなどの洗濯物がたくさん干してあった。
塀があるので覗かれることはなさそう。
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