第4話 スライム

 浮浪児の案内で下水道の入口に到着。

 意を決して中に入る。

 中は光る苔で明るい。

 この苔を植える依頼もある。


 くさいが我慢だ。

 下水道の水からスライムがのそのそと出て来た。

 動きは鈍い。

 体の表面が波打つと、触手が飛んできた。

 木の棒で払う。

 木の棒から白煙が上がる。


 くそっ、意を決し近づいて、棒を打ち込む。

 スライムは破裂した。

 青い石を残したので水を掛けてから拾う。

 これが魔石か。

 宝石みたいだな。


 銅貨5枚なり。

 レベルの恩恵はすさまじい。

 動体視力も上がっているようだ。


 次は3匹上がってきた。

 途切れることなく打ち出される触手。

 木の棒で捌く。

 途中から追尾する能力はないらしい。

 打ち出された触手の向きを少し変えてやるだけで問題はない。


 なんとなく。

 ヒーローになった気分だ。

 実際は、ちょっと鍛えた一般人ぐらいだけど。


 3匹同時も難なくこなせた。


 うおっ、今度は7匹。

 一体、何匹いるんだ。

 7匹はきついかな。


「そい、そいっ」


 木の棒で触手を落とす。

 うん途切れないから近寄れない。

 石が落ちていたので投げる。


「ストライク」


 スライムの体に穴が開いて死んだ。


 何だ。

 石を投げれば簡単だな。


 石を次々に投げる。

 5匹になったので、近づいて棒で叩く。


 うん、石が欲しいな。

 一旦外に出る。


「握り拳ぐらいの石が欲しい」

「うん、分かった」


 浮浪児が探してきてくれる。

 すぐに石は集まった。

 袋まで持ってきてくれるとは至れり尽くせりだな。

 再チャレンジ。


 そして、触手に打たれることもなく、20匹仕留めた。


 どんどん行くぞ。

 水の補給も浮浪児がやってくれた。

 井戸で汲んだ水を桶に入れて、下水道の入口まで持ってきてくれた。

 桶は俺が渡した金で手に入れたらしい。


 慣れて来て、1時間ほどで100匹は仕留めた。

 銀貨5枚の儲けか。


「ステータスオープン」


――――――――――――――――――――――――

名前:ヒデオ

レベル:5

魔力:526/526

スキル:

 チャレンジスピリット

――――――――――――――――――――――――


 あんなに倒したのにレベルが上がってない。

 エリーから聞いているので分かっている。

 レベル3を超えるとスライムではレベルが上がらない。


 あと100匹ぐらい仕留めたら終わろう。

 最初から2時間ほどで仕事は終わった。


 冒険者ギルドに行く前に、井戸で水を汲み、体を洗う。

 そして服を洗った。

 まだくさいが仕方ない。


 冒険者ギルドに到着。

 カウンターに依頼書とスライムの魔石を出した。


「ランクアップできますがどうします」

「ええとFランクの依頼は受けられなくなるのかな」

「いいえひとつ下までなら受けられます」

「じゃあ、ランクアップを」


 大銀貨1枚と銅貨がいくつかの儲けになった。

 大銀貨は銀貨10枚で貰った。


 依頼の掲示板を見るとスライムの常時依頼の駆除がなくなってた。

 俺はやり過ぎたのかな。

 またスライムの数は増えるだろう。

 エリーによれば1週間で元通りらしい。


 銀貨4枚と銅貨を明日の宿代と昼飯代に取っておいて、残りを浮浪児に渡す。


 なんか人数が11人に増えてた。

 ええとまあ仕方ない。


「ありがと」

「これで、ごはん一杯食べる」

「何日か生き延びられる」

「鼻スパのお兄さんは良い人」

「将来、結婚してあげるね」

「明日も来る?」


「おう、来るぞ」


 できれば浮浪児に仕事を与えたい。

 そうすれば俺に何かあっても、暮らしていける。

 魔法かな。

 魔法スキルは訓練しても生えるけど、魔導書を使えば会得できる。

 だが一番安いので、金貨1枚の使い捨てなんだよな。


 金か。

 レベルアップすれば容易いのか。

 やるしかないと分かればチャレンジスピリットのクエストも辛くない。

 いや、辛い。


 やりたくない。

 浮浪児の期待のこもった目。

 分かったよ。

 やれば良いんだろう。


 国連機関のやせ細った子供が出てるCMとか、満足に3食食べれませんとかのCMみても何も思わなかった。

 まあ可哀想だなとは思ったけど、画面を通してだとなぜかリアリティがない。

 だが、直に見てしまったら駄目だ。

 この現実を無視することなど出来ない。


 俺は良い人でも何でもない。

 現実を直視できないクズだ。

 助け合いの募金箱に金を入れたことも、災害の義援金を送ったこともない。

 だらだらしてパチンコで遊ぶ金があってもな。


 きっと日本にいなくても大丈夫だという基準で俺が選ばれたんだろうな。

 玩具にしても問題ないと思われたに違いない。


 日本に帰れたら善行しよう。

 一日10円でも良い。

 収益を寄付として送っているという食品を買っても良い。

 まあ、現状無理だけど。


 あー、嫌になる。

 次のモンスターのゴブリンを討伐する度胸もない。

 一週間切り詰めて過ごして、またスライムを狩れば良いやという考えが頭をもたげる。

 でもそれじゃ駄目だ。

 何も変わらない。


 でも、チャレンジスピリットの一言が言えない。

 言うと無理難題が提示される。

 逃げたら一生クエストの表示が消えない。

 敗者の烙印を一生見るのはつらい。


 だから、チャレンジスピリットの一言が言えないんだ。

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