第2話 チャレンジスピリット

「知識伝授の依頼人のヒデオさん?」

「そうだ」


「私はエリー。記憶喪失なんだって」

「まあそんなところ」

「ステータスの出し方は覚えている?」

「おう」


 ステータスに関する知識を教わった。


「ステータスオープン」


――――――――――――――――――――――――

名前:ヒデオ

ジョブ:凡人

レベル:1

魔力:105/105

スキル:

 チャレンジスピリット

――――――――――――――――――――――――


 ステータスは他人には見えないらしい。

 鑑定スキルとかあれば別だがということだが。


「どう?」

「ええとレベル1でチャレンジスピリットのスキルがある」

「ごめん。そのスキルは知らない。大抵のスキルは知っているはずなのに。依頼を減額しても良いよ」

「いや、別にいい」


「スキルは使ってみるしかないわね」

「やってみるか。チャレンジスピリット」


――――――――――――――――――――――――

レベルアップクエスト:

 鼻からスパゲッティを食え。※良い子は真似しないでね。

 挑戦時間無制限。

 スパゲッティ代、一皿で銀貨1枚。

 レッツチャレンジの言葉で開始。

――――――――――――――――――――――――


 ええと、鼻からスパゲッティを食うとレベルアップするのか。

 はっきり言って、やりたくないんだけど。


「どう?」

「クエストが出た」

「クエスト型のスキルなんて珍しいわね。まるでおとぎ話の英雄みたい」


 俺のはそんな格好の良いものじゃない。

 鼻からスパゲッティだぞ。

 ある意味英雄だけど、こんな英雄は嫌だ。


「レベルを上げるのは普通どうするんだ?」

「モンスターとの戦闘で上がるわ。レベル1だとスライム駆除ね。けっこう強敵よ。お金があれば駆除剤を掛けて簡単だけど」


 スライムの恐ろしさを説明された。

 触れた物を溶かすらしい。

 少なくても武器無しで挑むモンスターではない。

 駆除剤は高い。

 1個が1000と書かれた大銀貨1枚だ。

 これを3つぐらい買わないとレベル2にはならない。

 レベル3になるのはもっと駆除剤が要る。


 駆除剤が買えない人は、ゴブリンに挑むらしい。

 こっちは人型だから、やりようによっては素手でも倒せる。

 だが、武術を習ってない人が素手で殺すのは難しいらしい。


 農村から出て来た口減らしの子供の半数は、ゴブリンに挑戦して死ぬらしい。

 オラウータンと格闘して勝てるかと言ったところか。


 無理。

 泣きたくなってきた。


 くそっ、クエストの表示が消えない。

 やれよと催促されているみたいだ。

 失敗しても、スパゲッティは食える。

 銀貨1枚は損ではない。


 とりあえず、冒険者としての駆け出しが知っている知識は教わった。

 さあスキルのクエストをやるべきか、普通の依頼をやるべきか。


 依頼掲示板を見る。

 薬草採取なんか無理。


 生活依頼はない。

 朝いちで来ないと駄目みたいだ。


 討伐なんてもってのほか。

 とりあえず、依頼の受け方も分かったし、必要最低限のことは分かった。

 宿に帰り、夕飯を食べる。

 パンとウインナーとシチュウの定食はまずまずの味だった。


 部屋でベッドに横たわる。

 くそっ、俺が何をした。

 異世界に連れて来た神様に文句を言いたい。

 言いたいが、きっと日本で暮らしていても、ろくなことにはなってなかった。

 鼻からスパゲッティを食えば全て解決するんだぜ。

 楽と言えば楽。

 うん、明日になったら考えよう。


 疲れていたのかぐっすりと眠って起きた。

 体が痒いのがちょっとだ。

 ここは安宿だとエリーに相場を聞いた

 仕方ない。

 朝食はスープと野菜炒めとパンだった。


 スパゲッティが銀貨1枚だから、ここの食事はその半分。

 コスパは良いな。

 ただ痒いのは嫌だ。


 脱却するならクエストやるしかないだろう。

 でないと生き残れない。


「ここの食堂は持ち込みあり?」

「宿泊客ならね」

「じゃあ今日の分」

「大銀貨1枚だから、お釣りは銀貨6枚ね」


 さあ、チャレンジするぞ。

 お昼ご飯時、宿屋の食堂のテーブルに着く。


「レッツチャレンジ」


 ナポリタンスパゲッティの大盛りと、割り箸が現れた。

 これ全部、鼻から食えと言うんじゃないだろうな。

 とにかくやるだけだ。


「見慣れない料理だね。少しもらっていいかい」

「ええ」


 これで失敗扱いされれば。

 そんなことを考えた。


 女将さんがフォークでスパゲッティを食べる。


「美味しいよ。これうちでも出したいね。材料は?」


 失敗扱いにならなかった。

 くそっ、是が非でもやらせたいらしい。


「ここらじゃ手に入らないと思うよ」

「そうかい。ところで、食わないのかい」


 ええい、ままよ。

 スパゲッティの1本を箸で摘まんで鼻の穴の中に入れる。

 鼻の中に充満した匂いはケチャップと胡椒だ。


「ぐっ、ぐぉ、痛い。無理だ」

「あんた、鼻から食えるとなぜ思ったんだい」

「ずーずー、ぐしゅ。スキルがやれって言うんだ」

「可哀想にね。あんたみたいな人を何人もみたよ。頭を強く殴られたんだね」


 くそっ、辞めるか。

 だが、クエストの表示は消えてない。


『がはは、本当にやりやがった』

『可哀想ですわ。もっとおやりなさい』

『人間観察はこれだからやめられない』

『我ながら、チャレンジスピリットスキルはナイスアイデアだぜ』


 くそっ、神か。

 笑いやがって。

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