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 三日後、また同じ夢を見た。ナイフを抽斗に仕舞うところまで、寸分たがわずに進み、ああ、晴恵はもういないんだなと確認するのだが、その日は、そこで目が覚めなかった。

 抽斗に仕舞ったナイフを、再び取り出すと、無雑作にポケットにそれを放り込むように入れて、家の外に出た。昼間の太陽が、やけにぼんやりと浮かんでいて、ああ月のようなだと感じたのを覚えている。人通りの少ない通りを足早に歩いていき、額に少しだけ汗が滲むころ、最寄りの駅に着いた。

 さあ、電車に乗って、出かけるぞと思っているのだが、一体、どこへ行こうとしているのか知れない。ホームに突っ立っている黒瀬を尻目に、次々と乗客が電車に乗り込んでいく。

 黒瀬は、しばらくの間、そんな人混みをぼうっと、眺めている。

 ああ、そういえば、ズボンのポケットにナイフがあるのだった、と思い返し、ポケットの上からまさぐるようにして、ナイフの所在を確認する。ふにゃふにゃとした、およそナイフらしからぬ物体の感触を右手に感じ、ああ、こんなナイフじゃ、人を刺すことさえ難しいな、と思っていると、いつの間にか夢から覚めていた。

 夢から覚めたときには、すでに朝で、窓の外で雀が平和に囀っていた。黒瀬の心は、それに比して、暗澹としたもので、雀が織りなす平和な世界に殺意さえ感じた。

 起きるのもおっくうだが、起き上がって、朝飯を作り、出勤しなければならなかった。妻のいない生活に何の意味があるのかと、勝手に憤ったが、日常は絶え間なくやってくるものだ。妻がいようが、いまいが。

 黒瀬は、いつの間にか、泣いていた。

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