2
殺風景な一軒家に、黒瀬行弘は、一人で住んでいる。年季の入った家具は、打ち捨てられた遺物のように、ただ、そこここにあるだけだ。整理整頓をし、箪笥に衣類を丁寧にしまっていくのは妻の仕事だった。妻がいなくなってから、彼が箪笥に触れたことは、一切なかった。
服など、どうでもよいのだから、いつも同じような服ばかり着るようになる。妻がいたときには、妻が用意してくれた服を着ていた。ぴっちりとアイロンのかかった衣服は、着ていて、とても気持ちのよいものだった。もちろん、一人になってからは、アイロンなどかけたことは、彼にはなかった。
二人の子供は、すでに結婚をしていて、それぞれの家庭を持っている。だから、妻がいなくなれば、この一軒家には、黒瀬一人が残されることとなる。
仕方のないことだった。昼間、仕事に出ている間、妻の世話をする人間が必要だった。その役目を、行弘の母が引き受けてくれたのだった。どちらにしろ、晴恵とともに生活していくことに、行弘自身が限界を感じていたのだった。
あの日、妻の寝室に入ったときの、あの目は、いまも忘れられない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます