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 殺風景な一軒家に、黒瀬行弘は、一人で住んでいる。年季の入った家具は、打ち捨てられた遺物のように、ただ、そこここにあるだけだ。整理整頓をし、箪笥に衣類を丁寧にしまっていくのは妻の仕事だった。妻がいなくなってから、彼が箪笥に触れたことは、一切なかった。

 服など、どうでもよいのだから、いつも同じような服ばかり着るようになる。妻がいたときには、妻が用意してくれた服を着ていた。ぴっちりとアイロンのかかった衣服は、着ていて、とても気持ちのよいものだった。もちろん、一人になってからは、アイロンなどかけたことは、彼にはなかった。

 二人の子供は、すでに結婚をしていて、それぞれの家庭を持っている。だから、妻がいなくなれば、この一軒家には、黒瀬一人が残されることとなる。

 仕方のないことだった。昼間、仕事に出ている間、妻の世話をする人間が必要だった。その役目を、行弘の母が引き受けてくれたのだった。どちらにしろ、晴恵とともに生活していくことに、行弘自身が限界を感じていたのだった。


 あの日、妻の寝室に入ったときの、あの目は、いまも忘れられない。

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