夢の中のナイフ

黒木 夜羽

1

 黒瀬行弘が、その男から、ナイフを受け取ったのは、その日が最初だった。アンティーク風のごくありふれたナイフだったが、一つだけ奇妙な特徴があった。刃渡り15センチほどの、その刃が柔らかいのである。ふにゃふにゃなのだ。こんな柔らかい刃では、人を刺すことなどできないなと、どこか暗澹たる気持ちでナイフを弄んでいると、夢から覚めていたのだった。それが、一か月前の十一月一日のことだった。


 男の風貌は、はじめよく見えなかった。目深に帽子を被っていて、薄気味悪いな、という印象だけを持ったのを覚えている。

 が、二回目に男からナイフを受け取ったとき、ちらっと男の表情が見えたのだった。それは、どこか陶器を思わせるような顔だった。人形かと思えるほどに美しい肌は、太陽に照らされていないのに、輝いているかのようだった。それでいて、男から感じるのは、真逆のものだった。

 闇だ。

 まるで、闇に覗かれているような・・・・・・。

 心の、底の底を見透かされているような・・・・・・。

 その、圧迫感に耐えられず、黒瀬は、夢から覚めたのだった。

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