スミレとモシュネ


 その後、2人は時計塔に戻ってきた。その頃には、2人はすっかり打ち解けて、リアーナはスミレに大層懐いてしまった。そしてスミレも、リアーナの明るさに好意的だった。


「母さま、父さま。戻ったよ〜」


 呑気なリアーナの声が響き渡る。

 そしてきた当初と違う所。それはリアーナがスミレの隣に座ったことだ。その様子を見て、モシュネとエドゥアルトはやっぱり、と言う顔をしていた。


「おかえりなさい。さ、今後の動向について続きを話し合いましょう」


 モシュネとエドゥアルトの雰囲気は、最初よりも幾分か柔らかくなってきたが眉間の皺はまだ少しだけ残っている。リアーナはハラハラしていたが、案外大丈夫そうだ。


「スミレさん。まずは貴女の意見を聞くべきだったわ。あなたはどうしたい?お願い、本心で答えて」


「あの、ずっと隠していたんですけど私……試練に敗れてしまったんです。どうしても、見たくない事を夢だとしてもこの目で見たことに逃げ出してしまいました。……でも、私、生きていて何をしたらいいんだろうってずっと考えていました。その、身体も弱く使える魔法も使えなくて、ようやく私も役目をもらえるのかと思えばこのお話はとても嬉しかったんです」


 スミレは目の中に大きな太い柱を宿した目でモシュネとエドゥアルトをまっすぐに見つめていた。話を聞いたモシュネとエドゥアルトは大きく目を見開いた。


「今まで書庫を守って居てくれた方の2人を、早く元の生活に返したいんです。正式な番人が誕生すれば、あの2人も元の生活に戻れるんですよね?」


「えぇ。確かに戻れる可能性は高い。それに、貴女のこれまでの体調不良は、書庫に魔力を吸収されていたからと言う可能性もでているわ。……今魔力を担っている人はあなたが番人になる事には反対しているのよね?もう1人は?」


「代理の番人の方は、賛成しています」


「ほんっとうに頭が痛くなるわね……」


 スミレの返答にモシュネは頭を抱えていた。

 

「……でも、問題は試練だよね?」


「そうね。それに関しても、また追々話し合いましょう。……その前にこちらで、一度確かめることがあります」


 ✴︎ ✴︎ ✴︎


 会議が終わったあと、エドゥアルトはリアーナを書庫に送リ届けるためにそとへ。スミレとモシュネは時計塔に2人、残っていた。モシュネはスミレに紅茶を入れて、提供した。この一連の行為に、モシュネは賭けていた。


 (この味がわかれば、空奏の書庫に今関わっているのかが分かる)


「あ、この味……」


「やはりね。代理の番人の入れる味と同じでしょう?」


「モシュネさんは、もしかして……」


「えぇ、どちらとも親しい間柄なの。……もうそろそろ、2人が書庫に溜め込んでいる魔力がおそらく尽きる。いくらあの2人が頑張っているとはいえ、50年が限界だわ。特に、レディ・Leeについては」


 そう、モシュネはすでに亡霊騒ぎの発端から現在までの経緯を全て知っているのだ。なんたって、彼女は空奏の番人と、今書庫に囚われている人物とは大の友達なのだ。彼女と当事者だけが、全ての真相を知っていると言っても過言ではなかった。

 レディ・Leeというのは、その友達である彼女の通り名だった。


「出先で代理の番人と知り合って、しばらく経ってからレディ・Leeさんに初めて夢であったんです。その時から彼女は夢で亡霊と戦っていました。その時から既に亡霊は数体いたのですが、段々と量を増していって……私も一緒に戦っていたのですが、2人では手に負えなくなってしまい。Leeさんの身体は、日を追うごとに傷が増えていって亡霊がだんだん増えていることがわかりました。その時、限界が近づいていることに察した代理の番人と共に、私の夢の中に入ったんです。代理の番人の方から書庫の番人に私が適性がある事を伝えられたんです」


「夢に入る……?あなたは夢を渡る力があるのね」


 モシュネはスミレにそこまでの力がある事に驚いた。前番人もその力を巧みに使いこなしていた。その力を使いこなすのはとても難しく、力に使われて魔力暴走を起こす者も過去にいたのだ。


 (どうする。このまま泳がせるか)


 スミレに特別な力だということを教えるか、モシュネは迷った。夢を渡るということが、どういことかを彼女は知らない。それが恐ろしい力だということに気がついていない。軽率に他人に話したら、その力をこの大陸中の人が目をつけるだろう。そして、このように特別な魔法が使える人は限られている。モシュネを含めリアーナなど。その力は隠さなければならない。


「その魔法が使えることは、言っちゃダメよ。……それと、レディ・Leeがあなたが番人になることは反対しているのも分かる。だから一度、私もその夢とやらに連れていってくれる?」


 モシュネも耐えられなかった。はやく、はやく。焦る気持ちをどうにか抑えて、ゆっくりと、ゆっくりと確実に進めていかなければいけないのだから。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る