シルヴィアの懸念

シルヴィアはコツコツと、彼女を表現するような鋭い音を立てながら学級王国の大理石の廊下を歩いていた。

 そして前からはシャカシャカと忙しない足音がする。

 シルヴィアは足音を聞くだけで誰かわかった。十中八九、リアーナの件をこいつはいまから聞いてくると。


「シルヴィア先生、星導騎士団の任務。、あれは本当ですか?」


 溌剌とした話し方、ほんの少し乾いた少し低い声が耳に響く。シルヴィアはこの女の声を聞くのがうんざりだった。

 彼女はリアーナの事をこれでもかというほど気にかけているし、リアーナも彼女のことを慕っている。だからなんでも彼女には騎士団の情報は筒抜けになるのだ。


「あぁ、気が付かなかったよ。ロッシュグレイシア殿。亡霊の件かな?本当に決まっているじゃないか」


 シルヴィアは自分の黒い切れ長の目を若干釣り上げながらそう返す。わかっていることをいちいち聞いてこないでほしい。


「そうですか。あれ以上、リアーナを書庫に関わらせるのは、やめた方がいいかもしれません」


「ふん。関わらせるだって?番人なんだから関わるのが当たり前だろう」


「そうですね。しかし、亡霊騒ぎに関しては、あまり関与させない方がよいかと。リアーナが両親達が今どうなっているか気がついたらどうするんですか」


 ロッシュグレイシアの茶色い瞳の強い意志が関わっている。この時、シルヴィアは確信した。やはり、こいつは書庫に何が起きているか、そして今がどのような状況なのかを、おそらく全て知っている。


「そうか。お前は全てを知っていて黙っているわけだ。リアーナがずっと両親を探しているにも関わらず、何も教えていない。今あいつらがどんな状態なのか、教えてやったらどうだ?」


「黙りなさい!」


 シュンと機敏な音を立て、シルヴィアの喉元にロッシュグレイシアの高価な木製の杖が突きつけられる。シルヴィアは降参するかのように、両手を上にあげて、面倒くさそうにする。


「君、普段はおおらかなのに珍しいねぇ」


「リアーナが知ってしまったら……」


「知らない方がまずいだろう。リスクばかり見ていたら、彼女はこの先、死ぬまで真相に辿り着けない。だからこそ気がつかせるんだ」


 何を思ったのか、ロッシュグレイシアは杖を下ろし、シルヴィアよりほんの少し背が低いロッシュグレイシアは、大きなアーモンド型の目でキッとシルヴィアから目を逸らさなかった。


「当事者のリアーナだけが何も知らないんだ。そんなのはおかしいと思わないか?」


 シルヴィアはもう一度問いかける。

 ロッシュグレイシアは考えこんだ様子をみせて、そして杖を下ろした。


「リアーナには私からも気をつけるように伝えます。あなたも、適切な指導をお願いしますね」


 そう言ってロッシュグレイシアはシルヴィアの横を通り過ぎていった。


 (目力やっっば)


 ロッシュグレイシアとは、この学級王国の教師として一緒になってかなりの時間が経っている。

 それこそ、学生の時は同級生として様々な冒険をしていたのに、今は2人とも教壇に立っているのがシルヴィアは不思議だった。学生のライバルではないけれど、教師と切磋琢磨できるのが楽しいし、満足もしているが、リアーナに関してはどうもすれ違う。

 シルヴィアはリアーナの心配を主にしているが、ロッシュグレイシアは違う。


 (あいつは絶対に、母親の方の心配をし出るはずだ)


 リアーナの母親もロッシュグレイシアの教え子だ。リアーナの母もロッシュグレイシアに大層懐いており、交流は行方がしれなくなるまでずっと続いていたはずだ。


 (めんどくせぇことにならないといいが)


 教員室に入ったシルヴィアは大きなため息を吐いて、キャンディを口に放り込んだのだった。

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