さよならぼっち生活……!?
ここリベール王国には4つの禁書庫がある。
人々が見た夢や理想が描かれた本が詰まっている「空奏の書庫」
真実のみが書かれた本が詰まっている「記憶の書庫」
王室にて管理されている、謎に包まれている「生者の書庫」
それから、亡くなってしまった人々の記憶と、想いが溢れる「静者の書庫」
これだけだと聞こえはいいが、これらの禁書庫には、隠された歴史、そして曰く付きの蔵書達・亡霊禁書が何冊も封印されている。
ある所ではこんな言い伝えがあった。
「本は記憶を持っている。伝記は写された人の歴史と心を封印している。ある条件を満たすと本から写された記憶が亡霊として、その本に描かれている者たちが現れ出でる」
そして7年前、リベール王国女王が攻撃を受けた時、女王を守るかのように、いくつかの禁書が暴走したらしい。
✴︎✴︎✴︎
リアーナは学校が終わり、急いで支度をして空間転移魔法を利用して建物の屋根から屋根を飛び回り書庫へと帰る。
(それにしても、あんな朝から話したいことがあるだなんてどうしたんだろう)
あれこれと考えながら、リアーナは書庫の入り口である
そして内部の時計盤の真裏に
ふんわりと足元の感覚が覚束なくなり、次の瞬間にはしっかりとした足の感覚が戻ってくる。
そして目を開けると、時計台の中まで入れたことがわかる。
頭上には数多の歯車がチクタク、カチカチと音を鳴らしていて、真上に吊るされている大きな鐘からちらほら埃が落ちてきている。
「そろそろ禁書庫司書会議でお掃除しませんかって相談した方がいいかな……すごく汚いし。それに、司書達も
金書庫司書会議、というのは名ばかりで、実際は手紙で本達に異常がないかという報告をするだけだった。
時計台の内部、そして中心部。
リアーナは司書の印であり静者の書庫への入り口でもある六等星のネックレスを服の中から取り出して、ネックレスを持ち、右手で垂らすように持つ。
背筋をしゃんと伸ばし、左手を胸に当て声高に唱える。
「全ての静寂の中に埋もれし勇者達よ。書庫の守り人、リアーナ・ローズブレイド。静者の書庫に導きたまえ」
すると、リアーナの身体が浮かび、周りに色とりどりの光のオーブが生まれる。そのオーブ達はリアーナの周りを踊る様に周りに、それらが弾けると同時にリアーナは地に足がつく様な感覚を感じる。
✴︎✴︎✴︎
着いたのは静者の書庫の生活部屋の入り口だ
ここの初代番人は、非常に人前に出るのが苦手だったらしく、その時はここ《静者の書庫》から出ずに生活していた時期もあるとエドゥアルトから聞いていた。
本棚の目前カーブされている廊下を渡り、入り口を開けてリビングを突っ切って応接間へ入る。
「あっピューレいた。リビングに行ったら誰もいなくてびっくりしちゃった」
「おかえりなさい。いつ白髪頭が来てもいいように掃除しておいたわ……早速来たみたいよ」
そう言って生活エリア玄関の扉を見ていると、ちょうどドアノッカーを叩かれる。ピューレの魔力探知は有能なのだ。
「はーい!今出ます!」
リアーナは扉を開けて、エドゥアルトとクラーク夫人を招き入れ、応接間のソファに2人並んで座らせる。そして、その向かいにリアーナが腰掛ける。
「こんにちは、クラーク司書様。そして夫人。応接間へどうぞ」
「こんにちは。お邪魔しますよ。ローズブレイド司書嬢」
リアーナはエドゥアルトに紅茶を。クラーク夫人にはミルクティーを用意する。そして自分にはオレンジジュースを。
「おやおや、ローズブレイド嬢。まだそんなお子様味覚なのですか?」
「こら、エド。そんなこと言わないの」
エドゥアルトはリアーナの飲むオレンジのドリンクを見て揶揄ったが、妻に滅法弱いエドゥアルトはクラーク夫人の注意を受けて少ししゅんとする。クラーク夫人とは、エドゥアルトの妻でありリアーナの代わりの母であるモシュネ・クラークは、非常に容姿端麗である。キリッとした瞳に、細身の身体。いつも後ろで纏められているブロンドの髪はつやつやで、少し骨ばった手で撫でられる事が大好きだった。
「一体今日は何用で……」
リアーナはエドゥアルトに問う。
「まずは、亡霊騒ぎの件からいきましょう。あれは私達番人の仕事ですからねぇ。共有は大事でしょう?」
そういって、リアーナは昨日あったことを細やかにはなす。エドゥアルトはなんとも言えない神妙な顔つきをしていた。
「やはり書庫の番人だけでは人手が足りなくなっている。最近は亡霊の数も増え、我々の手に負えません」
「そうですね。一日2件程は必ずどこかしらから報告がきますから」
「まぁ、こちらで人手はなんとかします。次からが本題ですよ」
そして、エドゥアルトはいかにも芝居がかった様子でこう言ったのだ。
「あなたに魔法を鍛えてほしい」
「なん?」
「だから、魔法を鍛えてほしいと言う人がいるんです」
とうとう耳までイカれてしまったのですか?というエドワードにリアーナは追いつかない頭をフル回転させる。
(私に魔法を教わりたい?こんな世間では目立たない地味な静者の書庫の番人に?)
「ロ……ど……ローズ…………嬢!ローズブレイド嬢!!」
「あっ……」
「何ぼさっとしているんですか。言っておきますが、貴方に教示してもらいたいと言っている人は普通の人ですから。その辺はどうぞどうぞご安心ください」
なんて胡散臭い言い方をされてもリアーナは信じられない。
この男、なんでも偶に面倒ごとを押し付けてきたりするのだ。
「リアーナ、私からも是非お願いしたいの。相手の方も悪い人じゃないのよ。貴女さえ良ければ是非教えてあげてくれないかしら?」
「うっ母さまに言われたら、私断れないの知ってるでしょ!」
実はリアーナは、モシュネにはとてもよくしてもらっているのだ。モシュネは実の母の親友なのだ。
それもあり、リアーナはどうしてもお願いされたら断れない。
出来る限りモシュネのご要望は叶えたいのだ。
「わ、わかりました。クラーク夫人が言うのなら是非そのご依頼、受けさせて頂きます」
「ハッハッハ。ありがとうございます。ローズブレイド殿。では、詳細はまた追ってご連絡しますので」
まぁこれも何かの縁だ。と信じて、この依頼は受けることにしようとリアーナは思い込み、どんな人が来るんだろうと緊張するのであった。
✴︎✴︎✴︎
その後も多岐にわたって話し合いが続き、終わった後は家族揃って食卓を囲んでいた。今度の席は、リアーナとモシュネが隣り合って座り、リアーナの向かい側にエドゥアルトが座っている。
モシュネの作るディナーはもうそれはそれは美味しい。
この家族は毎日朝ごはんをリアーナとエドゥアルトがリアーナのお弁当はモシュネが。そして夜はモシュネが担当していた。
「母さま母さま!ね聞いて!この間ロッシュグレイシア先生が……!」
「もう、また先生の話?」
久々の家族団欒は楽しいひと時だった。
リアーナは
エドゥアルトは生活の心配事と、最近あったさまざまなことについてと、今度家族でおでかけする予定の話を。
エドゥアルトはモシュネの作るディナーを、美麗な顔には不相応なほどに頬張り、満面の笑顔でバクバクと胃に流し込んでいる。
2人はいつも笑顔で食事をしてくれるので、モシュネの料理の腕はガンガンに鳴るし、何にも変え難い時間だった。モシュネは2人を愛しているが、同時に不安定なリアーナに対して不安もあった。彼女はのらりくらり生きているように見えるが、本当の両親に思いを馳せといる事を知っている。だがらこそ、モシュネとエドゥアルトはリアーナを引き取った時から、その穴を少しでも埋めるように、また別の意味で幸せを知ってほしいという念があったのだ。リアーナはモシュネ達を実の親のように慕っているし懐いている。だからこそ、早く本当の両親を
ぼーっとしていたのだろうか、リアーナとエドゥアルトが心配そうにモシュネをみていた。そんな2人を見てほんの少し照れ隠しで紅茶を一口飲んで、
「なんでもない」
と口にしたのだ。
「モシュネ、照れ隠しはいけませんよ」
「そーだよ母さま!」
✴︎✴︎✴︎
ひと時の団欒とエドワードから依頼を受けて2日後、リアーナはふかふかの布団で寝ていた所、窓を思い切り叩く鈍い音で目を覚ました。
半分ほど意識は夢の中の状態で窓掛けをまくると、そこにはボンヤリとしていて、口に何やら封筒を咥えているフクロウが窓に頭突きをしていた。
エドゥアルトの使い魔だ。
リアーナは窓を開けて手紙を受け取り、魔法で光の文字を浮かべる。そこには動物言語でありがとう。と記されていた。
リアーナは動物言語が得意ではないので翻訳の魔法を使い、動物言語の文字を光で出すのだ。
フクロウが飛び立ったのを確認して、ベッドに腰掛け蝋で閉じられた封筒を開ける。
「えっと、なになに」
拝啓 リアーナ・ローズブレイド司書嬢
いかがお過ごしでしょうか?
ご飯、食べてるでしょうね?
勉強はしていますか?数学をサボってはいけませんよ。
今回手紙を差し上げたのは、前回お話しした教示してほしいと言っていた人物の情報をお渡し致します。
まず、名前はアリオス・ロードナイト。19歳。高身長。
髪はヒノキのような色で長さは少々長めで恐らく何かしら結っているかと。
そのような男を見つけたら、その男の前に立ち右手を胸に当てて、少しでいいので頭を下げること。
そして相手が左手をちらりと挙げたなら、合言葉を言いなさい。
そして3日後、大時計の前で待ち合わせを取り付けてあります。学校があったりするのであれば今すぐこちらに伝書鳩を飛ばしなさい。
記憶の書庫番人
父と母より、愛を込めて。
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