第19話 アルファとオメガ

 見慣れない部屋。

 清潔なベッドの上で目が覚めた。


 マイネの身体はさっぱりと清められていたが、裸のままだった。


 部屋の扉が開き、皿を持ったルシャードが入ってくる。


「目が覚めたか。何か口にしたほうがいい。昨日は何も食べてないと聞いたぞ」


 昨日ということは、一晩が経過したことになる。


「朝ですか?」

「もう昼に近い」


 足腰に力が入らない。


 自身の二度目の射精の後から記憶が途切れていたが、何度もルシャードの白濁を注がれて、夜遅くまで続いたのを断片的に思い出せる。

 マイネの肌に鬱血が散っていた。


 ルシャードから「好きだ」と言われる都合のよい夢を見た。

 夢の中ですごく嬉しく幸せを感じた。


 マイネが上半身をゆっくり起こすと、ルシャードが背中を支えるように手を回した。

 その手は温かく、じわりと昨日の熱が蘇る。


「どこか痛いところはないか?」

「……はい」


 膝の上の布団に一口大の林檎が入った皿が置かれた。

 その林檎をルシャードが指で摘み、マイネの口元に近づけ食べるのを待っている。


「……いただきます」


 ルシャードの指ごと口に入れるしかなく、もっと淫らな行為をしたというのに、マイネは恥ずかしげに口に含んだ。


 ふっとルシャードが笑う。

 繰り返しルシャードの手から与えられる林檎をしゃりしゃりと咀嚼するマイネを、笑みを浮かべるルシャードが見ていた。


 食べ終えると、ルシャードの顔が近づき、目を閉じて軽く唇を合わさり、呆然とする。


「殿下?」

「ん?」

 うっすらと瞼を開けたルシャードの艶めかし表情に、心臓が高鳴る。


 再びルシャードのフェロモンを感じ、オメガの本能は甘く濃い発情を起こす。

 マイネの身体は、意図も容易く熱が上昇してしまう。


 ルシャードがベットに上がりマイネの腰を跨ぐと、深い口付けに変わった。


「……駄目」

 マイネが弱々しくルシャードの胸を押すと、熱を帯びた金色の瞳に射すくめられる。


「どうして駄目なんだ?」


 ルシャードが服を脱ぎながら、胸に吸いつく。

 裸になったルシャードは、マイネとは違い美しい肉体が隠されていた。


 暖かい口内に含まれて粒を潰されると、身悶えて逃げをうつマイネの背中をルシャードが抱き寄せた。


 気持ちが良い。

 こんなにも、他人に触られるのが気持ちがいいなんて知らなかった。

 それとも、ルシャードだからだろうか。


「マイネ……してもいい?」

 

 ルシャードに問われ、マイネは小さく頷くしかできなかった。


 背後に回りこんだルシャードが胡座の上にマイネを座らせる。

 背中に覆い被さるようにして、硬い器官で一気に最奥を突かれる。


「あ!」

「溶けそうに気持ちがいいな」


 発情期のオメガとのセックスは、ルシャードの理性を焼き切ってしまったか。


 うなじにキスをされて、マイネははっとした。

 発情期にうなじを噛まれたオメガは、そのアルファとつがいになってしまうのだ。


 番とは、アルファとオメガのみに発生する関係で、番になったオメガは、番のみに発情するようになる。

 番以外にはフェロモンが感知できなくなり、性行為も激しい拒絶反応により苦痛を伴うように組み込まれる。

 オメガが番になるのは生涯一人のみだ。


 一方で、アルファは噛むことによって何人でも番を待つことが可能だ。

 だが、獣人のアルファは番という存在に重きをおき、アルファでも一人だけの番を大切する。


 獣人のルシャードが誤ってうなじを噛むような真似はしないはずだ。


 ルシャードの手がマイネの腰を支え、小刻みに奥を突く。


「あぁ、噛みたい」

 ルシャードが耳元でそう囁くと、うなじを舐めだした。

 マイネは腰が動いてしまう。


「マイネ」

 名を呼ばれたマイネは答える代わりにルシャードの腕を掴んだ。


「可愛いな。腰が揺れてるぞ」

 ルシャードが強弱をつけてマイネを刺激すると、マイネは叫声を上げた。


 奥を突かれながら、耳にキスを受ける。

 長い絶頂が襲い、マイネは痙攣して意識を手放した。


 その後も目覚めると発情し、起きている間のほとんどを、ベットの上でルシャードと交わっていた。

 行為が始まるとマイネの思考は、爛れて抗えなくなってしまうのだ。


 しかし発情期が終わると、潮が引くように頭のもやがすっきりとし、三日ぶりの爽快な朝が来た。


 同時にオメガの発情期に巻き込んでしまったルシャードに罪悪感が芽生えた。

 ルシャードがどう思っているか、不安になる。

 オメガの発情期に逆らえなかっただけだと知っているのはマイネだけだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る