第18話 初めての発情期

 翌朝、目が覚めたマイネは倦怠感に襲われた。


 他の風邪の症状はなかったため、いつも通り政務宮に出勤したが、その判断は間違いだったようで、徐々に悪化して食欲もなく食堂にすら行けなくなってしまった。


 頭痛と吐き気もある。

 下腹部から全身に伝わる身体の熱さは尋常ではない。


「マイネ?」

 心配したハンが、マイネの背中に手を置く。


「その手をどけろ」

 部屋に飛び込んできたルシャードが鋭い声で威嚇した。


「もしや?」

 ハンが手を引っ込める。


「濃くなってるな」

 ルシャードが呟くと、マイネの両膝に腕を回し軽々と待ちあげた。


 マイネの全身を痺れるような感覚が走る。

 なんだ、これは。


 ルシャードを見上げると金色の瞳孔がかっと開き、マイネを抱いて部屋を出た。

 そのまま走りだすルシャードに、廊下ですれ違う政務高官が何事かと立ち止まる。

 

 マイネは「自分で歩けます」と言ったが「駄目だ」とルシャードの切迫つまった声で返され、黙るしかなかった。


 渡り廊下を進み金ノ宮に運ばれると、客室のベッドにそっと下ろされる。


「しばらく、ここで休め。薬を持ってくるから、待ってろ」

 ルシャードは足早に部屋から出て行った。


 残されたマイネがベッドで座り込んでいると、心臓が大きく二度跳ねた。

 肩で息をする。


 倦怠感と身体の熱さだけではなく何か恐ろしいものがマイネに襲いかかろうとしていた。


「え?」


 何もしていないのに下腹部で勃ち上がる。

 

 頭が沸騰するかのように理性を失くし、アルファに抱かれたくてたまらなくなる。


 オメガの発情期だ。

 もうこないものだと諦めたというのに。

 今更だ。

 

 扉を開けたルシャードが、一瞬、怯んだ足を踏み出す。


「薬と食べ物と飲み物、あと着替えも置いておくから。俺が退出したら鍵をかけろ。こっちに浴室と手洗いがあるから自由に使ってくれ」


 ルシャードはテーブルの上にバスケットを置く。


 ルシャードの匂いが鼻腔に入ると、アルファを求める欲望だけが、マイネを支配した。

 待って。行かないで。


 駄目だ。引き止めてはいけない。

 マイネは未知の発情期という恐怖と戦う。


 ルシャードが退出すると、マイネは泣きながら自慰を始めた。


 男のオメガは、初発情期で身体がすり変わる。

 二十三歳で初めての発情期を迎えたマイネの心と身体は、相当な負担だった。


 何時間経ったかわからない。

 何度か射精したが、治ることがなかった。


「マイネ。鍵をしてくれないか。そちら側からしかできないんだ」

 扉の向こうでルシャードの懇願する声がして、扉が少しだけ開く。


 マイネは、頭から布団を被り、丸くなった。

 こんな姿見られたくない。


「薬も飲んでないじゃないか……」

 ルシャードがテーブルの上を確認したようだ。


 近づく気配がする。


「来ないで!」

 

 マイネは、アルファがほしくて狂いそうだった。

 惨めだった。

 どうして、オメガで生まれてきてしまったのだろう。


 悔し涙が溢れ、マイネは嗚咽が漏れないように必死に手のひらで口を覆った。


 すると、頭に被った布団が取り除かれた。

 見下ろすルシャードの金の瞳を、マイネは泣き濡れた瞳で見つめる。

 

「マイネ」

 興奮したようにルシャードが呼ぶ。


 マイネの口を覆った手を掴んで引き寄せたルシャードは、噛み付くように唇を重ねた。

 マイネの舌をルシャードの舌がからめとり、唾液を交換する。


「マイネ」

 耳元で繰り返し囁かれる。


 ルシャードの指先が胸の突起をかすっただけで、マイネの後ろが疼き、甘い声が漏れた。


「んっ……」

  

 服の裾から手のひらが侵入し、脇腹から這うように移動する。


 切なげな眼差しでルシャードの顔を見上げると、マイネの衣服はあっという間に剥ぎ取られ裸になっていた。


 顔を沈めたルシャードが胸の粒を口に含んだ。


「あっ」

 マイネは、ひくっと痙攣する。

 初めて受ける行為は腰が砕けそうなほど甘美だった。


 舐めて転がす甘い快感に恍惚となり、オメガの蜜が足を伝い落ちた。


 寝台に背中を預け自らの両膝を抱えると、マイネは蕾を顕にする。

 すでに淫らに濡れた場所は、アルファを誘った。


 もう我慢の限界だった。

 早くとねだってしまった。


 瞠目したルシャードが、下半身のズボンを少し下ろした状態で、たぎった先端を当てる。


 触れただけで、堪らずマイネの腹に白濁が飛び、達したばかりの内の壁はルシャードを吸い付くように飲み込んだ。

 

「……狭いな」

 ぐっと腰を沈め、ルシャードはゆっくりと根元まで挿入した。


 奥を広げるように揺すられ、縋りつくようにルシャードの背中に腕を回すと、唇を唇で塞がれ、口内を蹂躙される。

 唾液が唇の端から溢れた。

 

「マイネ。俺がわかるか?」

「る…しゃ…?」

「あぁそうだ」


 ルシャードは抽挿を繰り返し、マイネは甘い声を漏らす。

 緩急の刺激に翻弄された。


 金髪の王子は鎖骨を甘噛みし、吸いつく。

 痛みが快感を呼んだ。


「マイネ」


 一気に奥を突き、ぐっと腰を押し込むようにされた瞬間、マイネの中にアルファの精液が注がれた。


 ルシャードがマイネをぎゅっと抱き寄せ、

「好きだ」

 と訴えた。


「おれ…も…」

 朦朧としながらマイネは答える。


 啄むようなキスを交わすうちに、中に入ったままのルシャードが再び硬く成長したのを感じた。


「もう一度」

 激しく、ルシャードは律動し続ける。

 


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