第14話 見つかってしまった

 獣人車の通行止めをしていたため、ヨシカに護衛されながら歩いてピレネー広場に向かうことになった。

 広場の入り口に差し掛かると人が溢れ、活気に湧いている。

 

 王立博物館の前に広がるピレネー広場は、王都の中心的場所だ。


 その広場にカラフルな簡易式の出店が立ち並び、売り物の陶器が所狭しと飾られている様は壮観だった。

 陽気な音楽が、どこからか流れてきた。


 歩けないほどの人混みではないが、避けながら進むため流れが悪い。


 オティリオが立ち止まり、店を覗いた。

 無骨なマグカップを多く揃えた店だが、一点ごとに違いがあり唯一無二を選ぶことができるようだ。


「この感じいいな」

 オティリオが顎に手を添えて言う。


 確かに王宮で使われている繊細な食器とは違う良さがあり、色も土色で素朴だった。

 

 その時、マイネの足に小さな女の子がぶつかって転んでしまう。


「大丈夫?走ったらあぶないよ」

 マイネは腰を屈め、手を貸して立ち上がらせる。

 怪我はしてないようだ。


 小さな手をマイネに向けて、女の子が泣きそうな声で言う。

「お金、落としちゃった」

 

 地面に転がるコインを拾って渡すと、女の子が「ありがとう」と言って立ち去った。


 腰を上げたマイネがオティリオのいた場所に視線を戻すと、銀髪碧眼の王子の姿はない。


 一瞬、目を離した隙に離れてしまったのか、辺りを見渡してもいないようだ。


 オティリオがはぐれたならば問題だが、マイネだけなら一人で王宮に帰ることもできる。

 探すことを諦めたマイネは、一人だけでも見て回ることした。


 そう思った途端、手首を掴まれる。

 黒いフードを目深に被った怪しい男だ。


「はぐれたようだな」


 声を聞き、驚く。

 ルシャードの声だったからだ。


「まぁいい。陶器を探しに来たのか?」


 ルシャードはマイネの手首をつかんで離さない。

 王宮に帰ったとばかり思っていた。


「……寄宿舎に何か飾れるものがないか、と思って探してました」


 マイネが返事をすると、ルシャードは頷き歩き出す。

 まさかマイネの買い物に付き添ってくれるのだろうか。


 戸惑っていると、ルシャードの足が止まり、危うく背中にぶつかるところだった。


「こういうのは、どうだ?」

 陶器のオブジェを集めた店だ。


 手のひらサイズの物から大きなサイズの物まであり、童話に登場する小人や妖精など様々なモチーフがあった。


 翼の生えた獣の陶器が、目を引く。

 マイネが手に取った。


「これって、もしかして」

「聖獣だな」


 ルシャードが素気なく答える。


 翼を大きく広げ鎮座する聖獣や羽ばたく瞬間を捉えた躍動感のある聖獣がいた。


 マイネは声を顰めた。


「今日、飛んでるのを下から見てました。あんなに綺麗だなんて驚きました」

「そうか」

「帰りも飛びながら護衛するんですか?」

「そのつもりだ」


 もう一度見られるのかと思うと、マイネは喜びを隠せない。


 人混みに押され、いつの間にか二人の距離は縮まり、肩が触れ合う。


 マイネが林檎のオブジェを手に取った。

 上の部分が蓋になって入れ物になるようだ。


 ルシャードがマイネの顔を覗き込んだ。

「マイネは甘い物が好きらしいな。ケーキを食べたのか?」


 フードを被ったルシャードは金色の瞳は隠れているが、整った鼻や唇が接近し、マイネの鼓動が鳴る。


「はい。食べました。ルシャード殿下も召し上がったことがあるお店かもしれません」


「いや、俺は甘い物が得意ではないから、行ったことがない。俺が住む金ノ宮の料理人はデザートが得意なのに作っても張り合いがないと嘆いている」


「全然食べれないのですか?」

「好んでは食べないな。今度食べに来るか?皆を呼んで金ノ宮で会食でも開こうと思ってるんだ」


「はい。その時は、ぜひ行かせていただきます」


 フードの下でルシャードが微かに笑った。


 マイネは丸い小さな壺のような花瓶を見つけ、オティリオに花瓶を勧められていたなと思い出す。


「花瓶だな。花は好きか?」

「色鮮やかな花というより緑は好きです」

「それなら、背の高い花瓶にしたら枝も生けられる。ほら、あれとかどうだ?」


 ルシャードが指さしたのは、筒状の陶器とアイアンが組み合わさった洒落たデザインの花瓶だった。 

 ルシャードが選びそうなデザインだ。


 オティリオだったら、隣の斬新なドーナツ型の花瓶を選びそうだった。


「これにします」

 マイネは、ルシャードが選んだ花瓶を買うことにした。


「あと、あの聖獣のオブジェも……」


 マイネがそう言うと、ルシャードが嫌そうな顔をした。


「マイネ!」と呼ぶオティリオの声がする。


 ルシャードの「見つかってしまったか」と残念そうに囁く声がした。

 触れていた肩が離れてしまい、ルシャードとの時間が終わってしまったことを悟った。



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